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三十話

 公式戦が終えてから三日が経過していた。

 俺は自分の部屋に籠っていた。外に出る気力も誰かと話す気力もなかった。ああも簡単に――人が死ぬとは。


 俺が唯一知っている死は祖父だけだ。病死だったことは覚えている。でも、今回は違う。『死』が人の手によって招かれたのだ。仲間の素子もとこさんによって。

 なによりも、俺が驚いたのは碓氷さんを倒した素子もとこさんは、いつもと変わらず無表情だったこと。


「違う色の群衆クラスタを殺すと、ボーナスが貰えるの」


 だから――殺した。

 素子もとこさんは悪びれる様子もなく言い切った。


「それがこの世界では当たり前で、異質なのは俺なんだ」


 生里と戦った時に、アカネを見ていて分かっていたことだったんだ。でも、俺は目を逸らした。兄貴に全てを任して、俺はいつも通りを貫こうとした。

 それが――間違いだったんだ。


 時代が違うのであれば、俺も変わるべきだった。


 何もしなかった結果、俺が見たくなかった光景が俺の前で行われた。もし、俺があの時、兄貴ともっと話し合ってこの時代について考えていれば――アカネだけでなく、絵本えもと素子もとこさんにも忠告していれば……。


 あの時、ああしていれば。

 こうすれば助かった。


 俺の脳内を蛆虫が沸くように無数の可能性がどこからともなく現れる。やがてそれは、雑音となり俺の思考を食らっていく。


「……うわあああああぁ!!」


 そして、可能性を考えれば考えるほど、俺は自分の愚かさを憎んでいく。自分に痛みを与えるように、壁に額をぶつけて叫ぶ。

 痛みと感情を吐き出すように叫ばなければ自分の感情に押しつぶされそうになる。


 心の痛みは時間が解決する。


 その昔、失恋した俺が本で読んだ言葉だった。時間の能力を手に入れたはずの俺は、どれだけ時間を貯蓄しても痛みが和らぐことはなかった。

 貯蓄するのは時間だけ。その間、過ごすはずの経験を俺の【魔能力】では得られなかった。

 

 俺の叫び声が心配になったのだろうか。

 ガチャリと扉が開いた。


「銅次……大丈夫か?」


 部屋に入ってきたのは兄貴――銀壱。手にはお盆が置かれ暖かな湯気がカップの中から立ち昇る。

 湯気からほのかなに甘いカカオの香りがした。


「懐かしいよな。銅次は甘い物が好きで、ココアにガムシロップとか入れて飲んでたっけ。よくそんなものが飲めたな。俺もやってみたけど、甘くて飲めた咳込んだっけ」


「……」


 兄貴は過去を振り返りながらお盆を床に置いた。

 無言で蹲る俺に笑顔を向ける。


「て、俺は懐かしいけどお前からしたら、そんな昔じゃないのか」


「……」


 兄貴の優しい笑みに、俺は何も言わずに膝を抱える。全てを兄貴に任せた自分の失態を責められる気がした。兄貴がそんなことするはずないって分かってるのに……。

 どうして人は答えが分かっているのに、素直になれない時があるのだろう。

 これもまた経験なのか?


 幼い考えで無言を貫く俺に、銀壱は笑顔を消して真摯な表情を浮かべる。苦痛と後悔に満ちた顔は、今の俺にそっくりだった。


「なあ、お前は覚えてるか? 生里に虐められて不登校になったことを」


 銀壱が切り出したのは、俺が不登校になった時のこと。覚えているも何も、俺はその直後にこの時代へ飛ばされたのだ。


「そこからもう50年だ。お前はその間、ずっと行方不明だってされてきたんだぞ?」


 過去から未来へ飛ばされた俺は、50年間を行方不明として扱われていたらしい。

 イムさんの特訓で読んだ漫画のように、過去と未来の自分が入れ替わったりはしていなかったようだ。


「俺はさ、その間……ずっと後悔してた。銅次は自分が虐められてたのに、俺の恋愛を気遣って家を出た。あの時、彼女よりもお前を優先してれば、行方不明にならなかったんじゃないかって」


 確かに俺は、初めて彼女が家に来ると知り、祖母の家に避難していた。その行為が兄貴を勘違いさせてしまっていた。

 ――兄貴は自分のせいで俺が姿を眩ましたと50年悔やんでいたのか。

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