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転移世界のあなたと私  作者: ツミハミ
起源の国 オリジナ
11/26

11話

 アベリア領に着きました。アベリア領は前線都市と比べると小さい場所で、アベリア家が下から三番目の位なことも相まってそれほど発展していないように感じます。はっきり言うと田舎みたいです。


 とはいえ領民の人達も元気そうで、畑仕事をしている方や井戸端会議をしている人をあちらこちらで見かけます。


 一つ異常な所を挙げるとすれば空に大きな穴のようなものが空いていることです。そこだけ空間が割れたように見えます。空間が割れるといえば、私をこの異世界に召喚したあの空間のひびを思い出しますが、これは関係あるのでしょうか。


「えっと、取り敢えず領地に入ったは良いけどここからどこに行けばいいの?」


「領主の屋敷かしらね?」


「そうでしょうね。どこか分からないけど。」


「え?キシリカ知らないの?」


「いや、行ったことはもちろんあるわよ。遊びにね。けどその時は屋敷まで案内されてついて行ったから行けたのよ。今は案内がいないから無理ね。」


「そういえばキシリカって方向音痴だもんね。」


「えぇ!」


「そんな元気に返事されても…。じゃあどこに行けばいいの?」


「その辺の人に聞きながら行くしかないわね。」


「それしかないかぁ。」


 方針を決め歩き出したその時、遠くから剣と弓を身に着けた大柄の男性が私達の方に走ってきました。


「え、何あれ?」


「騎士?」


 私達が一応警戒して各々の武器に手をかけるとその様子を見た男性が口を開き何か叫んできます。


「あなた達が前線都市から派遣された人達ですか!?」


「はい!あなたは?」


「俺は、領主様から頼まれてあなた達を呼びに来たんです。」


 少しやり取りをすると彼は私達の前までたどり着き、汗を拭きながら話してきます。


「ようやく来てくれましたね!」


「ん?何か見覚えがあるわね。確かアンタってあいつの護衛騎士だった奴かしら?」


「そういうあなたはキシリカ様ですね。お久しぶりです。」


「ごめん。アンタのことはあまり覚えてないわ。」


「ハハッ、だろうと思いました。なにせあの頃のキシリカ様はまだこんなに小さかったですもんね。」


 彼はそう言いながら自分の腰ぐらいの位置で手を水平に動かします。彼はどうやらキシリカと昔からの仲みたいです。


「そんな話はいいのよ。私が今聞きたいのは何でアンタが呼びに来たのかってことよ。」


「まぁ色々事情はあるのですが、一言でいうと今は執事が外に出られる状況にないからです。」


「…魔物のせい?」


「はい。上空にある空間の穴はもう見ましたか?」


「さっきから気になってたのよ。あれ何?」


「魔物の侵入を防ぐ結界が破れた結果です。あそこから魔物が侵入し、甚大な被害を与えています。」


「結界?」


「あれ、見たことありませんか?全ての都市に設置されてるんですが。」


 見たことあるような、ないような。


「ふーん。まぁ、詳しい説明は後でおじさんに聞くから早く屋敷に案内して。」


「はい。ではついてきてください。」


 そう言うと彼はまた小走りで屋敷まで案内してくれました。


―――


 十五分ほど走ると恐らく領主さんの屋敷と思われる建物に着きました。周りの建物とは規模が違い、柵があったり、二階や三階があったり、まさしく屋敷という感じがします。


「大っきい建物ですね〜。」


「そりゃあ屋敷ですから。」


 案内をしてくれた彼が何故か誇らしげに言ってきます。


「ほら、とっとと入るわよ。」


「うん。」


 キシリカに急かされ柵の扉を開き中に入ろうとするとロゼリアに止められます。 


「ねぇ、ルドちゃん。貴族の屋敷でのマナーって分かる?」


「…分かんない。」


 完全に失念していました。キシリカは貴族ですが私とロゼリアはただの平民です。そんな私達がマナーを知っているわけがないです。このままだと気づかずに無礼な真似をしてしまいそうです。


