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六話

「あ、治った」


 地獄のような苦しみは、6時間後に前触れもなく消えていった。

 丁度、兄貴が呼んでくれた医者が見ていた時のことだった。治った身体を確認するようにその場で跳ねる。

 元気に動く俺を心配そうに眺める兄貴。


「本当になんともないのか?」


「うん……。どこも苦しくないな」


 そういいながらも、俺には気になる点があった。

 視界の隅に浮かぶ数字だ。

 最初は−6:00:00と浮かんでいたのに、今は全てが0。しかも、これは俺が苦しんでる間、ずっと動き続けていた。


「この数字が0になった瞬間に苦しみが回復した……?」


 俺の苦しみには間違いなくこの数字が関係している。だが、それが一体何を示しているのか分からない。

 困惑する俺の肩を叩く。


「……とにかく、お前が無事で良かった。折角、50年ぶりにあったのに、いきなり死なれたら、俺はもう……」


 目に涙を浮かべる兄貴。成績優秀で弟思いなところは年を重ねても変わっていないようだった。兄の涙が照れ臭くなった俺は、


「そんなことより、何が起こってるのか教えてくれないか?」


 椅子に腰を降ろし、まだ聞けていない未来事情を兄貴に聞いた。俺の正面に座り腕を汲んだ。


「あ、ああ。そうだな。今、この世界は――魔族によって支配されているところまでは説明したな?」


 この世界が50年後で魔族に支配されているということは、昨日の内に兄貴から聞いていた。

 だが、一番重要な魔族については何の説明もない。


「ああ。それで魔族ってのはなんなんだよ」


「分からない」


「は?」


「魔族について分かっていることは数少ない。未知の力を持っていることと、人間を使って遊んでいること。この二点だけだ」


「なんだよ、それ! 国は何してるんだ?」


「国がどうなったのかも、俺達は知るすべがない。何故なら、『愛日』は魔人が生み出した結界で隔離されているのだから」


 兄貴は重苦しい口調で言った。

 結界、隔離。

 次から次へと日常生活では聞きなれぬ言葉に、俺はただ黙ることしかできなかった。







「結界なんて、本当にあるのか?」


 銀一の話を聞いた俺は、『愛日』の境界にやってきていた。『愛日』を囲うように生み出された黒い幕。目を凝らせば内側から外の景色が見える。膜の向こうは俺の良く知る日本があった。

 少なくとも、ファンタジー風よりもなじみがある。


 俺はそっと手を差し出し壁を超えようとすると、「バチィ」と、電気のような光が飛んだ。腕が消し飛ぶような衝撃。


「……っ!」


 あまりの痛みに俺は後方へひっくり返る。

 地面をゴロゴロとのたうち回る俺にアカネが言った。


「ちょっと、いきなり何してるのよ。境界を無理に超えようとしたら死ぬのよ!」


「それを早く言ってよ」


「言う前に試したのはあんたでしょ?」


「だって、目の前に普通の世界が広がってるんだよ? そっちに帰りたいに決まってるじゃんか」


「はぁ……。もし、そっちの世界に行きたいのなら、『愛日ここ』で結果を残すことね。そうすれば、結界を抜けることは出来るわ」


 アカネさんは、面倒くさそうにしゃがみ込み、


「なんで、父さんは私に説明係を押し付けるのかしら。弟なら自分で面倒見ればいいじゃないの」


 ブツブツ文句を言う。

 俺に本音を隠すつもりはないのか、彼女の声は丸聞こえだった。銀一にとって俺は双子の弟だが、アカネにとっては見知らぬ同世代。双子だと信じてはいないのかも知れない……。


「それで? 聞きたいことがあったら教えるわ。なんでもいいから、聞いてちょうだい。聞きたいことがないなら帰るわね」


「え、聞きたいこと?」


 てっきり、教えて貰えるかと思っていたのだが、まさか自分から聞けと言われるとは。


「その、俺、まだ良く分かってなくて……」


「言っとくけどね、誰かにやって貰おうとしてたら、今の時代じゃ生きられないわよ?」


 俺は同年代に咎められた。

 50年後には『ゆとり』も『さとり』のないのか……。

 俺は思い付いた疑問を投げた。


「その魔族は人を使ってゲームをしてるって言ったけど、どんなゲームをしているんですか?」


「簡単に言えば――戦争よ。魔族は7つのグループに別れて、人間を集めてるの。どのグループが勝つのか、魔族はそうやって遊んでるのよ」


「それが――群衆クラスタ


 そう言えば、昨日、俺が初めて会った時、アカネさんは群衆クラスタには手を出すなと言っていた。つまり、彼らは魔族に使える戦士だったというわけか。


「そう。群衆クラスタは、この世界では特別階級で、あらゆる特権が認められてるのよ。結果を出せばボーナスも支給される」


 殆んどの人間が目先の欲に縋り、人として戦うのを辞めた。自分だけを満たすために魔族の犬になり下がったとアカネは笑う。


「私も含めて最低なのよ、この時代を生きる人間は」


「どういうことですか?」


「こういうことよ」


 そう言うとアカネさんは俺の手を握った。まさか、俺のことが好きになったとか?

 異世界に来て混乱した俺の頭は都合のいい事しか考えられなかった。


 アカネが俺の手を握ったのは単に別の意図があった。俺が結界によって痛んだ皮膚が見る見る回復していくではないか。


「え、これって……?」


「【魔能力】。魔族から与えられた力よ。これに目覚めれば晴れて【貴族】の仲間入りよ」

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