現実
俺は足を引きずり赤い螺旋階段を下りた、
そしてボロボロになったリュックサックのポケットから鍵を出してドアを開けた。
家の中は静まりかえり空気は淀んでいた。外の風は寒かったが窓を開けた。
空気が一気に入り部屋の空気がガラッと変わる、
俺は腹が減っていた、棚からカップラーメンを出して、
お湯を沸かした、今日は何日なんだ?
スマホでカレンダーを見ると俺が「記憶の世界」に行って24日が過ぎていた。
俺は24日も何も食べていなかったのか?
向こうの世界では空腹を感じたことは1度も無かった、
「空腹も眠気も無い世界だったのか・・・」
久しぶりにソファに座り、すべてが終わったことを実感した。
ソファが沈みそのまま下の階まで沈んでしまうかもしれないと思うほど、
俺の体は重くソファは深く深く沈んだ。
カイはどうしたのかな?大丈夫だったのかな?
お別れぐらい言いたかったな・・・
シュンシュンと音を立ててお湯が沸いた、味噌味のカップラーメンにお湯を注いだ。
久しぶりに食べるラーメンは最高に上手かった!
ミスターブラックが来るまであと6日ある。どう話すかゆっくり考えよう。
とにかく食べてから風呂に入って、自分のベッドで眠りたい。
ゆっくり何も考えないで眠りたい・・・
俺はラーメンを食べてからすぐに風呂に入った、
風呂から出るとすぐに眠気が襲って来た、
俺は久しぶりに自分のベッドに潜りこんだ、自分のベッドの匂い、
安心する香り、安心する空間、安心する・・・・
俺が目を覚ましたのは次の日の8時だった。
12時間近く寝ていた、夢をまったく見ない深い眠りだった。
昨日食べたカップラーメンはそのままで、風呂場も脱いだ洋服が散乱していた、
俺は部屋を片付けてコンビニに行った、食べるモノが何も無いからだ。
時間は午前10時、コンビニに客はいなくレジには江藤が立っていた。
俺は食パンとお茶、おにぎりを買った。江藤は俺と目を合わせることも無かった。
ミスターブラックの言う通り俺のことは忘れてしまったようだ、
俺はそれからいつも通りの生活に戻った、
あの世界から帰って来て現実世界に慣れるまでに少し違和感があったが、
すぐに現実に溶け込んだ。
イラストの依頼も来ていて、俺は仕事を再開した。
1日が矢が飛ぶように過ぎ去り、
あっと言う間にミスターブラックとの約束の日になった。
当日の朝、
俺は気が重かった。時々外を見たが、屋上に行く螺旋階段は現れてない、
ミスターブラックが来なければいいと願ったが、
夕方「トントン」とドアを叩く音がした。
俺が屋上に行くと思っていたので、まさか奴が家に来るとは意外だった。
俺は黙ってドアを開けた。
「お邪魔します。」
ミスターブラックは丁寧に靴を抜いでゆっくり部屋に上がった。
俺がいつも座っているソファにミスターブラックが座っている、
違和感しかない、
「それで顔は見つかりましたか?」
「はい」
「それは良かった、顔を渡して下さい。」
ミスターブラックは白い手袋の手を出して来た、
「その前に・・・」
「なんですか?」
「顔をどうするんですか?」
「それはあなたに関係の無いことです。」
「いや、関係はある、あなたを作ったのは俺だ!」
俺は立ち上がって言った。
「それがどうかしましたか?」
ミスターブラックは冷静だった、
「あなたにこの顔は渡さない!」
俺はミスターブラックの顔が描いてある小さな紙を握って言った。
ミスターブラックは軽く笑って、
「じゃあなたの顔もなくなりますよ?それでいいのですか?」と言った。
俺はその時、キッチンに行った、そしてガスコンロに火を付けた。
「何をしている!!」
ミスターブラックは立って紙を取ろうとした。
俺は急いで紙の端に火を付けた、紙は一気に燃え上がり、
俺は急いでシンクにその紙を投げた。
紙は黒焦げで何が描いてあったのかわからない状態になっていた。
「俺が生み出した悪魔は俺が消すしかない、さよならミスターブラック!」
ミスターブラックは力なく「な、なんてことをするんだ・・・」と言って、
消えてしまった。
俺は床に座りこんだ、
終わった、手が震えている、これで俺の闇も消えたんだ・・・
俺は勝った、自分に勝ったんだ!
もう過去なんて怖く無い、
もう俺の中の闇は無くなった、これでいいんだ、これで終わりなんだ・・・
俺は自分に言い聞かせるように何度も言った。
あれから半年が過ぎた。
俺は引っ越しをして地元に戻った、
地元で絵画教室をやっている。
あの赤い螺旋階段のアパートは引き払い、
今は小さな戸建てを借りてそこで絵画教室を開いている。
たまに大翔が遊びに来てくれるが、地元の友達と遊ぶことが増えた。
一人でアパートにいるより、
人にかこまれていたほうが楽しいと思えるようになった。
もう夜中に悪夢を見ることは無くなり、
夜に誰かがベッドに乗って来ることも無くなった。
祠しか無い細い階段の神社に行ったときに子猫を拾った、
不思議なことにその猫はカイにそっくりな猫だったので名前はカイにした。
言葉は話せない猫だが俺たちは気が合った。
俺は今日もカイと2人で暮らしている。
これから先も何があるかわからないけど記憶の世界にいるカイの為にも、
幸せな思い出をたくさん作りたい。平和に日常に感謝しながら。
おわり




