三十三話
「は……?」
能力を持たない人間って……。
それはつまり、兄貴のように普通に暮らしている人々のことではないのか?
混乱する俺と対照的に素子さんは平然としていた。
「対象は殺さないとポイントは手に入らないから注意するように……って、書いてあるの」
「見せてください!」
そんな内容が書いてあるとは到底信じられない。
俺は素子さんが持つ巻物を奪おうとするが――、
「自分のを見ればいいの」
するりと身体を捻って、躱されてしまった。
ここで能力を使って奪おうと考えたが、絵本が俺を止めた。
「何をする気だ? 私も持ってるから、一緒に見よう」
能力が書いてあるだけの巻物に、ルール確認という用途があったとは考えも付かなかった。絵本と共に巻物を覗き込むと、確かに素子さんが口にした内容が書かれていた。
「本当なのかよ……」
力を持たない人間を殺すように仕組まれたルール。
これもまた――魔族が決めているのか。
決して逆らえぬ俺達を使って遊ぶ魔族。優越感に満ちた扱いに満足してそのことに気付かぬ【魔能力】を持つ人々。
良く出来た仕組みだ――。
怒りで拳を握る俺に、
「より多くポイントを稼ぐためには……バラバラで行動したほうが良いと思うの」
どうやれば、この勝負を勝てるか指示をする素子さん。勝つということは人を殺すことに抵抗を持っていないということで――。
「素子さん!」
「どうしたの?」
「素子さんは、このルールに疑問を抱かないんですか?」
「……? 魔族が決めたルールなの。逆らったら私たちが殺されるかもしれないの」
【魔能力】を持つ俺達は、魔族には逆らえない。
それは俺も知っている。
でも、だからって、そう簡単に割り切れるわけがない。
素子さんを説得しようと、詰め寄る俺を再び絵本が止めた。
「ここで言い合っていても、埒が明かないですよ。ルールで決められている以上、仕方がないことです」
「絵本、お前――」
このルールに何も思わないのか。
そう告げようとした俺の口に人差し指を当てると、俺に顔を近付けた。
「君が何を言いたいのかは分かっている。だからこそ、ここで文句を言っても仕方がないですよ。止めるならば身体を使わないと」
「絵本……」
言葉が通じないのであれば、一線を超えぬ拳で語り合う。
それは兄貴の話を聞いて俺が辿り着いた答えだった。
「それに、この時代では素子さんの考えが当たり前。そこを認めるところから、君は始めるべきだと私は思うよ」
ウィンクと共に俺から離れる絵本。
自分が常識だと思うことを一方的に相手に押し付けるのではなく、理解したうえで話をした方が良いか。
絵本の言葉に俺は一気に冷静になる。そうだ、押し付けるだけでは過去で俺が受けた生里達からの虐めと同じではないか。
死を前にして、俺はそんなことも分からなくなっていたのか。
「そうだよな。ありがとな、絵本」
「礼には及ばないさ。それより、『ハント戦』は全員がバラバラの場所からスタートするようだ。なるべく早めに合流したほうがいいだろう」
「……だな」
絵本の言葉に頷きながら素子さんに視線を移す。露出狂の彼女は何を考えているのか読み取れぬ、「ポーッ」とした表情だった。
ルールを俺達が確認し終えると、天からの声が響く。
「よっしゃー! それじゃあ、試合始めるぜ? よーい、ドン!!」
弱者を殺すゲームが、運動会のような楽し気な声で始まった。




