18話
今日はサリナ小隊長に朝から呼び出されて訓練場にやってきています。
なぜかというと、以前セフトホークとの戦闘中に私の眼が突然赤く染まり、信じられないほど強くなったあの出来事について詳しく検証するためです。
サリナ小隊長は既に報告書の内容から大体のアタリをつけているようなので今回はそれを試してみるという形です。
「よし、じゃあルド。竜剣を握れ」
「はい」
言われた通りに竜剣の柄を握るとどういうわけか怒られました。
「そうじゃなくて刃の部分を握れ」
「はい……はい?」
「いいから握れ」
「……了解です」
渋々竜剣の刃の部分を握ると当然血が出てくるのとともに、右目の視界がブレてきました。けれど数秒後、ブレが収まり逆にいつもより綺麗に見えるようになりました。
「ふむ、やはり当たっていたか」
「なにがです? 後で治るにせよ痛いんですけ…ど? あれ、あんまり痛くない?」
「少し動いてみろ」
言われた通り体を動かすといつもより格段に動きが良くなっているように感じました。この感覚はあの時のと同じです。
「ということはこの力は竜剣によるものなんでしょうか?」
「あぁ、そうだろうな。お前からその剣が特殊な剣と聞いていたからな、鍛冶屋のところに顔を出してみた。」
「それで店主さんはなんて言ってたんですか?」
「竜剣がお前の力を引き出している、と言っていた。私も概ね同じ意見だ」
うーん、よくわかりません。
「それっていったいどういうことなんですか?」
「ふむ、結論から話すか。ルド、その剣は魔剣だ。」
「魔剣ってなんですか?」
「意思を持つ剣のことを言う。例えばその剣は竜の意思を持っている。忌々しい剣だ」
忌々しい? 竜って信仰対象なんじゃなかったっけ?
「本来、魔剣を扱う者は魔剣の意思を引き出し、それと同時に剣の持つ特性も引き出す。例えば、火の意志を持つ剣なら火を扱えるようになる。そのまんまだな」
「じゃあこの剣は竜の力を引き出せるっていうことですか?」
「そうだな、本来なら」
「?」
「お前の場合、力が引き出されているのは剣ではなくお前自身だ」
「???」
「まぁいい。順に説明してやる」
「まず、お前のスキル。今は扱えないが、龍というのがあっただろ?」
「あ、そういえばありましたね」
結局一度も使えた試しがないので忘れていました。本当にスキルってなんなんですかね?
「龍というのは竜の上位種のことを指す」
「上位種?」
「あぁ。かつて、この世界には龍のみが存在していた」
「しかしある時、龍に他の種族の血が入った。
それにより龍とは異なる竜が生まれた。
純粋な龍でなくなった竜は龍よりもあらゆる面で劣っていたために下位種と呼ばれるようになった」
「そしてその竜の血がこの剣には含まれているということですね」
「あぁ、そこまではいいな?」
「はい。……あれ、私って龍なんですよね?」
「気づいたか。お前は上位種の方だ」
そしてこの剣は竜、つまり下位種。
「この剣より私の方が上ってことですか?」
「あぁ、恐らくお前はこの剣を世界で一番上手く扱えるはずだ。存在として格上だからな」
「なるほど。けど、私はこの剣の力を使えてないんですよね?」
「そうだ」
「じゃあどうやったら使えるんですかね?」
「いや、お前はこの剣の力を使う必要はない」
「?」
「先ほどの説明を踏まえて、竜と龍、どちらの力を使いたい?」
「強い龍の方がいいかなって思います」
「そうだな。
そしてこの剣はお前の龍の力を引き出している。
つまり、魔剣として竜の力を使うよりもお前の力を引き出させる方が強い」
魔剣の竜の力より、私の龍の力を優先ってことですか。
言いたいことは分かるんですが、魔剣ってなんだかかっこいいので使ってみたかったです。
「龍の力を引き出したいときは魔剣との直接のつながりが必要になる。
つながりを作るときはお前自身の血を使え、それが媒介になる」
