12話
キシリカを見送った後、残された私達はセフトホークの対策のためにまず状況を見に行くことになりました。
「その、見に行くとは言ったんですけど、流石にセフトホークについて何も知らずに行くのは自殺行為かなーって感じがするんですけど。」
「ある程度は騎士団の資料を覗いて知ってるけど、セフトホークの習性とか知らないものねぇ。」
「そう仰ると思い、こちらで資料を用意させてもらっています。既に体長などはご存知のようでしたが。」
先程から私達の疑問に答えてくれている騎士のリーダーと思しき人が周辺の地図とともに数枚の資料を渡してくれます。
「ありがとうございます。」
資料に書かれているセフトホークの生態は興味深いものでした。
セフトホークには一つ、特徴的な生態があります。それは貴金属や宝石を集めるという習性です。領主さんの話でもありましたが貴金属を身に着けていた場合、どのような生物であっても襲いかかりそれを奪うそうです。
その際、貴金属を身に着けていた生物がセフトホークよりも弱いものであったらそれを貴金属とともに巣へ持ち帰り食料にするとのことです。
「貴金属を身に着けていなかったらスルーされるんですかね?」
「はい。その場合が多いようです。今外に出ている領民にも貴金属や宝石を身につけさせないことだけは厳守しています。」
「なるほど。」
その後もその習性についての記述は続いています。
セフトホークは貴金属を持ち運ぶ際、自分より何倍も小さな貴金属を落とさないように下の嘴にある窪みに収納します。
つまり、地球の生物でいうとペリカンみたいな嘴をしているそうです。果たしてそれはホークと呼んでいいのでしょうか。
そうして運んだ貴金属は口の中で汚れてしまうため巣の近くの川に移動し、貴金属が流れてしまわないように土を盛り上げて水を堰き止めた後にそこで洗うようです。
この自然のダムのようなものを作られてしまうと水の流れる量が著しく減衰し、下流に住む魚の数も減ったりしてしまうなど、セフトホークは様々な悪影響を与えています。
他にもセフトホークについて気をつけるべき点や遭遇してしまった時の対処法などを確認し終えるとリーダーさんが具体的な調査内容を話してくれます。
「今回の調査では水を堰き止めている所、そして巣の中にある貴金属を保管している場所が何処か、これらを突き止めて頂きたいです。」
「分かりました。」
「こちらではセフトホークが結界内に侵入してくるかどうか最大級の警戒をしながら帰還を待っています。もしなにかあれば笛を吹いて知らせるので帰ってきてださるようお願いします。」
「はい。ここにはキシリカがいるので何かあったらキシリカにも頼ってください。」
「分かりました。ではご武運を。」
―――
騎士さん達に見送られた後、山の案内係となった一人の騎士さんとともに山の麓までやってきました。
「騎士さん。ここが麓ですね?」
「はい。ここからはいつセフトホークに見つかってもおかしくありません。気をつけてください。」
「了解です。」
ついてきてくれている騎士さんは山の頂上にある巣まで一度辿り着いたことのある人で案内係としてこれ以上ないです。
「まずは川を堰き止めている所を探しましょう。とは言っても水の流れる量が減ってある所を辿るだけなのでそれほど難しくありません。ついてきてください。」
方向音痴にはそれすら難しそうだなぁと思いつつ騎士さんについていくとだんだん川の幅が狭くなるとともに木の本数は減ってきます。
「後どれくらいだと思います?」
