きつね
次の場所はまた夜だった。今度の季節は夏。
近くで祭ばやしが聞こえる。
実家の近くに古い神社がある、その神社の階段の下に俺たちはいた。
階段の近くにたくさんの自転車が止めてあり、
女の子は色とりどりの浴衣を着ている。
「今日はお祭りか・・・?」
みんな何かに吸い寄せられるようにその細い階段を上っていた。
俺とカイも同じく吸い寄せられるように細い階段を上った。
上った先に小さな祠があり、祠の横が広場になっていてそこにたくさんの出店が並んでいる。
バナナ、りんご、わた飴、焼きそば、焼きとうもろこし、
カラフルで大きな文字を見るのは久しぶりだ。
ウィルスが流行ってからは夏祭りを自粛する自治体が多い、
こんな華やかな光景は久しぶりに見た。
食べ物が焼ける匂いと屋台の発電機の音、がやがやと人の笑い声と話し声が聞こえる。
昔は当たり前にあった夏祭りの空気感が今は懐かしく新鮮に感じる。
俺は俺を探した、奥を見ると子供の俺たちは端の方で型抜きをしている。
カイはきょろきょろと番人を探している、
「奥に行って見よう!」俺は言った、
デコボコな石畳みの上を歩きながら屋台を見ていた、
懐かしいな、焼きとおもろこしが好きだったな、
あの家で茹でたとおもろこしと違い、
甘い醤油の焦げた味が好きだったな、そんなことを考えながら歩いていた。
そして俺は足を止めた、屋台で売っていたきつねのお面から目が離せなかったからだ。
「きつねのお面・・・」
きつねのイラストはこのきつねのお面だったのか!
忘れていた記憶が蘇って来た。
バラバラだったパズルのピースがピタッとすべてハマったような、
スッと腑に落ちたようなスッキリ感があった。
俺はお祭りの日にきつねのお面をかぶった子供のあとを付いて行った、
子供は神社の後ろにある雑木林に入って行った、
この雑木林はハチに刺された雑木林に続いている、
なぜ俺はそんな怪しい子どものあとを付いて行ったのか?
わからない、頭が痛くなって来た。
俺は近くにあったベンチに座った。
「大丈夫にゃ?」
「頭が痛くて・・・俺はリュックサックから水を出して飲んだ。」
水は生ぬるくて美味しくない。
思い出したことをカイに話した。
「じゃこれから子供が現れておまえはその子供のあとを付いて行くにゃか?」
「多分そうだと思う。」
俺とカイはベンチに座って子どもの俺の様子を伺っていた。
「本当にきつねのお面の子どもが来るにゃ?」
「来るよ、もう少し待ってくれ。」
「こんなに人がいるなら、みんなもきつねのお面の子どもに気付くはずにゃ、
なんでおまえだけにに見えたにゃ?」
確かにそうだ、他のみんなは俺がいなくなっても気が付かなかったのか?
謎は深まるばかりだった。
頭痛は治って来たが頭がスッキリしない、
俺はベンチの前にある、りんご飴の屋台のキラキラと真っ赤に光るりんご飴を見ながら、
考えた、この世界はすべて俺の記憶なのか?
この光景も俺の記憶なのか?
「なあカイもし俺がここであの人を殺したら、犯罪にならないのか?」
俺はりんご飴のおじさんを見ながら聞いた。
「質問が怖いにゃ!」
「えっ!いや、殺すことは無い、もしもの話」
「ならないにゃ、でもおまえの新しい記憶として一生残るにゃ、
罪にはならないでも記憶にずっと悩まされることににゃる!」
「消えない心の傷か・・・」
俺は真っ赤に光るりんご飴を見ながら静かに言った。
真っ赤なりんご飴、俺の家の螺旋階段のような赤だ、
赤い螺旋階段・・・?
どこかで見たような?あれどこだ?
俺の中の過去の記憶が少し開いたがはっきりと思い出せない。
俺は頭を抱えた。
その時「おい!」と、
カイに肩を叩かれて俺はカイを見た、
「大丈夫にゃ?」
「頭がもやもやするだけだ、どうした?」
「帰って行くにゃ!」
「え?」
子どもの俺は友達と帰って行くところだった。
「なんで?」
「きつねのお面の子はどこにゃ?」
カイは目を細めて俺をみた。
「いやいや、嘘じゃない!本当に見たんだよ!確かに覚えてるんだ!確かに・・・」
カイはベンチからスルリと降りた、
「とりあえず子どものおまえの後を付けるにゃ!」
「わかった!」
つづく




