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記憶の世界の探しもの  作者: yukiko
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友達との時間

スーパーから歩いて10分のところに駅がある。

その駅の近くに古い3階建ての白いビルがある、

ビルの3階に「ボスケ」と言う名前の居酒屋がありそこで待ち合わせた。

常連とは言えないが月に1,2度は訪れていた、ウィルスが流行ってから来るのは始めてだった。

「ボスケ」はポルトガル語で「森」という意味らしい、

お店の中は「森」という名前通りたくさんの見たことの無い観葉植物緑が所狭しと置いてある、

メニューも変わったモノがあったが、俺はいつもお酒と簡単なつまみだけを注文していた。

8人座れるカウンター、4人がけのテーブル2つ、2人掛けのテーブル2つが置いてあり、

20人は入れるようになっているが、満員なところは見たことが無い、

ボスケに入ると机に透明なアクリルの板が置いてあり、人と人との間に壁を作る時代なんだと実感した。

カウンターを見ると大翔が一人でビールを飲んでいた。


平日の20時なので客は少ない、

(いつも少ないが・・・)

会社帰りのサラリーマンが2人席で一人で飲んでいて、

30代ぐらいの女性が2人で隅のテーブルで飲んでいた。

みんな疲れた顔をしている、新しい暮らしにまだみんな慣れていない様子だった。


「大翔!久しぶり!」


「お!正樹久しぶりだな!元気か?」


大翔は濃いグレーのスーツを着て、紺色のストライプのネクタイをしていた。


「スーツが似合う働く男になって来たな!」


「やめてくれよ、スーツが似合うなんておじさんみたいってことか?

 お前は仕事探してるか?早く探さないと再就職が難しくなるぞ!」


「わかってるけど、なかなかやる気になれなくて・・・」


大翔は会った瞬間から痛い所をついて来る。


大翔は大手自動車会社の本社で営業をしている、父親のコネでどうにか入れた会社だ。

父親の顔に泥を塗らない為にも嫌味な上司にも耐えながら頑張っている。


みんなが就職活動で鬱々としている時に、

大翔は「父親のコネ」という最終手段があったので一人落ち着いていた。

影では「コネ入社なんて大変だ」

「コネがあるなんてズルい」など色々と言われていたけど、

俺は気にしなかった、人は人、自分は自分。他人に嫉妬している時間があるなら、

就職活動に専念したほうが良いと思っていた。


「こんな平日に珍しいな明日休みなのか?」


「明日は仕事が休みであゆみは友達と旅行に行っているから、お前に連絡した。」


「俺はお前の彼女の変わりかよ・・・」


「お前暇だろ?」


「まっいつも暇だけど。」


あゆみは大翔の彼女で背が高く痩せていて髪の毛が長く、美人ではないがかわいい人で、

都内のネイルサロンで働いている。

同じ年で先輩の紹介で付き合い始めてもう付き合って半年になるが、

上手く行っているみたいだ。

俺たちは無難にピザを注文した、

見たことも無い草が乗っているピザだったけど想像より美味しかった。


大翔の会社の愚痴、面白い上司の話し、

大学の時の同級生に会った話し、世の中が変わってしまった話し、

俺は絵の話しをして2人の話しは尽きることが無かった。

真夏の空色に手紙の話しと昨日の訪問者の話しは黙っていた。


大翔に会うのは半年振りなのに、

昨日まで同じクラスで授業を受けていた時のような大学生に戻った気分になれた。

ビールを3杯づつ飲んで時計を見ると、午後11時を過ぎていた、

話しはまだたくさんあったがそろそろ帰ろうということになった。


会計は大翔が払ってくれた、

お店を出る時に店員が「来週からは当分の間お休みします。」と言った、

緊急事態宣言でどこの居酒屋もお休みになるらしい。


ほろ酔いでお店か出て来たのは午後11時半を過ぎた頃だった。


「ごちそうさま!」


「いやいや俺が誘ったんだ俺が払って当然だろ、来週からは飲みにも行けないのか・・・

 寂しいな!今日は最後に飲めて良かったよ、やっぱり学生の時の友達はいいな!」


「大翔?お前酔っ払ってる?」


「酔ってねーよ!やっぱり会社員は大変だよ、心が折れそうになることが何度もある、

 でもおやじのこともあるから辞めることはできない。時々すごく苦しくなるんだよ。

 自分の身体なのに他人の身体のように動か無くなることがある。

 これからは色々と制限されてさらに大変になると思うと気が重いよ、

 でも今日お前と話したら元気になったよ。

 またいつか飲もう!今度はもっといい店でな!」


そう言って大翔は笑った、その笑った顔は昔とは少し違っていた。


「俺も楽しかったよ、愚痴くらいいくらでも聞いてやるよ、

 道はたくさんある、急がないで自分の進むべき道を探せばいい、

 どんなに頑張っても無理なことはある、

 身体が壊れるまで働く必要なんて無いよ。」


「そうだな・・・自分の限界を超えたら身体が壊れちまうよな・・・」


大翔は恥ずかしそうに、「今日はありがとう」と言うと、駅の中に消えて行った。


俺は一人、寒いアパートに向かって歩き出した。


つづく

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