表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/55

二十二話

「……あのさ。二人ともそろそろ仲直りしたらどうかな? 流石に一週間もこの空気は……耐えられないんだけど」


 生里を倒してから一週間が経過したある晩。

 毎夜の如く続く重い空気に耐えかねたのか、兄貴が遠慮がちに口を開いた。金時家の雰囲気が悪くなった原因は、生里に止めを刺そうとしたアカネを俺が止めたことだった。


「ほら、アカネもさ。生里なまりを倒すチャンスは今後もあるだろうから、頑張ろうよ。今度は僕もも呼んでくれると嬉しいな」


 笑顔を浮かべて機嫌を伺うが、「ダン!」とアカネはテーブルを叩き割るのではないかと思う勢いで箸を置いた。


「ごちそうさま」


 小さな声で手を合わせると、すぐに自分の部屋へ消えていった。

 機嫌が悪くても食事を終えた挨拶をするあたり、兄貴の育て方が良いと分かる。食卓に残された俺は、兄貴にこの一週間で何度目か分からぬ詫びの言葉を並べた。


「ごめん。こんな空気にさせちゃって」


 しかし、だからといってあのままアカネが生里を殺す姿を黙っていられなかった。


「それは、しょうがないよ。銅次は過去から来たんだから、価値観は違うさ。……願わくば、僕は弟にはそのままで居て欲しいって思うよ」


「ありがとうな、兄貴。でも、アカネは怒ってるみたいだし、どうすれば分かってもらえるかな?」


 兄貴の優しさに感謝しつつも、アドバイスを求める。

 復讐だからと人の命を奪わないで貰いたいというのが俺の思いだった。


「銅次は色々と考えすぎなんだよ。アカネとは僕の方が付き合いが長いんだ。僕に任せてゆっくり休みなよ」


「そうしようかな……」


 兄貴はいつだって俺と誰かの間になってくれていた。

 小学生の頃にも、喧嘩した俺と友達の間を取り持って仲直りさせてくれたっけか。それにアカネは兄貴にとって娘のような存在。

 任せた方がいいだろう。


 難しいことを考えるのは兄貴の方が得意だ。だから、成績も俺と兄貴は天と地の差があったんだけども。


「本当に兄貴は頼りになるよ」


 食事を終えた俺は手を合わせて席を立つ。

 いつも通り(・・・・・)、難しいことは兄貴に任せて、好きなだけ睡眠を貪るとしよう。そうすればきっとアカネの機嫌もよくなるさ。


「世の中は分相応だ」


 欠伸と共に扉を開ける。

 すると、部屋の中心に見知らぬ女性が立っていた。金色の髪を縦ロールにした如何にもお嬢様といった風貌。年齢は俺と同じ中学生くらい。

 人形のように可愛らしい女性は、俺を見るなり頭を下げた。


「あ、あの……初めまして。私は鍛炭かすみ 素子もとこなの」


「……」


 じっと俺は素子さんを見つめる。

 ちゃんと挨拶する当たり、敵意はないのか。それに、彼女が着ているのは俺達と同じ銀の制服。

 お洒落のつもりなのか、アカネよりもスカートの丈が短くなっていた。


「あ、その……服を着てごめんなさいなの」


 素子さんは俺の視線を何だと思ったのだろうか。

 おもむろにスカートに手を掛けて脱ぎだそうとする。


「ちょちょちょちょ! 何してるんですか!?」


「だって、視線が脱げって言ってたから」


「初対面で俺はどんな風に見られてる!?」


 俺はそこまで野蛮ではない。

 慌てた俺に素子さんを「ニコリ」ともせず話題を切り替えた。


「なんて……冗談は置いておいておくの」


「……」


 勝手に持ち出して勝手に置かないで頂きたい。

 絵本えもとさんと云い、【魔能力】に目覚めた人はロクな人間はいないのではないだろうか? 

 それなら、兄貴が目覚めなかったのも納得だ。兄貴はこの世界でも常識を持っているもんな。


「イムさんから……話を聞いてると思うけど……。絵本えもと 乙女おとめくんと、金時かねとき 銅次どうじくんには、次の公式戦に出て貰うことになってるの」


「と、その前に公式戦って何ですか?」


「……それは、私に脱げってこと?」


「いや、なんでそうなるんですか?」


 もはや、ただ、自分が脱ぎたいだけの露出狂か? 

 だったら、俺のいないところでやってくれ。

 いまいち、話の進まぬ彼女に俺は自身の状況を説明する。


「実は俺、過去から来てまして。ちょっとまだ、未来での状況を把握できてるわけじゃないんですよ」


「……やだなぁ。過去から未来になんてこれる訳ないじゃないの」


 露出狂に真っ当な言葉を返されてしまった。

 俺は咳ばらいをして改めて問う。


「取り敢えず、公式戦って何か教えて貰ってもいいですか?」


 もう一度、質問する俺に対して首を傾げながらも素子さんは教えてくれた。


「公式戦は……魔族が開催する群衆クラスタ同士の戦い……なの。何もしないと群衆クラスタ間での戦いが中々起こらないから」


「……」


【魔能力】を欲する人間は、基本的には貴族としての身分が欲しいだけの人間が多い。つまり、群衆クラスタ同士での戦いを望む人は少ない。

 そうなれば、当然、争いは起こらない。


 強制的に【魔能力者】達を戦わせるための場が――公式戦という訳か。


「今回……発表されている公式戦は二回。その両方に銀の群衆クラスタの名前があるの」


「ちょっと待ってください。銀の群衆クラスタだけ二回って、全然、公式じゃない気がするんだけど」


「さあ、その辺は魔族であるイムさんが決めることだから。勝負で勝ったほうが魔族は得をするって言ってた」


「……」


 そうか。基本的には自由が故に忘れていたけど、この世界は魔族によって支配されているんだ。彼らのゲームに人間が利用されているんだよな。


「……そういう訳だから、力を入手したばかりの二人を鍛えるように、私が頼まれたの」


「なるほど」


「そういうわけで――よろしくね、絵本えもとくん」


「俺、金時です」


「……」


「……」


「ぬ、脱げばいいかな?」


「なんでですか!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