俺の過去
何かのイタズラ?嫌がらせ?間違え?宛名も差出人も書いていない。
真夏の空色の手紙をテーブルに置いて、
買って来たトーストと目玉焼きを焼いた。
最近ネットでトースターに入る小さなフライパンを買った、
そのフライパンが大活躍で、
トースターに食パンと一緒に入れることが出来て、
パンと目玉焼きが同時に出来る便利な商品なのだ。
俺はパンと目玉焼きを焼きながら肉まんを食べた。
ウィルスが流行ってから、
オンラインで何でも注文出来るようになり、
引きこもりのような生活をしている俺みたいなヤツには優しい世の中になった。
コーヒーをいれて暖かくなった部屋で、
トーストをかじりコーヒーを飲んだ。
イタズラをするような友人なんていない、
近所付き合いは無い、
他人に迷惑をかけるような行動もしていないと思う。
いったい誰のイタズラなのか?
俺だけじゃなくて近所の人みんなのポストにこの手紙は入っているのかもしれない、
こんな手紙のことで深く考えるのはバカバカしい、
昔から色々と細かい事を気にしてしまう性格だった。
「気にしない、気にしない」自分に言い聞かせた。
今は仕事と呼べる仕事はしていない、
大学を出て就職したが1年で辞めてしまった。
それからは得意だった絵を売って生活をしている。
生活出来るほどの収入は無いので、
たまに短期のアルバイトをしながらどうにか生活をしている。
俺は昔から目立たない人間で、
いじめられることも無く、いじめることも無い空気のような存在だった、
イキってるやつを心の中では見下しながら、
敵にしたら厄介だと思い、いつも上手く話しを合わせていた、
高校の時に上手く生きるコツを掴み、
大学の時は少し背伸びをして、
女子に声をかけて何度かみんなで飲みにも行った。
男3人、女2人の仲良しグループがいつの間にか出来て、
いつも一緒に行動していた。その時はとにかく毎日が楽しかった。
女子は髪の毛が短いボーイッシュな歩乃華と髪の毛が長く色の白い紫苑の2人だった。
男は同じクラスの気の合う2人で、なんでも話せる心強い存在だった。
男2人とは卒業してから疎遠になっているが、たまにLINEで近況の報告をして来る。
残念ながら俺には報告する近況は無いので俺からLINEすることは無い。
俺は大学1年の時は紫苑が好きだった、告白しようと思ったこともあった、
しかし告白することで仲良しグループにヒビが入ったらと思うと、
その時はその「良い関係」を壊したくなく、
もし振られて気まずいままの大学生活を送るのは地獄のようだと思い告白が出来なかった。
彼女とは友達のままだったが大学2年生の冬に紫苑に彼氏が出来た、
俺は複雑な気持ちだったやっぱり告白していれば良かったと思ったが、
彼氏を見ると俺とは正反対の色が黒くアウトドアが趣味のような男だった、
その男をみてやっぱり告白しなくて正解だったかもしれないと思った。
結局「仲良し」だった彼女たちとは疎遠になり、大学3,4年の時は、
男3人でさみしく過ごしていた。
童貞かというとそうではない。
大学2年の時に高校の時の友達が他の大学の女の子を紹介してくれて、
その子と何度か寝たことがあった。
2歳年上で日に焼けた肌が印象的だった、海が好きで友達とよく海に行く話しをしていた、
自然と連絡をとらなくなりそのまま会わなくなってしまった。
そんな軽い付き合いの女の人がもう一人いた。
付き合っているとは言えない関係でお互いのことをよく知りもしなかった。
その女の子は一人暮らしを始めたばかりの俺に家に毎週のように遊びに来た、
背は低く、少しふくよかでいつもヒラヒラしたスカートを履いていた、
下着もヒラヒラしたかわいい下着を着けていた。
髪の毛は少し茶色でいつもキレイにセットしていた。
彼女とは半年は曖昧な関係が続いたが彼女のことが「好き」なのか俺はわからなかった。
わからないと言うことは好きでは無かったのかもしれない。
ただ彼女は俺のことを知りたがり、
どんな高校生だったのか?どんな家庭で育ったのか?
趣味は?好きな映画は?と色々と聞かれたが、
いつも適当に答えていた。
そして気がついたら彼女は家に来なくなり、
そのまま自然と会わなくなった。
こんなハッキリしない俺が嫌になったのだと思う。
ハッキリしない、女子と上手く話せない、
仕事はしていない、俺は冴えない男の代表みたいだ。
こんな冴えない引きこもりな俺だけど、
時代は進化してネット環境が整い家でも仕事が出来る便利な世の中になった。
俺は依頼されたイラストを描く仕事をしている、
「還暦の母親に送る」という絵を今は描いていた。
依頼を受けてから1周間で完成させるようにしていた。
全くの他人のお祝いの絵を俺なんかが描いていいのか?と時々複雑な気持ちになるが、
仕事と割り切って描いている。
人の幸せを描く前に自分の将来を考えろと俺の中の俺は急かしてくる。
そんな自分の内なる声を無視して俺は今日も絵を描く。
「イタズラ手紙」のことは忘れて俺は仕事に集中した。
つづく