真夏の空色
俺は今知らない男と2人で自分の部屋にいる。
この部屋に人が来るのは久しぶりだ・・・人?
男は本当に人間なのか?わからない。
男は黒いスーツにシルクハットを深くかぶり白い手袋をして毛玉1つ無い黒い靴下を履いている。
顔は帽子の影になり良く見えない。声はしゃがれていて年配の人のような声をしている、
話し方はゆっくりで国語の先生のような話し方だった。
俺は緊張で息が浅くなっていた、
鼻から深く息を吸い、ゆっくり口から息を吐いた。
肩の力を抜いて男の方を見た。いよいよ男との話しが始まる。
俺の名前は宮本正樹、24歳で今は無職。
なんでこんなことになったのか?俺はこの男の前に座り過去を振り返った。
ちょうど1ヶ月前のあの日から始まったのだ。
11月の寒い日いつも通り遅く起きた朝、
食パンを食べようとキッチンに立つと食パンを昨日全部食べてしまったことに気がついた。
「めんどくさ」
と独り言をいいながら冷えた洗面所で顔を洗い、
2日前に洗濯して干しっぱなしにしていたGUで買った茶色のトレーナーを、
臭くないか確認しながら着て、
そして何日も洗っていない冷えたジーパンを履いて、
黒の着古したダウンを着て、スマホと鍵をポケットに入れて、
玄関に置いてある箱から新しいマスクを出して外に出た。
まだ11月なのに真冬のような寒さだった。
耳が痛い、早くパンを買って帰って熱いコーヒーが飲みたい。
朝ごはんは必ず食べるタイプの人間で、
毎日同じモノでもいいから朝は何かを食べたい。
徒歩3分の場所にコンビニが出来たのは3ヶ月前だ、
それまでは徒歩10分の場所にあるスーパーに行っていた。
スーパーは昼間に行くと主婦と高齢者が多く、
棚の前で立ち話しをしている人がいるので買い物がスムーズに出来ない。
レジもいつも混んでいるので空いている夜に買い物に行き必要な物を買いためるようにしていた。
家の近所にコンビニが出来て便利になった。
冬は寒く、夏は暑く徒歩10分でも歩くのは面倒だった。
スマホ決済が出来るのでスマホと鍵だけ持ってよくコンビニに行く。
レジ係のまだ10代だと思うアルバイトの男の子、
名札に書いてある名前は「江藤」だった、その江藤くんの顔も覚えた。
俺が買い物に行く朝や昼に良くバイトをしている、毎日にようにバイトに入っているので、
学生ではないのか?フリーターなのか?いつも疑問に思うが、
本人にはもちろん聞いていない。
コンビニに入ると肩の力が抜けるのがわかった、
寒さで体中に力が入っていたようだ。
レジを見ると今日は江藤くんではない女の子がレジに立っていた。
いつものように食パンを買い、
ついでにレジ横の新作のアツアツ肉まんも1つ買った、
女の子が肉まんを袋に入れている間にどこを見たら良いのかわからず、
レジの後ろに大量にあるタバコを見ていた。
疫病が流行りみんな顔の半分を隠している、
人の顔が覚えられない、どんな顔なのかと顔をじっと見るのも失礼なので、
俺は人の顔を見なくなった。
特に女の子の顔は見ない、じろじろとみていると勘違いされそうで怖いので見ないようにしている。
俺は食パンと肉まんを受け取りコンビニを出た。
家に帰るまで体に力を入れて3分の試練に備える。
昔ならすぐに食べた肉まんも、
今はマスクをしているので家までおあずけだ!
早歩きで家に帰る。
俺のアパートは2階建ての濃いグレーの外壁で、
アパートの横に2階に上る螺旋階段が付いている。
その螺旋階段はポストのような赤だった。
友人が家に来る時は、
「赤い螺旋階段」が目印だと言うとみんな迷わず家に来てくれる。
俺は赤い螺旋階段を気に入っていた。
このアパートには大学2年生の時からもう5年も住んでいる。
家賃は安く駅からも近くて住宅街にあるので静かでいい。
最近は友達も来ないが・・・
アパートの前まで来ると郵便屋さんのバイクがアパートの入口に止まっていた、
最後にポストをみたのは1週間以上前だ、
最近はスーツの広告、近所に出来る新しいマンションの広告、
他は近所のエステ、学習塾、など俺に関係の無い、
ダイレクトメールばかりなのでポストは週一回しかみていない。
久しぶりにポストを開けるとたくさんの手紙がポストから出て来た。
手紙はいつも軽くチェックしてポストの隣にあるゴミ箱にすぐに捨ててしまう、
ペーパーレスの今の時代は郵便も昔よりだいぶ減って来ている。
その日も全ての手紙をパラパラと見てゴミ箱に捨ててしまった。
ゴミ箱に捨てた手紙を見ると手紙と手紙の間に、
小さな青い紙が挟まっていた。拾って近くで見ると宛名も書いていない、
10cm×10cm位の青く四角い封筒だった。
封筒の表裏を見ても何も書いていなかった。
ゴミ箱に入れた手紙をもう一度拾って良く見るともう一枚同じ青い封筒が入っていた。
俺はそれを拾い寒さに震えながら急いで家に入った。
部屋に入りすぐにエアコンのスイッチを入れてまずは部屋を暖めた。
手を洗い、マスクを外してその封筒を見た、
真夏の空のようなキレイな青い封筒だった俺はゆっくり封筒を開けてみた。
中には同じ真夏の空のような青い紙が入っていて、
「9」という数字だけが書かれていた。
「9?ってなんだ?」
紙の後ろを見ると滑り台のイラストが描いてあった。
「滑り台?」
そしてもう一枚の手紙も開けて見ると、
「10」と書いてあった。
「10?ってなんだ?」
同じく後ろを見るとプールのイラストが描いてあった。
「プール?」
真夏の空のような手紙いったい誰がどんな目的で送って来たのか?
俺は不思議に思った。
つづく