「どうする?外で待つ?」


「何言ってるのよ。別に私が居れば平気よ。けど、もし本当に不安だったら取り敢えず私の真似すればいいわ。」


「はは、あの方はそんなに厳しい方ではないですよ。それに、マナーが分からないことよりも外で待たれる方が悲しまれると思います。」


「そうですか?…なら、入ります。」


 キシリカと彼に説得され、私とロゼリアは渋々中に入ることにしました。本当にキシリカの動きを全部真似しようと思います。


 その後、庭と思しき場所を通り抜けると建物の白い外壁の主張が激しくなります。こういう建築様式何て言うのでしょうか。少し考えているとキシリカが


「じゃあ、行くわよ。」


 と言い、玄関のドアを開けました。中も想像通りの広さで、この世界に来てから目にした建物の中で一番天井が高いと思います。


「おじさん、いらっしゃいますか?」


 案内された以上居るのは確定だと思うのですが、キシリカはそう声を掛けます。すると奥の部屋からドタバタという音がし、勢い良くドアが開け放たれます。


「キシリカ君か?」


「はい。お久しぶりです。」


 声を掛けられたキシリカはスカートを摘むような動作をして恭しく挨拶します。カーテシーでしたっけ?


「あぁ、久し振りだな。そこの二人は友達かい?」


「はい。私と同じく遊撃小隊に所属しているロゼリア・ローレルとゲロ女です。」


「ゲッ、ゲロ!?」


 あ、忘れてた。っていうかほんとにゲロ女って呼ぶの!?完全に冗談だと思ってた。


「はい。ゲロ女ことルド・エタニティと申します。」


 私は引きつった顔でなんとか自己紹介をします。そのまま私とロゼリアもキシリカのような動きをして挨拶します。


「ま、まぁ何か事情があるのだろう。三人共、ようこそ我が家へ。取り敢えず奥の応接室に案内しよう。」


 何か事情があると思って流してくれる領主さん、ありがとうございます。


 応接室の真ん中には大きいテーブルがあり横にソファが二つあります。領主さんの座る方と逆側に案内され三人横並びで座りました。


「前線都市からこんな辺境までわざわざ来てくれて感謝している。騎士団長にも礼を伝えておいてくれたまえ。」


「はい。もちろんです。ところでおじさん、あいつはどこに?私が来たって聞いたらいつもすっ飛んで来ますよね?」


 キシリカが領主さんの娘さんについて尋ねると先程まで明るかった顔が途端に暗くなり、


「…あいつは。…私の娘は、死んだ。」


 と、衝撃的な言葉を発します。


「…え。…そ、そんなわけ。だって、こないだもピンピンしてたじゃない!?」


「あぁ、あいつ自身は健康だった。しかし病気や事故ではなく、突然この街に現れた魔物に殺された。」


「…そんなのって。」


 それから暫くの間誰も喋らず、ただ時間だけが過ぎました。三分ほど経ち、ある程度落ち着いたキシリカは領主さんに聞きます。


「なぜ、私を呼んだんですか?」


「キシリカ君に、仇討ちをしてほしい。そう思ったんだ。」


「…もちろんです。何があったか教えてください。」


「分かった。あいつの身に何があったか全て教えよう。キシリカ君の友人君達も暗い話にはなるが聞いてくれるかい?」


「はい。」


「ありがとう。では話そう。まず、いつ魔物がこの街にやってきたか。」


―――


 十日ほど前、この付近ではここ数十年にわたって確認されていない魔物、セフトホークが突然東から飛んできた。


 普段ならば警戒することもなく、ただ通り過ぎるのを見るだけだった。しかし、その時はタイミングが悪かった。魔物の侵入を防ぐ結界が経年劣化によりひび割れていた。


 王都に住む結界術を使える者に結界の張り直しを依頼していた矢先だった。


 数十年ぶりに現れた魔物、数年で劣化する結界、まるで奇跡のような確率でセフトホーク侵入の条件が揃ってしまった。


