島に潜みし邪悪
「島の外は中々面白かったぞジャリュウ」
捕食者の島の森の奥地。
ダイルが蛇の鱗を纏う青年に、以前の外の住人…粉砕男達との戦いを語っていた。
ジャリュウは面白くなさそうな顔だった。
この島には彼らに及ぶような捕食者はもういない。昔は強敵が多かったのだが、今では強敵が猛威を振るっていた時に隠れていた弱者ばかりで、二人はこんな死地でも世間話ができた。
ジャリュウは低くこう呟く。低いが、ダイルと比べれば高めの声で。
「お前らばかり得して。何か置いてかれたみたいだ」
「そう言うな。本来ならば違反行為だ」
ダイルは地面を見た。
頑丈な土だが…この下に何があるか彼らは知っていた。
「次外に出れば、俺らでもあの方に食われる。あの方が捕食者の頂点である事を忘れるな」
楽観的に見えるダイルも、この時ばかりは脅すような声を発し、そのまま背を向けた。
ジャリュウは、手頃な岩に腰かけて、自分の膝の上に肘を置き、頬杖をついた。
「…」
…ジャリュウの背後の茂みが、小さく揺れた。
振り替えると、そこには茶色い毛皮を着たジャリュウと同い年くらいの青年。
狼のハウンディだ。
「なあハウンディ。このまま縛られ続けるのか?この島に」
ジャリュウの言葉を聞くハウンディの目は…何と言うか、無機質だ。
なのに生気を感じられる。
…彼は瞳に備えた無機質な壁の向こう側に、熱い感情を秘めているのだ。
「俺達は捕食者。強い相手と戦って、そして喰らう。俺達の生き方はそれだけ。なのに、俺達にはもっと色々な所へ行く力を持っている。生き方を縛られてるにも関わらず」
「そう。だからこそ、もっと色々と知りたい。…流石ハウンディ。将来お前と殺しあうのは、ちょっと気が重いよ。ハヒヒ…」
あえて間抜けな笑い声をあげてみせるジャリュウ。
ハウンディの目は、変わらなかった。
「何より、俺とお前は…似てるからな」
真顔になるジャリュウを見て、ハウンディは少し下を見た。
…そんな彼らの姿を、一つの黒いドローンが監視していた。
森の木々のほんの僅かな隙間の映像を、隅々まで細かく遥か遠くの城のモニターへ送り出していた。
映像を見ていたのは、白衣を着た蛙のような姿をした怪人、そして黒いツインテールに眼帯の女…闇姫。
蛙怪人の名はガンデル。闇姫軍屈指の腕前を持つ科学者だ。
「やはりです闇姫様。僕の狙い通り、この最強の捕食者四人の裏に、更なる上が存在するようです。いかがいたしましょうか?」
「時代に乗り遅れた下等どもだと思っていたが、早急に対応する必要がありそうだな」
赤い椅子に座っていた闇姫がゆっくり立ち上がり、部屋の隅に置かれてあった写真立てを見る。
ここからでは、光が反射して見辛いが…闇姫の頭にはある人物達の顔が浮かんでいた。
「ガンデル。今回の件、私の妹達も呼び出してでも迅速な対応が必要だ」
「ええっ!?…黒姫様と影姫様をお呼びに…!?」
わざとらしい程の勢いで尻餅をつくガンデル。闇姫は動かず、モニターを睨むばかり。
木々に囲まれた島の地面…。
闇姫は、この島から感じる底知れぬ魔力を感じ取っていた。
…そして更に場面は変わり、捕食者の島のある場所…。
虎縞の毛皮を着ており、山吹色の髪に虎の耳が特徴の女、タイガが、暗黒に支配された空間である人物に頭を下げていた。
「悪喰様…!どうか我らに外の世界で戦う権利を…。この島ではもう物足りません!」
暗闇に頭を下げ続けるタイガ…。
…と、暗闇に何かが浮かび上がってくる。
真っ赤に輝く、巨大な目だ。目だけでタイガよりも大きい。
…捕食者の裏に潜む者だ。
「タイガ。お前はいつからそんな弱い頭になった?外での暮らしを許される捕食者は、唯一生き残った捕食者だけだ」
歯を食い縛るタイガ。鋭い牙がちらついている。
巨大な目…悪喰はそれだけ言い残すと、再び暗闇へと消えていった。
頭を上げるタイガ。
…胸元から、ある物を取り出す。
緑色に輝く宝石だ。これは以前外の世界に出た時に宝石店から盗み出したもの。
「…ジャリュウ」
呟くタイガ…。
…その時!暗闇から飛び出す紫の光線が、タイガの手元の宝石に直撃した!
一瞬で粉々になる宝石…タイガは唖然とした。
「異物を持ち込むな」
暗闇にこだます、悪喰の声。
…タイガは、両腕をダランと垂らしてしまっていた。