14話
領主さんからの祭りを開催したい、という依頼を引き受けた私たちは早速行動を始めました。
キシリカは舞の感覚を取り戻すために練習へ、ロゼリアはリーダーさん達とさらに細かい作戦立案、そして私は。
「もっと背筋を伸ばして!」
弓矢を射てるようになるために、弓の得意な騎士さん達に指導を受けていました。
「ハァ…ハァ。」
「色々言いたいことはあるけど、引く力だけは一丁前だね。」
「し、身体強化使ってるので。」
「身体強化、ねぇ。私はスキル持ってないから感覚が分からないのよね。どういう感じなの?」
「俺も気になるなぁ。どんな感じなんだ?」
他の騎士さんも気になったのか寄ってきたので説明することにしました。
「私もあまり上手く説明できないんですが、そうですね。普段生活してるときに使う力と、例えば重い物を持つときに使う力って違うじゃないですか?」
「そりゃあそうだ。」
「身体強化を使うと普段の生活に後者の力が自然と使えるようになるって感じですかね。」
「常に力入れてるってこと?」
「そうですね。そんな感じです。」
「それ、疲れるだろ?」
「確かに最初は疲れました。」
それに最初の頃は力加減がわからず、物を色々壊しました。本のページを捲ろうとしたら破いてしまったり、ドアノブを握ったらグシャッといったことも。
「大変なんだな。」
「まぁ、はい。けど、そんなことよりサリナ小隊長の指示の方が大変でしたね。これだけ大変な身体強化を二十四時間発動しっ放しにしろとか言ってくるんで。」
「…サリナ小隊長って遊撃小隊の?」
「はい。」
「噂には聞いてたがすげぇな、まじで。」
「噂になってるんですか?」
聞くと、サリナ小隊長は騎士団でシエル団長の次に有名な人らしく、いつも最初に突っ込んでいっては無傷で帰ってくるから不死身だのなんだの言われてるみたいです。
「…実際、そう言われても仕方ないくらいデタラメな人ですよ。」
「スキル持ちの目から見ても、やっぱそうなんだな。」
そんな話をしていると、横で静かに話を聞いていた弓の先生が立ち上がりながらこう言います。
「へ〜、まぁそんなスパルタな人のいるところの隊員なら、この程度の訓練、大したことないでしょ?」
うっわぁ、笑いながら言ってるけど目が笑ってないんですけど、この人。サリナ小隊長の話なんてしなきゃよかった。
その後も夕暮れまで訓練を続け、牽制ぐらいにはギリギリ使えるだけの技術を身に着けることが出来ました。明日にはセフトホーク討伐作戦を決行するとのことなので早めに解散することになりました。
皆さんにお礼を言ってから夕食を食べるために屋敷に戻ります。部屋に入ると、既にキシリカとロゼリアは席に座っていました。
「ごめん、遅れた。」
「平気よ、ルドちゃん。弓の訓練はどうだった?」
「そこそこ、かなぁ。本当に基礎の基礎ぐらいは扱えるようになったと思う。」
「それは良かった。こっちも順調だったわ。後で部屋に戻ったら作戦の細かい内容は伝えるね。」
「うん、ありがとう。キシリカは?」
キシリカはリイキラさんが亡くなったと知ってからあまり笑わなかったのですが、久々に笑いながら話し始めました。
「…久々に踊って、楽しかったわ!」
「良かったね。」
「えぇ。本当に。」
そうこうしていると夕食が運ばれてきて、皆そちらに集中し始めました。それからも暗い雰囲気になることなく、いつものキシリカが戻ってきて安心しました。
夕食を食べ終わるとまた温泉に入り、汗を流してから部屋に戻りました。明日の作戦内容を聞いた後、寝ようとするとキシリカが横になりながら話しかけてきます。
「アンタ達、起きてる?」
「うん、どうしたの?」
「眠れないの?キシリカちゃん。」
「少し真面目な話なのよ。いいかしら?」
「いいよ。」
キシリカは少しの間を空けてゆっくりと話し始めます。
「最近の私、変だったでしょ?」
「最近って言っても昨日だけだけど。」
「そこは気にしなくていいのよ。…迷惑、掛けたわよね。ごめんなさい。」
「私は、迷惑っていうより心配だったわよ。キシリカちゃんはいつも明るい人だから。」
「自分で思っていた以上にリイキラが死んだのがショックだったのよ。私が騎士団長を目指しだしてからなんとなく気まずくてリイキラのこと避けてたから、別にリイキラが居なくても平気だと思ってたのに。」
「気持ちは分かるよ。私も、会えなくなってからようやくその大切さに気づいたもん。」
「ルドの家族?」