「了解です」
そんなこんなで魔剣についての話も終わりました。少しお腹が空いてきたのでサリナ小隊長を昼食に誘いました。
「なら行くか」
「はい、行きましょう! ちなみに私は今お肉が食べたい気分です!」
「よし、今日は麺類だな」
「……話聞いてました?」
―――
天気も良くお散歩日和な日の午後、私はカメラを買った古代遺物店にまたやってきています。
「ありがとうねぇ、ルドちゃん。まさか定期的に来てくれるようになるとは思ってなかったよ」
「あはは、私この店の雰囲気好きなんですよ。のんびりできるって感じで」
「そりゃあ良かったけど、のんびりしたいっていうなら掃除なんかしてくれなくてもいいのに」
「これくらいしますよ。いつも値引きしてもらってますし」
カメラを買ったとき以来、最低でも一週間に一度はこの店に来ています。時々気に入ったものを買うと値引きしてくれるので、そのお礼に棚とかの掃除をしています。
「ここしばらく来てなかったけど、お仕事かい?」
「そうですね。初めての遠征任務でアベリア領まで行ってたんです」
「おぉ、そりゃあすごい。遠かったろう?」
「確かに五日ほどかかりました」
電車とか車とかが無いから時間がかかるんですよね。
「だけどアベリアに何しに行ったんだい? あそこには魔物はいなかったはずだけど」
「セフトホークという魔物が大森林から飛んできたんです。そのせいで人が襲われて」
「大森林から移動する魔物、いやだねぇ」
「そうですね」
「あの時みたいだ」
「?」
単純に移動する魔物が怖いという話かと思ったら何か私の知らないことについて言っているようです。
「あの時ってどの時ですか?」
「ん? そっか、ルドちゃんは知らないか、昔のことだからね」
「昔、まぁ昔と言っても十年前ぐらいかな。
大森林から魔物がたくさん移動してね。つまり大移動があった。
騎士団もはじめは単なる生息地域の移動だと思ってたんだけど、大森林の奥で竜が発見されて状況が変わった」
「竜を恐れて魔物が逃げ出したってことですかね?」
「騎士団もそう認定して竜の討伐をした。
その時に活躍したのが今の騎士団長とルドちゃんのところの隊長なんだよ」
サリナ小隊長! やっぱすごい人なんだな、それにシエル団長まで。
……こないだサリナ小隊長が竜を忌々しいって言ってたのはこれが関係してたりして。
もしかしたら竜剣ってその竜の血が入ってるのかな。
「魔物の移動ってのは滅多に起きないからねぇ。
昔みたいになりそうで怖いねぇ」
「何かあっても私が守りますから、任せてください!」
「あはは、ルドちゃんが守ってくれるなら頼もしいねぇ」
―――
その後、寮で文字の勉強をしているとキシリカとロゼリアが訓練から帰ってきました。
「お疲れ」
「はぁ〜、ただいま〜」
「ただいま、ルドちゃん」
帰ってくるなり二人してそれぞれベッドに倒れ込みました。
「今日は二人ともすごい疲れてるね? どうしたの?」
「久しぶりに模擬戦をしたのよ。お互い本気すぎて疲労困憊よ」
「なに、スキルとかも使ったの? はぁ、仕方ないなぁ〜。ほら、二人ともこっち来て。治癒魔法かけてあげるから」
「助かるわ。…あ、そういえばアンタに話があるのよ。今度私ん家来ない?」
「突然だね」
「うちの領土にはロゼリアん家もあるから両方寄らないかって今日話してたのよ」
「私も二人の家がどんな感じか気になるから行きたいな。楽しみにしてるね」
「決まりね。そうとなったらお父様に手紙書かなきゃ。けど、次の休暇がいつになるか分からないのよね」
「とりあえず、そのうち行くって書いとけば?」
「それもそうね」
キシリカの家って確かまた領主さんの家だったような……今度マナーの本でも買おうかな。
それに二人とも兄妹がいるって話だったからなにかお菓子でも買っていこうっと。




