13話
―――(人名)、という表記はその人物の視点に移ったことを表しています。
分かりにくいかと思われますがご理解お願いします。
―――キシリカ・ソレイユ
リイキラに初めて会ったのは、確か舞踏会でだったかしらね。
「はじめまして、リイキラ・アベリアっていいます。よろしくね、キシリカ。」
お父様の後ろにピッタリくっついて離れようとしなかった私とは対照的にリイキラは自信満々といった具合に挨拶をしてきたわ。
変なやつだと思ったわ。初対面のくせに距離が近いし、物怖じしないで大人相手にも自分の意見を言ってたのよ。
「キシリカは、何になりたいの?」
「わかんない。」
「えー、それじゃつまらないよ。」
同年代の女の子がリイキラぐらいしか居なかったから舞踏会で集まった時は自然と一緒にいるようになったわ。
「私はね、祭りで舞を踊る人になりたいの!」
そう言ったリイキラの目は輝いていたわ。だからその夢を応援したくなったの。
私達はつまらない舞踏会を抜け出してよくバルコニーか大きな庭で遊んでいたわ。抜け出すたびに怒られていたけどリイキラと一緒に何かをするのは楽しかった。
「あの星、なんて言うと思う?」
「知らなーい。」
「ふふっ、私も知らない。」
「リイキラも知らないんじゃん。」
「けど、他の星はキシリカより知ってるよ。」
「絶対そんな事ない。」
庭で二人並んで横になってよく星空を眺めたわ。星座はよく知らなかったから結局月ばっか見てたわね。
「キシリカ…なんか最近、私に似てきた?」
「き、気のせいよ!」
いつの間にかリイキラに憧れるようになって喋り方とか髪型も真似るようになったわ。まるでリイキラの妹みたいになってたわね。
そのせいでうちの妹達には微妙な反応されたりしたけど些細な問題ね。
「キシリカ、私が踊る舞を見せてあげる。」
とある舞踏会の日、そう言われて庭でリイキラの舞を見たことがあったわ。
リイキラは舞踏会で踊ってる奴らなんかとは比べ物にならないくらい綺麗に優美に舞を踊ったわ。今でも鮮明に思い出せる。
「私、綺麗でしょ?」
「…うん。」
「キシリカにしては素直ね。まぁ、それだけ私が魅力的だったってことかしら?」
「うん。」
「え。…そう。なんか照れるわね。」
その日以来、私がせがんだのもあって舞踏会の日にはリイキラに舞を教えてもらうようになったわ。
「キシリカ!足バラッバラ!」
「そんなこと言っても出来ないのは仕方ないじゃない!」
「仕方ないじゃないから。やってないだけだから。ほら、もう一回。」
いつまで経っても上達しない私にリイキラは諦めずに懇切丁寧に教えてくれたわ。
そんな日々が数年続いたわ。そして、一年前とある事件が起きたの。
「キシリカ、逃げて!」
「リイキラこそ早く逃げなさいよ!怪我したらどうすんのよ!」
舞踏会の最中、何処かから侵入した魔物が庭に居た私とリイキラを襲おうとしたの。けど、
「ハァ!」
「え?」
「大丈夫か、君達?怪我はないか?」
騎士が現れて私達を助けてくれた。その人は騎士団長、シエル・アルテミスさんだった。
「は、はい。」
「なら良かった。今日の任務で一匹取り逃がしたのを追っていたんだが、危ないところだったな。すまなかった。」
「だ、大丈夫です。危ない所を助けて頂きありがとうございました。」
「何かあったら騎士団に言ってくれ、それじゃ。」
誰よりも華麗に舞って笑顔で人を助ける騎士団長に、私は目を奪われて、思わずこう口走ったわ。
「あ、あの、私も騎士になれると思いますか?」
「それは、君次第だ。…また会おうな。」
そう言って騎士団長は離れていった。
「キシリカ、騎士になるの?」
「うん、今決めた。私、騎士になる。いや、騎士団長になる!」
そう宣言した時、私の体は輝いて、次の瞬間には髪や目は赤色に染まり炎が体から出るようになったわ。
「キシリカ、その体!?」
「これなら私、本当になれるよ。騎士に!」
これを聞いたリイキラは嬉しそうに、でも同時に寂しそうに笑って私のことを見ていたわ。
―――ルド・エタニティ
「私はね、リイキラと騎士団長の二人に憧れてたのよ。けど結局、私は騎士を選んだ。」
「後悔した?」
「してないわよ、楽しいもの。それに、人にはそれぞれ適したことがあるはずよ。私はそれが騎士なの。まぁ、リイキラには少し申し訳ないけどね。」
「キシリカちゃんはそんなふうにスキルが出てきたのね。私とは全然違う。」
確かに。通常のスキルの獲得のしかたを初めて聞いた気がします。キシリカの場合は決心したから、でしょうか。
「ロゼリアはどんなだったのよ?」
「私は寝てるときにいつの間にかって感じよ。」
「何よそれ、そんなことある?」
