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三十一話

「俺は今まで兄貴に色んなことを背負わせてたんだよな」


「そんなことない。ただ、お前も吹楚すいそのことが――」


「兄貴!!」


 俺は兄貴に向けて叫んでいた。

 誰にも言っていない俺の心。それは兄貴にも言っていなかった筈だが、双子だからこそ、言葉はなくても感じていたのか。


「俺を更に苦しめたいなら、出てってくれよ!」


「……悪かったよ。でも、俺はお前を苦しめようとはしてない。ただ、今度こそちゃんと話を聞きたかったんだ」


 引き籠った俺が兄貴にはあの時と重なって見えたのだろう。

 だからこうして話を聞きにきた。

 50年前に放置した弟を今度は助けるために。


 兄貴はお盆に置かれたカップを取り、「グっ」と一口で飲み干した。俺のために甘くしていたココアは、老人となった兄貴には甘すぎたらしい。


 ゴホゴホと咽る。髭を生やした老人の子供っぽい姿。それは50年前と何も変わっていなかった。

 些細な日常が俺の心の重しを少し軽くした。

 ふっと、肩の荷が軽くなり頬が緩んだ。


「なんで、俺のために持ってきたヤツを勝手に飲むんだよ」


「そりゃ、お前がいつまでも飲まないから」


 兄貴と俺はいつもこうだ。

 くだらないことで喧嘩をして、くだらないことで仲直りする。


「それで、銅次は何を悩んでるんだ?」


「……それは」


 俺は公式戦で起こったことを兄貴に説明した。

 目の前で俺と年齢の近い素子もとこさんが、対戦相手を殺したことを。


「アカネも生里を殺そうとした。人が人を簡単に殺すことが、俺には信じられないんだ」


「……時代が変わったからね」


 時代の流れは残酷だと兄貴。

 生きている内に評価されなかった芸術家が、死後に評価されることもある。だから、『殺す』ことに抵抗がない時代が来ても不思議ではない。


「でも、俺はそれを知っていながら目を逸らして兄貴に……。もう少し深く考えていれば今回の件は止められたかもしれなかったんだ」


 時代による価値観の違い。


「……」


 俺の言葉を兄貴は瞳を閉じて聞いていた。

 そんな兄貴に俺は問う。


「なあ、兄貴……。俺はどうしたらいい?」


 殺すことは悪いことだと教え込まれてきた時代から、殺すことが普通の今にやってきた俺。どうやって受け入れればいい?

 全てが優秀な兄貴なら、答えを知っているのだろう?

 兄貴は俺の問いに、迷うことなく瞳を開くと、問いを問い(・・)で返した。


「……銅次はさ。生里をどうしたいと思った?」


「へ?」


 知りたかったのは兄貴の答え。

 それなのに俺に聞かれても……。


「いいから、教えてよ。一番憎い相手を前にして、銅次は生里を殺したいと思って戦ったのか?」


「俺は――」


 俺は生里を倒したいと思った。

 でも、それは吹楚先輩に酷いことをした恨みを晴らしたいだけで、殺したいとまでは思わなかった。そういう俺を兄貴は肯定した。


「なら、それでいいんじゃない? 銅次が嫌ならそれでいい。ここはそういう時代なんだから」


 自分が嫌だと思うのであれば、それを貫き通す。

 相手が話を聞かずに戦うのであれば自分も戦えばいい。


「ただ、絶対に一線は超えちゃ駄目だ。銅次ならそれが出来ると思ってるよ」


「……それでいいのかな?」


 自分の考えに自身が持てぬ俺に、兄貴はお道化た。


「さぁ? ただ50年前に吹楚が面白いことを言ってたなって思い出した。特撮ヒーローもさ、配信サイトのジャンルでは『暴力』に分類されるんだって」

 

 ヒーローだってやってることは暴力だと――兄貴は笑った。

 やっぱり、俺は兄貴には敵わないや。俺が自分の中で絡ませていた思いを当たり前のように解いてくれる。

 理解してくれる人間がいることが、背を押してくれる人間がいることがこんなにも心強いことだと俺は知らなかった。


「……ちょっと、外の空気吸ってくる」


 俺は兄貴に笑い、部屋を飛び出した。

 閉じられた扉の向こう。

 部屋に残った兄貴は呟いた。


「そう、それでいいんだ。銅次――お前は変わるなよ」


 この時――兄貴の声が俺に聞こえていたら、これからやってくる未来は変わったのだろうか?

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