一応巣に近づいていることも考え、小声で話しかけると小声で答えてくれます。
「セフトホークが頂上に巣を作っていることから堰き止めている所も頂上に近いとは思ってはいましたがこれは予想より遠いですね。」
それは残念と思い、また歩き出そうとしたときロゼリアが静止しています。
「二人共ストップ。」
「ん?セフトホークでもいた?」
「えぇ、いたわ。」
「え。」
「上、見てみて。」
そう言われ上を見上げると上空にカラスとかより明らかに大きい鳥の影が見えました。その異様な光景に思わずズザザッと音を立てながら木の陰に入ります。
「やばくない、あれ?」
「まずいわねぇ。」
「お二方、木の陰に隠れつつしゃがんで進みましょう。時間は掛かりますが安全優先です。」
「了解。」
十五分ほど地道に歩き続けると川の上流に土が変に盛り上がっている場所にやってきました。
「もしかしてあれ?」
「はい、ほぼ間違いありません。」
「近くで見てみましょう。」
近くに駆け寄り確認するとその土は水の勢いを殺すように川の真ん中に積もっていてセフトホークの仕業であることは疑いようがありません。
「あったね。一つ目。」
「はい。地図に場所を記録しておきましょう。」
そうこうしていると突然自分達の真上から羽ばたく音が耳に入ります。私達は全員それをセフトホークの羽音だと確信し無言で辺りの草むらに身を隠します。
ロゼリアが近くの草の中にダイブする中、私は騎士さんを抱えて反対側の草むらに隠れます。ほとんど押し倒すような体勢になりましたが、身体強化と治癒魔法が使える私が盾になればいいという判断です。
「クルル…クル?」
セフトホークは土の真横に着地すると何か違和感があったようで辺りをキョロキョロと見回し始めます。足跡や土を触ったときの僅かな変化を感じとったようです。
そのままセフトホークは木の陰、そして草むらという二段階の隠れ方をしている私の方に顔を覗かせます。私の下にいる騎士さんも私も息を止めて居ないものとして振る舞います。しかし
「ク、クアァ!」
いったぁい!嘴で背中を刺されました!バレました!
「治癒魔法!」
草むらから一人で体を出してセフトホークの気を引きます。騎士さんの方に行ったら終わりなので。
「ここでやるしかない…!」
セフトホークと私が見つめ合う中、突然後ろからカラカラと音が鳴ります。見ると、それは金でできた指輪のようです。
セフトホークは指輪を見つけると私から目を逸らし、指輪に一目散に向かっていきます。そのまま指輪を脚で器用につまむと巣の方角へ立ち去ろうとします。
立ち去ると思い、私が安堵した瞬間、セフトホークは私のことも脚で捕まえて飛び去ります。
「え?」
「え?」
「助けてロゼリアァ!」
下を向くと既にロゼリア達が小さく見える高さまで来ていました。この高さは間違いなく落ちたら死ぬ!けど巣に持ち帰られても死ぬ!どうしよ!
「ルドちゃん!」
「ルドさん!?」
草むらに隠れていた騎士さんも出てきて叫んできますが凄い力で掴まれて声があまり出ません。
「ロ、ゼリアァ。」
「ルドちゃん、脚を斬って!こっちでキャッチするから!」
キャッチとかどうやってするのか先に聞いておきたいところでしたがそんな余裕ないので、何とか右手で竜剣を握りセフトホークを斬りつけます。
「クァ!?」
セフトホークが驚き私を手放します。私より指輪優先だったようで私のことは諦め、巣に戻っていきます。まぁ常識的に考えれば地面に当たって粉々になるので正しい判断です。
「ルドちゃん!泡でキャッチするから!」
泡!?無理では!?
