顔
「ここで悩んでも解決はしない、きちんと下で話して来る。」
カイは頷いて「わかったじゃ螺旋階段をだすにゃ!」
そう言ってベンチからするりと下りると、公園の少し広くなった場所で、
シッポをくるっと回した、すると青い螺旋階段が地面から出て来た。
地下からドリル車が出て来るような感じで螺旋階段はぐるぐると何かの芽のように出来てきた。
他の人には見えていないらしい、
「おまえもこの螺旋階段も誰も見えていないにゃ。」
遊具で遊んでいる子どもは誰も螺旋階段を見ていなかった。
「じゃ、ミスターブラックと話して来る、色々とありがとう。」
カイにあいさつして下に降りた、
カイは「またにゃ!」と意味ありげに笑っていた。
あの笑顔はなんだ?ミスターブラックと話しても何も変わらないってことか?
俺は小走りで急いで螺旋階段を回りながら降りた。
上って来た時より下りるほうが100倍楽だった、
下に着くとミスターブラックは同じ場所に立っていた。
一度帰ってからまた来たのか?
カイが勝手に付けた名前だから本当の名前はわからない。
そんなことを考えているとミスターブラックが、
「私の名前なんてどうでもいい。記憶の世界はどうだった?」と言った。
(記憶の世界は・・・)
俺はやはり声が出ない、出ないというか取られている感覚だった。
「声が出ないことに慣れないか?心の声が聞こえるから心で話せ」
そう言ってシルクハットをさらに深くかぶった。
心で話すって難しいな・・・
「おまえの記憶の中で見つけてほしい物がある。」
(俺の記憶の中で?)
「そうだおまえの記憶の中、正しくは記憶の奥だ!」
(見つけてほしい記憶ってどんな記憶なんだ?)
「言葉で説明するのは難しな・・・」
そう言ってミスターブラックはゆっくりと白い手袋の手でシルクハット取った。
俺はミスターブラックから目が離せなかった、
帽子を取ったミスターブラックを見て、
息が詰まるのを感じ、恐怖で指先がこわばるのも感じた。
ミスターブラックには顔が無かった、
目、鼻、口がある場所に何も無かった顔が真っ黒で、
手袋を外すと手も真っ黒だった。
「私の顔を帰してくれ」
(えっ?どういうことだ?俺が原因なのか?)
「そうだおまえが私の顔を無くしたのだ!」
(俺じゃない!なんで俺なんだ?そんなの覚えて無い!)
「そうおまえは記憶を消したのだ!だから記憶の世界に行って、
その記憶を思い出して来い!」
ミスターブラックは声を荒らげた、
口が無いのにどこから声が出ているのか、とにかく大きな声だった。
頭がパニックで上手く考えることが出来なかった。
「今日はもう帰りたまえ!無理に思い出そうとすると記憶はさらに奥に行ってしまう、
そうそう、手紙を頼んだ江藤の記憶は消した、彼は手紙のことはもう覚えていない、
今日は休んで明日また記憶の世界に行ってくれ。
1ヶ月後また来る、その時に私の顔を帰してくれ。
もし私の顔を探すことが出来なかったら・・・おまえの顔をすべて奪うことにする。」
(なんで俺が・・・どんな記憶なのか?なんで俺なんだ・・・)
「記憶の世界に行けば思い出すだろう。じゃ1ヶ月後におまえの家に行く。」
そう言ってミスターブラックは煙のように消えてしまった。
記憶・・・顔・・・わからない。俺は途方に暮れる思いだった。
つづく




