17話
祭りの日から数日経ち、セフトホークの巣から出てきた遺品や遺体の整理が終わったため、亡くなった方の葬儀が執り行われました。
大勢の方の遺骨が混ざっていたりして、判別が難しかったので合同葬儀という形になりました。ここで燃やされた後、遺骨はまとめて近くの丘に埋められるそうです。
私とロゼリアは特に関わりがない方達ばかりなので会場の護衛係になりました。当たり前ですが、祭りの日とは雰囲気が異なっていてなんとなく変な気持ちです。
「これより火葬を執り行いたいと思います。各々、最期のお別れをお済まし下さい」
そんな中、キシリカは朝からいつも通り過ごしていました。いつも通り朝ごはんを食べて、笑って話して、けどそろそろ限界みたいです。
火葬の直前になって急に泣きはじめました。抑えようと思っても自然に出てきてしまったようで涙が止まっていません。
そんなキシリカの姿を見てこっちまで泣きそうです。それはロゼリアも同じだったようで、横で涙ぐんでいます。
セフトホークを倒して、キシリカにちゃんとお別れさせてあげられて良かったです。
「キシリカ、ご飯どうする?」
「もちろん行くわよ。お腹空いたもの」
葬儀も終わり、夜ご飯にちょうどいい時間になりました。キシリカはそんな気分じゃないだろうなと思いつつ一応聞いてみると普通に行くとのことです。
「大丈夫なの?」
「もう平気よ。ちゃんと全部終わらせたんだから。アイツの夢は叶えてやったし、次は私が叶える番よ」
「それならいいけど…」
「ほら、そんな暗い顔するんじゃないわよ! さっさとご飯食べに行くわよ、…親友!」
思わず私とロゼリアはお互いに顔を見合わせ、それからキシリカの方を向き笑いました。
「そうね〜、親友〜」
「親友〜、急にどうしちゃったの〜」
「な、アンタ達、からかってんじゃないわよ!?」
「いやいやまさか、からかってるなんてそんなことないよ。ね、ロゼリア?」
「えぇ、からかってなんてないわよ〜」
「アンタ達ね〜! はぁ、もういいわ。今回のお礼にご飯奢ってあげようと思ってたけどや〜めた!」
「え、ちょっと待って、いやいや確かにちょっとからかったけどそれはないよ、キシリカぁ!」
「アンタ達が悪いのよ、アンタ達がぁ!」
そんなことを言い合いながら走ってレストランの方まで向かいました。キシリカも怒ってはいたけれど笑っていて、なんだかとても楽しかったです。
―――
「お久しぶりですね、ルドさん」
「はい、お久しぶりです。リーダーさん」
葬儀から数日後、リーダーさんと都合を合わせ約束していた食事に来ました。あれから色々忙しく顔を合わせていなかったので久しぶりでもあります。
「早速ですが、私が何故ルドさんと食事したかったのかお話しておきたいと思います」
「…もしかして結構真面目な話ですか?」
「ん、そうですね」
とりあえず食事を頼んだ後、リーダーさんはすぐに本題を話しはじめました。
「…私達騎士はこの地でずっとリイキラお嬢様にお仕えしてきました。しかし今回の事件が起き、お嬢様は亡くなりました」
「ならばキシリカ様にお仕えしようとも思っていたのですが、キシリカ様は既にルドさんやロゼリア様といったご友人に囲まれていたのでそれもやめました」
「…私は王都に向かうことにしました」
「王都ですか?」
「はい。以前から誘われてはいたんです。その頃はお嬢様がご存命であったので断っていたのですが、こうなってしまった以上、ここに留まり続ける理由もなくなっていしまいました」
リーダーさんは少し悲しそうな顔で話します。恐らく栄転、ということになるのでしょうが理由が理由なのであまり露骨に喜ぶわけにもいかないのでしょう。
「そこでルドさんにはキシリカ様のことをお願いしたのです」
「?」
「お嬢様にお仕えしている傍ら、キシリカ様の成長も見守ってきました。私としてはせめてキシリカ様には元気に過ごしていただきたい」
「きっとルドさんならキシリカ様と仲良くしてくださると思っています」
「そりゃあ既に仲はいいですけど、そんなに心配なら私たちの事なんて気にせず、側にいてあげればいいんじゃないですか?」
「…お嬢様も救えなかった私にはもう、キシリカ様のことを守ることは出来ません」
騎士として役目を全うすべき時に守れなかった。代わりの盾になることも出来ず、ただリイキラさんが拐われていくのを見ることしか出来なかった。
自分が許せないと思います。しかも守らないといけないと思っていたキシリカはとっくに強くなっていて、リーダーさんは目的を全て失ってしまったのかもしれません。
