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東部第二連邦高等女学校の日常  作者: キュッチャン
3/39

第3話『パトロールボランティア』

──東校生徒会室

「懲罰として『機械化装甲射撃偵察帰宅部』に、一週間のパトロールボランティアを命ずる」

「……」

「返事は?」

「わかりましたよ、生徒会長どの…」



──部室

「ということで、今週一週間、強制でパトロールボランティアだ」

部長が言った。

静かな部室内では、ストレロクがおやつのソーセージを食べる咀嚼音が響いていた。

「まぁー…西校生徒会と直接対決したにしては軽いほう、かな~…」

「お前のせいだろ」という視線が発言者のメガネに注がれた。

新入りだけはそれには加わらず一心に自分のSVUの掃除をしていたが。

「ん~、まぁ言いたいことは色々とあるが、全員パトロール用意。

"ありがたい"ことにチェキストの同行もあるそうだ」

そう言うと部長はロッカーに向かい装備を選びだした。

他の者もそれに続きロッカーに向かった…。


──15分後

「準備は整ったか?」

生徒会の藤崎が部室の入り口に現れた。

「チェキストのご到着だ」

部長が聞こえないように呟く。


「パトロールのルートはこの地図のとおりだ、…地図は読めるだろうな?」

「バカにしやがって」

「馬鹿どもの集まりだから心配になってな。

まぁいい、後ろに居るからな、道ぐらい教えてやる」

打ち合わせを終えて、部員たちがBMPに向かうのを藤崎が制止した。

「待て、クルマは無しだ。全員自分の足で歩くんだ。懲罰だからな」

「へぇ、藤崎"どの"はどんなヘマをやらかしたんで?」

「ただの貧乏くじだ。お前たちのせいでな」


「クソッ……」

PPが悪態をつく。

「PP、どうしたの?」

「気にするな、クルマをいじれない時は機嫌が悪いんだ」

部長が新入りに言った。

「PPでなくたってこんなに歩くの嫌だよ~」

メガネがわめいた。

「たまには散歩も悪くないさ」

「ストレロクは砲手なのに?」

「新入り、お前は私が砲手の時しか知らないだけさ、部に入る前はずっと自分の足で歩いていた」


(悪態をつきたいのは私の方だ…)

最後尾を歩く完全アウェー状態の藤崎は、まったく気の毒な状況だった。

墜落輸送機の一件から、西校と東校両校の生徒会で何度となく報告をし、会議に出席した。

その挙げ句にこのパトロールボランティアの監視任務なのである。

「ヒッ!?」

ふと後ろを振り向いたメガネは、藤崎の生気のない顔を見て小さく悲鳴を上げた…。


「チェキスト、そろそろスラムに入るぜ」

「藤崎だ。…確かにここが一番の危険地帯だ、おしゃべりをやめて集中しろ」


「チッ、嫌な空気だぜ、誰がこんなところのパトロールなんて頼んだんだ」

「通常のパトロール経路だ、他意はない」

「どうだかな。藤崎さんよ、あんたもまとめて消そうってんじゃないのかい?」

「馬鹿め、それならこんな邪魔の入るような場所ではやらない」


「進む度にあちこちから装填音が聞こえる…」

「新入りはスラム育ちじゃなさそうだからね、スラムのよそ者なんてそんなもんだよ」

メガネが言い聞かせる。

「BMPで走り抜ければ良いんだ、スラムなんて」

PPが不機嫌に呟く。

「これみよがしに銃を構えたりするなよ、新入り。藤崎、あんたもだ」

「パトロールはこれが初めてじゃない。お前たちの新入りと一緒にするな」


──突然銃声が響いた、前方の商店から人々が慌てて駆け出していく。

その後ろから銃を持った男と、両手いっぱいに何かを抱えた男が走っていく。


「クソッ!今の見たか?」

部長が言った。

「見ちまった…」

ストレロクが答える。

「止まれ!東校パトロールボランティアだ!」

藤崎が男たちに向かって叫ぶ。


「馬鹿!」

部長が藤崎に覆いかぶさるようにして押し倒す。

直後周囲に銃弾が着弾した。

「後ろめたい連中の集まりなんだぞ!叫んだら他の奴らも反応する!」

「もう手遅れだ!」

ストレロクが叫びつつ構えたAKS-74Uで二人の男を正確に撃ち抜き、二人は砂袋のように倒れて動かなくなった。

更に新入りは、先程銃撃してきたベランダのスラム住人を撃ち殺した。

「このまま大通りを進んで脱出するぞ!」

藤崎を立たせながら部長は叫んだ。

「正気か!?」

藤崎が叫び返した。

「来たことがねぇスラムの小道なんか使えるか!

