1話
「世界、帰りにアイスでも買わない?」
「いいじゃん、買お買お」
いつも通りの放課後、私は友達と話しながら帰宅の準備をしています。
私の名前は久遠世界。普通の高校一年生です。高校生になったばかりですが、中高一貫なので既にいつメンというのが出来ています。
「よっこらしょ……? なんか光ってる?」
「あ、ほんとだ。なんだろこれ」
教科書をカバンに詰め終えて立ち上がろうとした時、床から変な光が出ているのを見つけました。光に触れようとするとその光は突然教室中に広がりました。
「え? うわぁ!」
突然浮遊感に襲われます。まるで宇宙のようで、それでいて明るい不思議な空間を抜けると、見知らぬ地面の上に立っていました。
「な、なにこれ?」
「どこ、ここ?」
教室内に居たクラスメートたちは皆居るようです。ここはどこか宮殿の中のような所で、壁や床の材質も石っぽいです。
いつの間にか私の髪の色が銀色に変わっていました。他にも髪色が変わっているクラスメートが何人かいます。
そして、目の前には大勢の見知らぬ人たちが居ました。その人たちは黒い布に身を包んでいて、なにか焦っているようです。
「どういうことだ!?」
「失敗……?」
「あの魔法にどれだけの資金と人を掛けたか分かっているのか!?」
「落ち着け。少なくとも空間への干渉には成功したのだ。
それに、目の前に居るではないか、空間旅行者が。それだけでプラスだと言えよう」
一番偉そうな男の人が杖で床を叩き、場を鎮めます。場が静かになった所で、話し始めます。
「歓迎しよう、異世界の民よ。私たちはある目的のために活動する国家だ。あなた方の力を借りたい。あなたたちの中に代表は居るか?」
「……私です」
異世界? またもざわつき始めた所で私達のクラスの担任である文先生が手を挙げながら立ち上がります。
「あなたが代表か」
「一体ここはどこですか?」
「あなた方にとってここは異世界だ。もう元居た場所には帰れないと思ってくれ。ある種の誘拐とも言えよう」
「何が目的でこんなことを?」
「あなたたちの体、いや、経験だ。こう言うと変な想像をするだろうが、あなた方に害を与えるようなことはしないと約束する」
「……」
「衣食住の全てを保障しよう。なんなら貴賓扱いだ。私たちに力を貸してほしい」
皆、この場にいる唯一の信用できる大人である文先生の言葉を待っています。
「分かりました。何をするのかも知りませんが力を貸しましょう」
「感謝する。では改めて、ようこそ。私たちはあなた方を歓迎する」
ーーー
私たちはどうやら異世界に召喚されたようです。後に黒い布を身に着けた人たちの部下を名乗る人から説明を受けました。
異世界に召喚されたという説明を信じることができず、海外への誘拐や夢だと考えようとしていたクラスメートも居ましたが、他に納得のいく説明もなく、渋々受け入れていました。
その後数日間、あの男の人の言ったように一流ホテルのようなサービスを受け続け、召喚されたのも悪くないんじゃないかという風潮になってきました。
そういう風潮になってきたのにはもう一つ原因があります。
「ステータスオープン」
こう唱えると目の前にゲームのように空中に青いディスプレイのようなものが現れ、自分のスキルが見えるようになります。
スキルというのは魔法のような特殊能力らしく、クラスの男子たちは嬉しそうにしていました。かくいう私もちょっと嬉しいです。
やっぱり魔法っていうのは人類の夢ですよね。
私の持つスキルは「龍」。
この国で禁忌とされている生物の名前を冠していました。
ーーー
「私たちに力を貸してほしいというのは一体何なのですか?」
「ふむ、そうですね。まずは私たちの目的から話しましょう。私たちの目的は神を呼び起こす事です。それにより世界は救済されるのです」
なんか、よくある宗教勧誘みたいな事を言ってますね。
私たちがここでの生活に慣れてきた頃、またも召喚された時の場所に呼び出され、例の男たちから話を聞くことになりました。
「それに、私たちは関係あるのですか?」
「空間を越えてきたあなたたちにはこの世界の者よりも強大なスキルが宿っています。
その力があれば、かの神のおわす場所に届く程です。なので、その力を貸していただきたい。しかし、まだ届きません」
「では、どうすれば?」
「あなた方にはダンジョンと呼ばれる特殊空間を踏破してもらい、力をつけていただきます」
またゲームっぽい。
「それで神を呼べたら私たちは帰れるんですか?」
「ええ、神のおわす場所に届く程の力を手に入れた暁にはあなた方が自力で元いた世界に帰ることも可能でしょう。お願いです、我々と共に神を呼び覚ましてください」
「分かりました。出来る限りやってみましょう。しかし、もし子供たちに何かあれば私の独断で止めます。ここは譲れません」
「いいでしょう、交渉成立です。これからよろしくお願いします。空間旅行者様」
こうして文先生と男は握手を交わし、私たちも神を呼び起こすために力を貸すこととなります。
ーーー
「あなたのお名前は?」
「私は久遠世界です」
「あなたのステータスにもスキルが四個表示されていたはずです。教えて頂けますか」
本格的にこの国で活動していくにあたって、私たちの持つスキルが調査されることになりました。今は、私の番です。
「えっと、身体強化、双剣術、治癒魔法、龍です」
「龍…!す、少しお待ち下さい」
担当の人が急いで立ち上がって報告に行きました。なにやらただ事ではない雰囲気です。
「え? あ、はい。分かりました」
「空間操作! 素晴らしいスキルです! きっとあなたは神を呼び起こすでしょう。八神颯太さん」
「このスキルは一体何が出来るのでしょう……あなたは一体どんな方になるのでしょうか、明石慧さん」
他の人も皆、スキルを調べられています。私の時だけ対応が違っていたので、私のスキルはなにか特別だったりするのか、と心が躍っていましたが残念ながらそうではありませんでした。
「久遠世界さん、残念ですがあなたにはこの国を出ていってもらう事になりました」
「え? ど、どういうことですか?」
スキル調査の翌日、私一人だけ夜中に呼び出され、突然にもほどがある話をされました。
「あなたのスキルを聞き、事情が変わりました。私たちの国では宗教上の理由で龍は禁忌とされているのです」
「そ、それは分かりましたけど、だからって追放なんて!」
「あなたを危険視する声が多数上がっています。ですがあなたもまだ若い、処刑にはせず、追放という形を取ることに決定いたしました。これはせめてもの気持ちです」
そう言われ渡された袋にはしばらく分の食料と水のみが入っていました。
「ま、待ってください!」
「では、さようなら。久遠世界さん」
そしてそのまま抗議する隙も与えられず、私は召喚されたときと同じく、光に包まれてどこかへ追放されました。
ーーー
「う、うぅ…」
次に目覚めた時、そこは木々に囲まれた森の中でした。倒れていたので草や土が口の中に入っていました。
「君、大丈夫か?」
突然、背後から声をかけられます。女性のようです。
「は、はい」
「ここは大森林の入口なんだ、何故こんな所に? 許可がない者は立入禁止だぞ」
「そ、そうなんですか?」
私が出会ったのはスラッとした長身に長い金髪で、女の私から見ても思わずドキッとしてしまうような端正な顔立ちをしている女性でした。
「私は、シエル・アルテミスだ。君は?」