「…なんというか、リーダーさんの言いたいことは分かりますし、間違ってるとも思わないんですが、もう少し自分のことを許してあげてもいいと思います」
「いえ、私はもう…」
「…私はまだ騎士になって一ヶ月ちょいってところですし、まだまだ未熟だなって自分でも思ってます。けど、キシリカとか誰かのために戦ってる自分のことが結構好きです」
「そんな私はリーダーさんのことも好きなんです。リーダーさんは優しいですし、キシリカとかリイキラさんのために本気で動いていてかっこいいと思います」
「リイキラさんを守れなかったのは確かにリーダーさんのせいもあると思います。けど、決してリーダーさんだけのせいじゃないです」
「人生って時々意味わかんないですよね。突然知らない場所に召喚されたりしますし、急にスキルとか使えるようになりますし」
「今回の事件もそれに近いんだと思います。誰が空から降ってくるセフトホークに気づけるんだって話ですよ。それでも、もしかしたらもう少し頑張れば助けられたかもしれない。」
「そのもう少しに対する責任はその場に居合わせた皆のものです。だからリーダーさんだけが後悔するものではないんです。皆で後悔するものです」
私みたいな部外者ができる励ましはこのぐらい。知らないことや感情を外からとやかくは言いたくない。
「だから私の好きなかっこいいリーダーさんは、自分のことを嫌いにならないでほしいです」
一通り話し終えた辺りで料理が運ばれてきました。異様な雰囲気にびっくりしたのか店員さんがお皿を落としそうになっていて申し訳なかったです。
「…ルドさん。………私も自分のことを好きになっていいんでしょうか?」
「それは、リーダーさん次第だと思います」
「…お嬢様のことを昔からずっと見て来ました。妹のように思っていましたし、お嬢様も私に懐いてくれていたと思います」
「だからお嬢様が最期に言っていた言葉が忘れられません。私に向かって、助けてと何度も何度も叫んでいました」
「…きっと私はこれからも自分のことを責め続けると思います。けれど、私のことを好きと言ってくれるあなたのために私も自分のことを好きになっていきたいです」
「結局、硬い話になってしまいましたね。温かい内に料理、いただきましょうか」
「そうですね。役に立てたなら良かったです」
「はい、それはもう十分に。やはり私はあなたのことを信頼していますし、好きなようです」
その後は他愛のない話をしながら料理を楽しみました。会計を割り勘で払おうとしたら、話のお礼にと奢ってくれました。
「すみません、奢ってもらっちゃって」
「いいんですよ、お礼ですから。それに一度後輩に奢る、というのをやってみたかったんです」
「なら遠慮なく」
店を出てなんとなく解散っぽい雰囲気になりました。
「リーダーさんっていつまでここに居るつもりですか?」
「少なくとも貴方がたが帰るまでは居ますよ」
「なら良かったです。まだたくさん話したいことがあったので」
「えぇ。私もです」
あいさつも済まし帰ろうとした時、一つ返事し忘れていたことに気づきました。
「そういえばリーダーさん、キシリカのこと頼めないかって言ってましたよね?」
「はい」
「そのことなら任せてください! なんてったって親友なんで!」
「はい、任せました。…その、最後にもう一つ頼みごとがあるのですが、いいでしょうか?」
そう言うとリーダーさんは少し言い淀みながら小さな声で話します。
「…私のことも名前で呼んでほしいのですが、いいでしょうか?」
「それぐらいなら、もちろん! …ってリーダーさんのお名前聞いてなかったですね」
「シニアです」
「じゃあシニアさん、ですかね」
「…欲を言うならシニア先輩、とかだめですかね?」
「別にいいですよ、シニア先輩」
先輩と呼ぶと露骨に笑顔になりました。先輩呼びに憧れていたのでしょうか?
「…本当に、あなたには色々頼んでばかりですね」
「だったら、これからはたくさん頼らせて下さい。王都に行っても手紙とか出しますよ、シニア先輩」
「…ふふ、そうですね。たくさん頼ってください。あなたからの手紙、楽しみにしています」
―――
シニア先輩と食事をしてから早いもので、一週間とちょっと経ちました。周辺環境の経過観察も終わり、今日は前線都市に帰る日です。
「キシリカ〜、荷物多くない?」
キシリカの荷物は私達の二倍ぐらいの大きさになっています。どこでそんなに拾ってきたのでしょうか?
