3話 ネプト国王陛下 その1
「まさか、ネプト国王陛下がこんなところに来るなんて……」
「こんなところというのは姉さま……言葉をお選びになられた方が良いかもしれません」
「ああ、ごめんなさい。別にそういうつもりではなくて……」
まさか、1つの舞踏会に何の予告もなく現れたことに私は驚いていた。周囲の貴族達も同じ気持ちなのか、
「ネプト様がまさかいらっしゃるとは……!」
「これは驚きですわ!」
「ご年齢の件もあるのでしょうな……少しでも貴族との間柄を縮めようとされているのか」
などと言ったように、驚きの言葉が舞っていた。私もフォルセとそんな風な会話をしているわけだけれど……。今すぐに挨拶に行きたいところではあるけれど、流石は国王陛下と言うべきだろうか、護衛の質が明らかに異なっており、簡単には近づけない。
それに、他の貴族達も順々に挨拶に行っているようなので、少し待った方が良いかもしれないわね。それにしても、私は不思議に思っていたことがあった。それをフォルセに聞いてみる。
「そう言えばフォルセ」
「はい。なんでしょうか? 姉上」
フォルセは「姉上」と「姉さま」という言葉を上手く使い分ける癖がある。真面目な話をする場合は、大抵は姉上と呼んでいる気がするわね。まあ、最近では本人の中での線引きも曖昧になっているんでしょうけれど。
「あなたはこの情報をどこで仕入れたの? 明らかにネプト様がいらっしゃることを知っていたわよね?」
「えっ? は、はい……それは……」
「?」
どうしてその部分で言いにくそうにするのだろうか。私には理解出来なかった。
「実はですね、姉上。この舞踏会への出席を依頼したのは……国王陛下御本人でございまして」
「はっ……? どういうこと……?」
ていうことはつまり……ネプト国王陛下は、フォルセとの連絡を事前に取っていたということになる。そうとしか考えられない。
「フォルセ、あなた……どういうつもり? どうして、ネプト様と連絡を取っているの? というより、そんなことが可能なの?」
「いえ、自分の方から連絡を取ったわけではなくてですね……ネプト国王陛下の方から連絡が来たのです」
「な、なんですって……!?」
ますます驚きだ……とても信じられないけれど、事実なのだろう。フォルセがそんな嘘を吐くはずがないから。
「あ、ちなみに……このことは、父上や母上も知っていますよ? 最初に連絡が来たのは、父上にですから」
「この10日の間に随分と大掛かりな仕掛けを施していたわけね……」
「ま、まあ……そうなりますかね」
この舞踏会への出席は前から決まっていたことだけれど、フォルセが一緒に来た理由は確実に私がこの会場に足を運ぶように仕向ける為だろう。万が一、ネプト国王陛下に会えずに終わってしまったら意味がないからね。それにしても……ネプト様は何を考えていらっしゃるのか。
「アーチェ・ノーム伯爵令嬢、フォルセ・ノーム伯爵令息! 済まない、待たせてしまったかな?」
「えっ、ネプト国王陛下……!?」
まだ、貴族達との挨拶回りが続いているはずだけれど……どうやらネプト様は、私達の存在気が付いたようだ。
私と弟のフォルセの名前を呼びながら、接近してくる……他の貴族達は何事かと、私達に一気に視線を向けていた。この状態でネプト国王陛下と相対する必要があるなんて、とても緊張してしまうわね……。