四十七話
どうやら絵本は、【ご褒美】を貰った帰り道、傷だらけの素子さんとすれ違ったらしい。傷だらけの彼女を心配して、俺を探してくれていたらしい。
絵本はこんな時代でなければ、男女から好かれる人気者になっていたことだろう。
「ふむ……。この状況、なんとなく察したよ。私も力を貸すよ、銅次くん? それとも一対一で戦いたいかな?」
クスリと俺を見て笑う。
前言撤回だ。確かに優しいが一言多い。俺が苦戦していることを分かった上で付け足している。
しかし、俺一人じゃ阿散さんに勝てないことは、文字通り身体に教え込まれた。
「正直、助かるよ。でも……二人でも勝てるかどうか。今の彼女は攻撃も効かない上に、身体能力が更に何倍にも強化されてるようだから……」
「なるほど。だったら、力を貸すとか言わなければ良かったかな?」
お道化たような笑顔を浮かべる。
だが、この場から逃げる気はないのか、背中に手を運び、一冊の絵本を握る。
「とか、いいながら戦う気あるじゃないか」
絵本がいれば心強い。抱える絵本の話を現実に引き出す絵本の【魔能力】は応用が利く。
横に並んでくれるだけで、どれだけ心強いことか。
二対一ならば――勝てる。
倒すべき阿散さんに向き直ると、
ドスン。
攻撃をしていないのに、阿散さんが地面に倒れた。
背中を地に付けて太陽の眩しさに眩んだかのよう目を腕で隠す。「はぁ、はぁ、」と息を荒げて苦しそうだ。
この姿はまるで、心臓を握り潰された症状と似ていた。
俺が知る限り、こうなる条件は二つ。
力を与えて貰った魔族――即ちイムさんに心臓を握られるか。
そして、もう一つは【魔能力】に何かしらのペナルティ機能が搭載されているかだ。俺の場合は時間の前借り。
「イムさんが戦いを止めるため……なんて考えられないし」
となれば、可能性は【魔能力】の使い過ぎだ。俺は絵本と顔を見合わせて彼女の元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
倒れた阿散さんの身体を起こすように、背中に手を入れる。だが「フン」と肩を捻って払いのけられた。敵である俺に心配されるのが嫌なのだろう。
しかし、この状況で放っておけるわけもない。
「大丈夫、俺は今の状態のあなたに危害を加える気はありません。命に別状はないですよね?」
何度拒絶されようが、俺は声を掛け続ける。
俺の考えに同意してくれた絵本も、彼女を助けるべく助力してくれた。
「彼の思いは本物です。命に危険があるなら教えてください」
絵本の問いに、阿散さんはより一層、苦しそうに呻き答えた。
「命は大丈夫……です」
良かった。
やはり、【魔能力】のペナルティだ。しばらく、安静にすれば治るだろう。
「一応、イムさんの元へ運ぼう。最悪、治療を頼めるように」
「分かった!」
絵本と俺は阿散さんを、イムさんがいる建物まで運ぼうとする。戦いでかなり吹き飛ばされてしまっていた。
俺は阿散さんの足に回り、そっと太ももに手を伸ばす。
絵本は彼女の肩に手を入れた。
「せーので!」
2人で息を合わせて力を込めた時――、
「いやだ!!」
ゲシゲシと、阿散さんが足を動かした。暴れる彼女の足は俺を蹴り付ける。ペナルティを受けているとは思えぬ脚力。彼女の蹴りを受けた俺は、吹き飛び壁に激突した。
「なんで……。絵本、大丈夫か!?」
「私は……なんとも」
どうやら、攻撃を受けたのは俺だけのようだ。
絵本に肩を掴まれたまま固まる阿散さん。顔は完全に絵本に向けられ、心なしか瞳にハートが浮かんでいるような……?
俺の気のせいだよな?
「絵本、絵本」
ちょいちょいと絵本を招き、今度は絵本に足を持ってもらう。俺が肩に手を入れ、「せーの!」と立ち上がる。
だが、今度は肩を掴む俺の手を握り、ミシミシと手に力を込める。
あまりの握力に手を放す。
頭から地面に落ちたが、やはり顔は足を持つ絵本に向けられていた。きゅるんと手を頬に沿えて「痛いー」とぶりっ子をする。
「……」
さっきまで、俺の打撃では何一つダメージを与えられなかったのにな……。
「絵本、絵本」
今度は俺一人で彼女を抱える。
すると、全てが嫌になった赤子のように大声を上げ四肢の全てを使って解放を望む。強化された身体で暴れられては、俺では太刀打ちが出来ない。
彼女の力に吹き飛ばされた俺は、本日、二度目の壁にぶつかる。
「絵本、今度はお前がやってみてくれ」
「……それを見たら、放っておいた方がいい気がするんですけど」
文句をいいながらも彼女を抱える絵本。
「……なんでだよ!」
まるで、王子が姫を抱えるように優雅に立ち上がった。阿散さんは暴れるどころか、自分の意思で絵本の首に手を回した。
これは……これは、どういうことだ?
混乱する俺に、素子さんがやってきた。
離れた場所で、いつでも俺を連れて逃げれるように隠れていたらしい。俺の横に並んで阿散の態度について教えてくれた。
「阿散は、【ご褒美】として、お見合い相手を紹介してもらってたの。理想の顔に出会うために、色んな管轄から」
「……お、お見合い?」
俺がいた50年前でも中々聞かぬ言葉だぞ?
「うん。でも、これまでに阿散のお目にかかる相手はいなかったの。ただ――」
素子さんは絵本の顔を指さした。
「多分、絵本がど真ん中ストライクなの」
「ええ……」
考えられないが、確かに阿散さんに戦意はなかった。
苦戦を強いられた戦いが、というか、9割方負けていた戦いが、まさか、こんな形で決着がついてしまうのか?
俺は絵本に近づき、耳元であるお願いした。
「私は別に構いませんが、素直に受け入れるとは思いませんよ?」
順番を超えたいきなりの俺の願いに疑問を抱きつつも、絵本は阿散さんに伝えてくれた。
「阿散さん。私たちは、人を殺めることを良しとしたくないんです。もし可能であれば、貴方にも協力をして欲し――」
「喜んで!!」
お姫様のように抱えられた彼女は、絵本が言い終わるよりも早く、「ぐっ」と、その胸に顔を埋めた。
今の彼女は、戦闘狂というより一人の恋する少女だった。
「えっと……。とにかく、これにて一件落着、なのか?」
これまでにも戦いの後に胸に何かが突っかかることは多かった。
だが、今回は、これまでとは違う理不尽さが俺を襲うが……。
うん。まあ、いいでしょう。
仲間が増えたのはいいことだ。
俺は無理矢理、自分を納得させるのだった。
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