「色々貰い物があるのよ。昔からの知り合いとかに久々に会ったりしてたから」
「あ〜、なるほど。人気者は大変だね。私達先に荷物積んでくるね」
「ん、いってらっしゃい」
こうしてロゼリアと二人で馬車に荷物を積みに行きました。馬車の止まっている場所に着くと見送りに来てくれた人が大勢集まっていました。
「ルドくん、ロゼリアくん。おはよう、昨日はよく眠れたかい?」
「はい、昨日はありがとうございました」
「本当はもっと盛大なものにしたかったんだがね」
まず初めに領主さんに話しかけられました。なんの話かというと、昨日私達のために行われた送別会のことです。
荷物を載せた後、集まった人達と話しているとキシリカが両手にいっぱいの荷物を抱えながらドタバタと降りてきました。
「ごめん、遅れたわ」
「うん、お疲れ」
キシリカも揃ったので皆さんが少し真面目モードになってきました。横並びになって領主さんが代表として話すようです。
「ごほん、今回の事件において貴公らの活躍により事態は迅速に収束した。これについて住民を代表して感謝を述べさせてもらう。本当にありがとう」
その言葉を皮切りに皆さんが揃って頭を下げました。なんだか少し恥ずかしいです。
「今後君たちの身に何かあったら全力で助けることを誓う。ぜひとも頼ってくれ」
「うん。おじさん、皆、またね」
領主さんに対してキシリカが返事をしました。
思い返してみれば色々ありました。事件が終わった後もいろんな人の仕事を手伝ったり、結界術師の方に結界を張り直してもらったりしていました。最終的に皆笑顔で帰ることが出来て本当に良かったです。
そんな感じで少し感動しながら話を聞き終わると、脇から住民の皆さんがなにやら籠を持って出てきました。
「ほら、これ帰りの馬車で皆で食べて。採れたてだから」
手渡された籠の中を見ると、そこには沢山の野菜がありました。
「皆のおかげで安心して畑仕事が出来るようになったんだよ。だからこれはほんのお礼だよ」
「ありがとうございます! 美味しそ〜!」
こうして最後に嬉しい荷物も増え、いよいよ馬車に乗り込みました。皆さんが外から手を振ってくれています。
「ありがとうございました〜!」
「ルドさーん、お手紙待ってますよ〜!」
「シニア先輩、また会いましょう!」
「キシリカくん、また来てくれよ!」
「おじさんもお元気で!」
「ロゼリアちゃん、また仕事でも手伝いに来てね!」
「は〜い!」
馬車が出発し、見えなくなるまで手を振り続けました。こうして私達にとって初めての遠征任務は大成功で終わりを迎えました。
―――
「いやー、もらった野菜美味しかったね」
「そうね、もう少し欲しかったわ」
「二人はどれがいちばん美味しかった? 私はトマト。あれあんまり酸っぱくなくて美味しかった」
「うーん、私はそうねぇ」
あれから五日ほど経ち、騎士団に帰ってきました。今は荷物の整理をしながら野菜の感想を言い合っています。するとドアをノックされました。
「私出てくるね」
「頼んだわ、ルド」
ガチャ、とドアを開けるとそこには書類を持って仁王立ちのサリナ小隊長が立っていました。
「お久しぶりです、サリナ小隊長。」
「あぁ、久しぶりだな。帰ってきて早々だが今回の件について報告書をまとめておいてくれるか?」
「了解しました。用件はそれだけですか?」
サリナ小隊長から紙を手渡されながら尋ねます。
「ルド、お前シエルからもらった奥の手使っただろ?」
「え、あ、はい」
「それに伴う地形への被害、嘔吐剤とかその他諸々についての報告書も追加だ。あと、手紙に書いてあったお前の変化についても報告書にまとめておいてくれ」
「……はい」
「用件はそれだけだ。ゆっくり休め」
サリナ小隊長は私の分だけバカみたいな量の紙を渡した後、ドアを閉めて去っていきました。こんなんでゆっくり休めると思ってるんですかね。
紙の束を持って部屋の奥に戻り、キシリカとロゼリアの分の紙を渡しました。すると、ロゼリアが私の持つ紙の束を見て聞いてきます。
「ルドちゃん、それ一人分?」
「うん。…私が使った奥の手とか嘔吐剤の影響、あとは私の眼が赤くなったあれについてまとめてだって。あはは、無理」
ベッドに紙を持ったまま倒れ込んで絶望しているとキシリカとロゼリアが嬉しいことを言ってくれました。
「さすがに可哀想だし、手伝うわよ。アンタまだ字を書くのも練習中でしょ?」
「早く終わらせちゃおう? ね?」
「うぅ〜、ありがとう。さすが親友。」
世の中思い通りにはいかないようです、残念。