 結果から言えば、我々はセフトホークの侵入を許してしまった。しかし我々も馬鹿ではない。セフトホーク侵入の報を聞いてすぐに騎士を派遣し領民に避難を呼びかけた。


 そこまでは良かった。


「キャーーー!!!」


 セフトホークというのは光るものや貴金属の収集をする習性を持つ。私の娘、リイキラは今年の祭りで舞を踊る予定だった。今年の祭りはその時既に二週間後に迫っていた。


 だから、リイキラは派手な衣装を身に着けて舞の練習をしていた。派手な宝飾品を身に着け、餌でもあったリイキラはセフトホークに一瞬のうちに攫われた。


 セフトホークは近くの山の山頂に住み着いた。様子を見に行った騎士はそこで破れた衣装と洗われた宝飾品、そしてぐちゃぐちゃになった肉を雛に与えるセフトホークの姿を見たという。


―――


「ねぇ、おじさん。今の話、ほんと?」


「…嘘はつかない。」


「おじさんはあいつが祭りで踊るのをどれだけ楽しみにしてたか知ってる?」


「…知っている。」


「…あのー、少し良いですか?」


「何だい、ルド君?」


 この空気で話に入るのはとても気まずいのですがどうしても聞きたいことがあったので聞くことにします。


「私達がアベリア領に着いた時点でまだ結界のひびが修復されていなかったと思います。このままだとセフトホークは領内にいつでも侵入できてしまうのでは?」


「その通りだ。しかしながらこの国にいる唯一の結界術の使い手は多忙故にすぐに駆けつけることができない。その上、アベリア家は下から三番目の位、王都からは遠い。少なくとも到着までに二週間以上かかる。」


 十日前に依頼が届いたとしてあと四日とプラスアルファ、それだけの期間耐えきるのは難しいのでしょうか。


「使い手の人の到着を待てばよいのではないですか?」


「既に十日経っている。家に籠もるのに限界を迎えた領民達は既に外に出始めてしまった。十日何もなかったのだからこれからも何も無いと言ってな。」


「だから街の様子は普通に見えたんですか。」


「本当なら今も籠もっていなければなのだがな。騎士を派遣しようにも一連の騒動でここにいる騎士は軒並みセフトホークに顔を覚えられてしまった。いま外に出すのは危険だ。」


 執事の人たちが外に出られない理由も似たようなものでしょう。


「となると、結界術使いの人が来るまでここを守りつつ、可能であればセフトホークの討伐。これが私達がするべきことでしょうか。」


「あぁ、そうなる。君たちに任せてもいいかな?」


「私とロゼリアはそのために来ましたから当然です。…キシリカはどうする?」


「おじさん。リイキラがいないなら今年の祭りは誰が踊るの?そもそも祭りは開催できるの?」


「…厳しいだろうな。」


「…なら、しょうがないですね。分かりました。セフトホークの討伐、請け負います。」


 そう言ったキシリカの顔はどこか悲しそうに見えました。


「ありがとう。この礼は必ず。さて、長旅で疲れているところに話をし過ぎてしまったな。お腹も空いただろう。昼食を用意した。ぜひ食べていってくれ。」


「ありがとうございます。」


 応接室のさらに奥にあるダイニングルームに案内され座って待っていると、メイドさんと思しき人たちが食事を運んできます。


 壁には良く分からないけれど高級そうな絵画が飾られていたり、豪華な作りの照明が天井から垂れ下がっていたり、貴族の屋敷っぽさを感じます。


「美味しそうだね。」


「そうねぇ。」


 各々挨拶をして食べ始めます。途中、絵画や照明の話をしてなんとか場を盛り上げようとしますが喋ってくれるのはロゼリアだけで、いつもなら一番喋るキシリカは一言も話しませんでした。


 何やら思い詰めているようで、こちらの話は耳に届いていないようです。考えを邪魔するのも悪いと思い、話すのを諦めて食事と思考に集中することにしました。


(友達との死別…。)