「私にもよく分からないわよぉ。ルドちゃんは?」
「え。…ロゼリアと似た感じかなぁ。」
「かなぁって、自分のことでしょ?」
「あはは。…そのうち、ちゃんと話すよ。」
「で、話を戻すとね。私にスキルが出てからもリイキラとは仲良かったのよ。なんなら今回の祭りに行くために休暇を取ろうと思ってたぐらい。」
最近のキシリカはなんかソワソワしてると思ってはいましたが納得です。
「けど、この惨状よ。最悪ね。で、こうなったからにはリイキラの夢を代わりに叶えてあげたい。
だからおじさんに話しに行ったんだけど、おじさんの言うとおりよね。私の考えが足りなかったわ。」
キシリカは悲しそうに話します。出来ることなら私も協力してあげたいですが、いい案が浮かびません。すると、ロゼリアが口を開きます。
「私、少し思いついたんだけど。」
「え?」
そう言うとロゼリアは話し始めます。
「領主さんの話って要は、セフトホークが危ない、セフトホークを倒してほしいって話でしょ?なら、倒しちゃえばいいのよぉ。」
「…それが難しいって話でしょ?」
「けど、倒せたら問題解決じゃない?」
一見支離滅裂なようで一番現実味のある案です。私達が討伐に成功さえしてしまえば祭りだろうが何だろうがドンとこいです。
「確かに。けど、どうやって倒そう。」
「今日遭遇したんでしょ?どうだったのよ?」
キシリカが聞いてきます。思い出したくもないボロボロ具合でしたが思い出して話します。
「え、そんな強かったの?」
「強いは強いんだけど、どっちかというと空飛ばれる方が厄介かな。対抗手段もないし、今日みたいに掴まれるとほぼ即死だし。」
「ルド、弓とか使える?」
「え、無理。」
「なら、ルドはどうするのよ?」
「どうしようもない。空を飛ばれたら終わりだね。」
「アンタねぇ。」
キシリカはジト目でこちらを見ていますが無理なものは無理です。そんな話をしていると、もう良い時間になったので温泉を上がることを提案し、続きはまた明日話すことに決めました。
―――
私達に用意された屋敷の部屋に戻り、騎士団に居る時と同じ寝方で三人並んで川の字になって寝ました。そして朝になり、ロゼリアに起こされ顔を洗い朝食を食べ、会議室にやってきました。
中に入ると、既にリーダーさんや騎士の皆さんは揃っていました。遅れたかと思い、謝りましたが
「私達が早く来すぎてしまっただけです。気にしないでください。」
と言われ安心しました。程々に皆さんと挨拶を済ませるとリーダーさんの号令でセフトホーク対策の会議が始まります。
「さて、ルドさん達の活躍により川の何処が堰き止められているのか判明しました。」
机の中心に広げられた地図を指差しながらリーダーさんは続けます。
「セフトホークは小さいアクセサリーが流されてしまわないように、川が細い上流を堰き止めます。その結果、今回の場合は山の頂上が見えてしまうような位置が堰き止められてしまいました。」
セフトホークの巣は頂上にあります。理想は頂上でセフトホークの気を引き、堰き止め部分の貴金属をバレないように回収することだったのですが、今回はそれはできません。
「そのため、セフトホークの討伐、そして貴金属の回収を同時に行うというのが実際の作戦になると思われます。次に討伐にあたっての人数配分や装備について、何か意見はありますか?」
「はい、よろしいでしょうか?」
ロゼリアが手を挙げ、話します。
「以前の報告にあったように十羽程度の雛が居るのだとしたら、そちらは皆さんにおまかせすることになるかもしれません。」
騎士の皆さんの方を向きながら続けます。
「昨日セフトホークの成鳥に遭遇しましたが、油断をすると私達ですら即死しかねません。実際にルドちゃんは水魔法と治癒魔法、それに身体強化がなければ高所からの落下で死んでいました。
このように一羽ですら苦戦しているので、二羽居ることを考えると私達に皆さんを助ける余裕はありません。成鳥の対処で手一杯です。」
「だから、私達に雛を任せたいと。」
「はい。ですがそれも難しいですよね。」
いい案が誰も思いつかないのか、この案を最後に会議は止まります。
「んー、いいですか?」
案ではないですが懸念点があるように感じたので手を挙げます。
「そもそも、今の話って成鳥と雛を引き離せること前提の話ですよね?普通、生き物って子供が危機に直面していたらそちら優先で対処すると思うんですが。」
「…確かにそうですね。なら何か成鳥と雛を引き離すための案も必要ですね。」
「それなら、貴金属を盗むってのはどうかしら?」
横にいたキシリカが口を挟みます。
「貴金属集めるのが好きなら、盗まれたら怒って追いかけてくるんじゃないかしら?」