「信じて!」
「…分かった!」
ロゼリアを信じて変に動かずに落下し続けます。とはいえ私も死にたくないので治癒魔法をいつでも発動できるように待機します。
治癒魔法は私がはっきりとした意思で発動させないといけないので即死したり気絶してると使えません。なのでこれは気休め程度です。
「水魔法!最大出力!」
ロゼリアの言葉が合図となって空中に人一人包めるサイズの泡がいくつも出現します。
「痛っ!?」
一つ目の泡はぶつかるととても痛かったですが、二つ目、三つ目となるとだんだん勢いが弱まってきて痛くなくなってきました。
そのまま十個ほど泡を抜け地上に降り立つころには勢いは弱く、三階から飛び降りる程度の衝撃でした。ですが、
「あ、足折れたぁ。」
「大丈夫ですか、ルドさん!」
騎士さんが手当てをしようと駆け寄ってきてくれますがその提案を断り、治癒魔法で足を治します。
「治癒魔法。ふ〜、なんとかなったぁ。騎士さんは何か怪我はありますか?」
「いえ、ルドさんが庇ってくれたので平気です。」
「なら良かった。ロゼリアは?」
ロゼリアは少し遠くで大の字の状態で横になっています。流石に疲れたようです。
「怪我はないわぁ。けど、疲れたわねぇ。」
「一応治癒魔法かけとくね。いろいろ助かったよ、ありがと。」
「別に平気よ。それよりルドちゃんが無事でよかったわぁ。」
「流石に怖かった。」
「あの、さっきの指輪って誰が投げたんですか?」
騎士さんが聞いてきます。するとロゼリアが
「私が投げたわ。貴金属が好きって言ってたから気を引けるかと思ったのよぉ。」
「なるほど、よく思いつきましたね。」
「さすがロゼリア。ところで、この後はどうする?巣まで行く?」
「無理よぉ。このまま行ったら死んじゃうわ。」
「だよね~。じゃ、帰ろ。」
「えぇ。」
―――
巣の調査を断念し、屋敷まで戻ってくると何やら人だかりが出来ていました。
「私なら完璧に踊れるわ!だからお願いおじさん、私に踊らせて!」
どうやらキシリカと領主さんが話しているようです。話してくるとは言っていましたが、まだやってたんですか。
「そうは言っても、この状況じゃ例年通りとはいかないだろう。それに私が君に任せたのはセフトホークの討伐だ。そちらも同時にできると?」
「そっちの件は私の仲間がやり遂げるわ、絶対!だから私には私なりのやり方でリイキラの無念を晴らさせて!」
話を聞いた感じ、キシリカはセフトホークの討伐じゃない何かをしたいようですね。
「キシリカ、何話してるの?」
「ルド!それにロゼリアも!帰ってきて早々悪いけど、おじさんを説得するの手伝って!」
「私達は何を話してるか知らないから手伝えないわよぉ。だから早く何を話してたか教えてちょうだい。」
「今、私達は今年の祭りの舞について話してたのよ。」
キシリカはさくっと祭りの舞について教えてくれました。
ここアベリア領では毎年この時期になると豊穣を祈って祭りを開くそうです。これは昔ながらの伝統で百年以上続いているそうです。
その祭りには一つ、目玉イベントがあります。それが舞です。毎年、候補から選ばれたたった一人の若者が、祭りの最後に豪華な衣装に身を包み、勇者オリジナに対して一日中ぶっ通しで祈りの舞を踊ります。
あと四日後に迫った今年の祭りではリイキラさんが踊る予定でしたが亡くなってしまわれたので今年の舞は中止、もしくは祭りそのものを中止にするか、領主さんは考えていました。
「それだけではない。セフトホークの存在、それに結界だって直っていない。この状況で祭りなどできる訳が無い。」
「け、けどあいつは、リイキラは今回の祭りのために…。」
「私も開催をする方向で考えたいがやはり難しいだろう。この状況を打破する何かがあるなら話は別だが。」
「…考えてきます。」
キシリカは領主さんのもっともな意見に賛同しひとまず説得を諦めたようです。
「さて、ルド君にロゼリア君、二人もご苦労だった。疲れているだろうから近くの温泉にでも行くといい。」
「温泉あるんですか!?」
うっひょー!
「キシリカも行くよ!」
二人の手を掴み半分強引に温泉へと連行します。
―――
「さいっこー!」
殆ど飛び込むように温泉に入ります。
「テンション高いわね、ルド。」
「そりゃ温泉だし。」
「そう。」
キシリカは見るからに元気がありません。友人の訃報から始まり、その友人が楽しみにしていた祭りも開催不可能となれば無理もありません。
「その、キシリカ。リイキラさんってどんな人だったの?」
「いいやつだったわよ。アンタらに負けないくらい。」
「いろいろ教えてよ。頭冷やすついでにさ。まぁ今は体温まってるんだけど。」
「…上手くないわよ。」
「そう?」
「そうよ。まぁいいわ、教えてあげる。」
そしてキシリカの口から昔のことが語られます。
「私は、憧れてたのよ。」