「結局伝えたいことも伝えられずに離れ離れになっちゃったからさ、後悔してるんだ。だから、気持ちはわかるよ。むしろ一日かそこらで立ち直ってるキシリカのことを尊敬してる。」
「…私もまだリイキラとしたいこと、伝えたいことがたくさんあったのよ。本当にたくさん。」
また少し沈黙してからキシリカは話を再開します。
「私にとってのリイキラは、初めての友達、親友、憧れで、家族みたいに大切な人だったから。だから力を貸して、二人共。」
「「もちろん。」」
「ありがとう。」
―――
翌朝、討伐作戦決行日。私は三人の中で初めに起きました。思い返すとこのアベリア領に着いてから色々ありました。
領主さんからの衝撃的な話に始まり、キシリカがショックを受けたり、セフトホークに首を掴まれ落とされたり。他にも温泉で昔の話をしたり、弓矢の訓練をしたりしました。
驚きなのはこれら全ての出来事がたったの二日間で起きたことだということです。それどころか昨日は弓矢の訓練で一日を終えたことを考えると、ほとんど初日に起こったことだと言えるでしょう。もはや領までの移動時間より短いです。
そんなことを考えながら、私は武器や道具の点検をして二人が起きてくるのを待っています。
「いい感じかな。」
今日はようやく竜剣のお披露目です。討伐難易度や色んな事情の話は別として、楽しみです。
「何よ、もう起きてるの?ルド?」
次にキシリカがゆっくりと起き上がってきます。
「おはよう、キシリカ。」
「えぇ、おはよう。装備点検中?」
「そうそう。今日は弓矢もあるし装備多いからね。」
双剣、弓矢、使うか分からないけど嘔吐剤、それとシエル団長から貰った奥の手。今までで一番重装備です。
「私も準備しないとね。あ、ロゼリアのこと起こす?」
「うん、起こしてくれる?」
「はいはい。ロゼリア、起きなさい?」
「あら?おはよう、二人共。」
おはよう、と言っているものの、まだ眠いのか目を閉じたまま喋っています。
「ほら、早く朝ごはん食べに行こ。」
「今日は何が出るかしらねぇ。」
「スープ飲みたい。」
他愛もない話をしながら朝食を摂り終え、支度をした後、騎士の皆さんと合流しました。
「おはようございます、皆さん。」
「おはようございます、ルドさん。よく眠れましたか?」
「もちろんです。ぐっすり眠れました。」
「なら良かったです。睡眠は大事ですから、特にこういう時は。」
リーダーさんも昨日までと変わらない様子です。少し話し込んでいると、昨日弓を教えてくれた先生が近づいてきました。
「矢筒、もう少ししっかり固定したほうがいいわよ。あなたは特に動き回るだろうからね。」
そう言いながら先生は紐をきつく縛り直してくれました。
「すいません。ありがとうございます。」
「別に、礼には及ばないわよ。それより、準備はできてるんでしょうね?」
「それなりには、ってところですかね。」
「万全じゃないと困るんだけど。」
「まぁまぁ、ルドさんも緊張しているでしょうし。」
押しが強い先生をリーダーが止めてくれました。
「リーダー、あなたがこの子の気を引き締めないでどうするのよ?」
「心配いりませんよ。自然と気は引き締まるものですから。」
こうして色々話しているとキシリカが大きな声で騒いでいる声が耳に入ります。
「だーかーらー!頭撫でんじゃないわよ!」
「えー、そう言われても撫でたくなるものは仕方ないじゃないですか!」
「う〜ん、キシリカちゃんも困ってるみたいだから程々にしてあげてくれると助かるんだけど。」
アベリア領で私達が初めて会った騎士さんが、キシリカの頭を撫でて、それをロゼリアが諌めるとかいう面白い状況になっています。
「昔のキシリカ様は本当にちっちゃくて可愛らしかったんですよ!背もこんぐらいで!」
「何回その話しすんのよ!あと撫で続けるな!」
ふと横を見るとリーダーさんも苦笑いしています。
「すいません、騒がしくて。」
「いいえ。あれぐらいでいいと思いますよ。楽しそうで何よりです。」
「…そうですね!」
―――
色々と話が一段落した頃、リーダーさんの号令で真面目に作戦についての話を始めました。
「今回の作戦ではここに居る二十四名で行動にあたります。人数も少なく、厳しい戦いになると思われますが私達なら勝てるでしょう。今回は強力な助っ人が三人も居るんですから。
リイキラお嬢様の仇を取るために、祭りを開催するために、各員全力を尽くしましょう。」
「「「オー!!!」」」