「あぁ、いいね。ていうか何でセフトホークって貴金属を集める習性があるんでしょうか?」
「それに関してはいくつか説がありますが、有名なものだとメスへのアピール、強さのアピール、とかですかね。」
あ〜、クジャクみたいな。けど、貴金属のアクセサリーとか人工物でアピールするの変な気が。何か人間とセフトホークの順番が逆な気がします。そんなどうでもいいことを考えている間にも話は進んでいきます。
「けど、それだとオスしか追いかけてこないんじゃないの?」
「番になったメスは、貴金属を共有財産として認識するので怒って追いかけてくると思いますよ。」
「なら良さそうですね。作戦の決行時間になったら私達スキル持ちは貴金属を盗んで離れる、親と雛を十分な距離引き離せたらそちらは雛を討伐し、貴金属を回収する。こんな感じでしょうか。」
「そうですね。作戦自体はそれで平気でしょう。討伐できたら、ですけれど。」
色々考えたものの結局セフトホークを確実に討伐するための案は出ず、このままだと机上の空論で終わります。するとロゼリアが、
「こうなったら純粋に訓練して出来ることを増やすべきなのではないでしょうか?例えば、ルドちゃんが弓矢を扱えれば空を飛ばれても最低限の牽制はできるようになります。
そのような感じで全体の強化が図れれば先程の作戦案も現実的なものになると思います。」
と言いました。確かに強さが足りないなら強くなればいいというのは正しいと思いますが、出来ればすぐにでも討伐したい状況でそんな悠長なこと出来るでしょうか?って、あれ?
「というか、訓練している内に結界術使いの方が到着するのでは?そうしたらセフトホークを倒す必要が無くなりますよね。結界の張り直しができますし。」
確かあと三日程で到着するはずです。何かアクシデントがあれば話は別ですが。
「…そうですね。遅くとも一週間以内には到着するでしょうし、打開策がない以上結界の張り直しを優先するというのも選択肢の一つとしてありえます。」
「ん〜、いろいろあって訳わかんなくなってきました。」
「はい。そろそろ潮時でしょう。どの選択肢を取るにしても、一度領主様に指示を仰ぐべきです。」
そう言ってリーダーさんは最後に会議の内容について纏めた紙を配ってくれました。話しながら書いてくれていたんですね。内容はこんな感じです。
討伐作戦について、討伐隊は二つに分かれます。片方は雛の討伐、もう片方は親の討伐。親と雛を引き離すために貴金属を盗むことが必要です。
問題点は二つ。一つは訓練が必要になること。もう一つは訓練をするには時間がかかるということ。
問題点を解決するために、あえて結界術使いの到着を待つことも候補に挙がります。
紙について確認しながら領主さんの判断を仰ぐために執務室に向かいます。会議途中、普段なら率先して作戦を決めたがるキシリカが控えめだったので少し心配です。
部屋に着き、ノックをすると返事が返ってきたのでゆっくりと扉を開き、中に入りました。
「何かいい案でも浮かんだか?」
「少し相談事がありまして、その、確実にセフトホークを討伐するには多少時間がかかるということがわかりまして。
結界の張り直しをいっそのこと待つのはどうか、という提案なのですが。」
話しながら紙を手渡し、目を通してもらうと領主さんの目が鋭くなりました。
「今すぐの討伐は無理なのか?」
「…騎士の皆さんのこともありますので、私だけの意見で言うのはあれですが、相当頑張らないと無理だと思います。」
「逆に相当頑張れば可能なのか?」
「今、懸念しているのは確実に、安全に討伐出来るのかという点です。そこを度外視すれば、あるいは。」
「…実は今、考えていることがあってだな。祭りを開催したいと思っている。」
「え!?」
領主さんのこの言葉に一番驚いたのはもちろんキシリカです。
「おじさん、本当に言ってる?」
「もちろん。キシリカ君にはあいつに舞を届けてやってほしい。」
「…ありがとうございます。」
「あの、水を差すようであれなんですが。祭りを開催するにしても急ぐ必要はないのでは?」
そう言うと、領主さんは少し涙を浮かべながらこう言います。
「確かに、そうだな。例年なら日程をずらしていただろう。だが今年はできない。リイキラの誕生日だったんだ。馬鹿みたいだろう。もうあいつはいないのに、まだこだわっている。」
「そんなことは…ないと思います。それに…祭りを開催することが領主さんの依頼なら、やりましょう!私達はそのために来たんですから!」
領主さんは少し笑い、キシリカとロゼリアも笑いながら決心を固めます。
「ルドの言う通りよ!全力で祭りをやり遂げましょう!」
「…よろしく頼む!」