道沿いに大通りを進むしか無い!」


大通りはすっかり阿鼻叫喚の騒ぎとなった、逃げ惑う住民たちを押しのけて、仲間を殺された住民が武器を持って集まってくる。


「武器を持ったやつが見えたら撃ち殺せ!」

「無茶苦茶だ!」

部長の指示に、藤崎が悲鳴のように叫ぶ。

「誰のせいだ!」

「元はと言えばお前たちがっ!」


「ちょっと言い争ってる時じゃないでしょ!」

メガネが言った。

「お前が!」「お前が言うな!」

藤崎と部長が同時に叫んだ。


「新入りは上を警戒しろ!お前のSVUが一番射程が長い!」

ストレロクが指示を飛ばす。

「了解」


一行は大通りの片一方に沿って前進を続けた。

今やスラム全体が半ば発狂したように、いたるところで銃声が響いていた。

「治安パトロールが聞いて呆れるね」

「……」

部長の皮肉に藤崎は無言で唇を噛んだ。

「これを一週間続けたら、スラムもキレイになりそうだ」

ストレロクが言った。

「……」

メガネも沈黙を保ち。

新入りは無言でベランダや屋上を警戒している。

PPのフラストレーションも最高潮といった具合で、今にも暴発しかねない。


「そこで曲がるぞ、南に直進すれば学校側に出られる」

部長の指示はパトロールの中断を意味しているが、この状況ではパトロールの継続など望むべくもなく、

仏頂面の藤崎もうなずいた。


「……」

先頭で警戒していたストレロクが手を上げて後続を制止した。

「テクニカルが一台、道を塞いでる。近くに武装住民が数人。

確認できたのは路上のやつだけだ、ベランダがどうなってるかまでは確認できなかった」

「テクニカルの銃手を狙撃しろ新入り、あたしたちは他の奴らをやる」

「迂回路を探したほうが良いんじゃないのか」

藤崎が言った。

「銃声も大人しくなってきた、そろそろ混乱が収まってこっちの位置を特定し始めるだろうな。

テクニカルを奪って脱出するのはどうだ?」

ストレロクが提案した。

「その手で行こう。PP、周囲の敵を制圧したらテクニカルを奪え」

「わかった」


「今だ、銃手が向こうを向いた!」

ストレロクが低い声で叫びながらハンドサインを出した。

一斉に曲がり角から飛び出した6人はテクニカルの銃手と周囲の武装住民に一斉射を食らわせた。

運良く物陰に隠れられた武装住民も制圧射撃を受けて身動きを取れなくなった。

マカロフを握ったPPがテクニカルへと全力疾走していく。

新入りは道の真ん中へあえて進み、そびえ立つスラムの高層を警戒する。


物陰に隠れた武装住民が反応するより早く、PPはマカロフの銃弾を叩き込み住民を始末し、テクニカルを奪うことに成功した。

エンジンを始動して南に旋回させる。


「全員乗ったな!?

PP!早く出せ!」

部長がテクニカルの天井を叩いて合図する。

急発進するテクニカルの荷台では掴まり損ねた部長、藤崎、新入り、メガネがバランスを崩してよろめいた。

「クソ!新入り、銃座につけ!」

「了解」

「なんで私がこんな目に合うんだ!」

藤崎は転倒してどこかをぶつけたらしく涙目になっている。


「新入り!正面を掃射しろ!」

窓から身を乗り出して射撃しながらストレロクが叫ぶ。

スラムの出口を固める武装市民たちに機関銃弾が着弾する。

テクニカルは、武装市民たち(あるいはその死体を)

跳ね飛ばしながらスラムを脱出した。


スラムを脱し、速度を落としたテクニカルの荷台でメガネが呟いた。

「これ、本当に一週間もやるの…?」

部長は無言でタバコを吸っている。

藤崎は放心状態らしく答えない。

新入りは満足げに荷台に座り込んでいる。

「PP、次の交差点を左に曲がって」

ストレロクは地図を見ながらPPにナビゲートしている。

「オーケー」

PPはクルマなら何でも満足らしかった。

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