 まだ死別の経験はありませんが私も二ヶ月ほど前にクラスメートや親と別れたっきりです。状況は異なりますがなんとなく気持ちは分かる気がします。


 私もそのうち、死別を経験することになるのでしょうか?この世界には地球と比べて理不尽な死、というのが多い気がします。


 もちろん地球にも交通事故だったり理不尽な死というのはありますが動向の読めない化け物に殺されるとか本当にどうしようもありません。


―――


「よく、仇討ちは何にもならないとか言うじゃない?」


 食事も摂り終わり、これからどうするか話し合うために空いている部屋を貸してもらいました。そこでようやくキシリカは口を開きました。


「私は仇討ち、出来るんだったらするべきだと思うのよね。だってそのほうが気持ちがスッキリするじゃない?

 けど、もし死んだ人がやり残したことを代わりにやってあげられるとしたら、そっちを優先すべきなのかしらね。」


「急にどうしたの、キシリカ?」


「別に、気にしないで。」


「…。」


 そんな話をしているとコンコン、とドアがノックされたのでどうぞ、と返してその人を中に招き入れます。


 その人は一人ではありませんでした。私達をこの屋敷に案内してくれた騎士の方を含めた、約二十名ほどの騎士たちでした。


「はじめまして、私達はセフトホークに襲われた日にここの警備を担当していた者です。今回は急な要請に応えていただき感謝いたします。」


「はじめまして。」


「キシリカ様も、来ていただきありがとうございます。」


「そこの奴にも言ったけど、アンタらのことは覚えてないわ。すまないわね。」


「いいえ、謝るのはこちらの方です。…お嬢様を守れず、申し訳ありませんでした。本来なら私共が身代わりになってでも守らなければいけない所を。」


「もう起こったことは仕方ないわよ。それにあいつもアンタらが死ぬのは望んでないわよ。」


「しかし、」


「もういいって言ってるのよ!」


「…申し訳ありません。」


「キシリカ、少し休んできたら?」


「別にいいわ。どうせ落ち着けないもの。」


 立ち上がって叫んでしまうほど興奮したキシリカも多少落ち着き、下を向いたままだった他の騎士たちも口を開き始めます。


「俺はここの奴らと三人でセフトホークが住処にした山まで様子を見に行きました。そこで、雛を見かけたんですが、少なくとも十羽はいました。


 あの数に餌を与えるとなると、この付近の動物は狩り尽くされる可能性があります。その次は今よりももっと多くの人を…食べるかも。」


 そう言った同年代くらいの騎士は話の途中で青ざめた顔になっていました。


「雛が十羽ということは、セフトホークは成体が二羽、幼体が十羽の合計十二羽ですか。厳しいですね。」


「え、あなた達でも?」


「確か騎士団の資料に載っていた情報だと、セフトホークは体長三メートル、翼も含めると十メートルだとか。雛ですら体長が成体の半分はあります。


 これだけの巨体となると仕留めるのには時間がかなり掛かります。その上、もちろん鳥ですから飛ばれることも考慮するとさらに難しくなります。」


 そう言うと彼らは分かりやすく肩を落とします。実際問題、飛ばれるのは大問題です。逃げられてしまうと追い詰めたとしても意味がありません。


「そうは言っても、ルドちゃん。実際の状況を見ないとどれだけ推測しても意味ないわ。それにここでわざわざ士気を落とす必要は無いでしょう?」


「…ごめん、ロゼリア。あと皆さんも無駄に脅かしてしまってすみません。厳しいとは言ったもののそれは倒せない、という意味ではないので安心してください。」


 けど、倒せるかなぁ。怪しいなぁ。まぁこの気持ちは口に出さずにしまっておきます。 


「じゃあ、今から早速様子見に行く?」


「そうね。キシリカちゃんもそれでいいかしら?」


「ごめん二人共。私、ちょっとおじさんと話さないといけないことがあるの。だから私抜きでもいいかしら?」


 キシリカは何かを決心したらしく食事の時より格段に顔が明るくなっています。


「うん。いいよ、ゆっくり話してきて。」


「ありがとう、ルド。行ってくるわ。」


「それじゃ、こっちはこっちで色々やりますか。」

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