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二話

「なあ、聞いたぞ! お前、生里達に虐められてるんだってな。俺が何とかしてやろうか?」


 俺が追放されてから3か月が経過した。最初はただクラスメイトに相手にされないだけで耐えられると思っていたのだが――俺は自分が思ってるほど強くなかった。

 心の折れた俺は、この一週間学校を休んでいた。


 そんな俺を見かねてだろう。

 土曜日の朝一番。二段ベッドの上から銀壱が降りるなり、何でも出来る兄が俺に言った。ベッドを囲うように作った段ボールのバリケードじゃ、引き籠ることも出来なかった。

 俺は布団を被り顔を隠す。俺の呼吸で布団の中は湿り、暑苦しくなる。顔を出したい不快感と戦いながら、兄に答えた。


「……別にいいよ。どうせ3か月でこのクラスも終わりなんだから。今は充電期間ってことでさ」


「そんなこと言うなよ……銅次。俺が一緒に戦ってやるから」


 尚も食い下がる銀壱。一緒に戦うと簡単に言ってくれるが、その言葉が俺をより苦しめる。兄貴がいないと駄目な弟。小さい時から俺はそう言われてきた。

 情けない自分に瞳が熱を帯びる。俺は熱を隠すように話題を逸らした。


「銀壱はそんなことよりも、今日のことを考えた方がいいんじゃないのか? 彼女……家に連れてくるんだろ?」


「な、なんでお前、ソレを!!」


 普段から冷静な兄貴があからさまに動揺する。


「そりゃ、ウチは壁が薄いんだから、小声だろうと電話の声は聞こえちゃうんだよ」


「そ、そうだったのか……」


 スマホを持たない金時家の連絡手段は固定電話。廊下にあるんだけど、襖一枚だけしかこの部屋と隔たりはないから、会話の内容は小声でも筒抜けだよね。

 昨日の夜、彼女と電話している声が聞こえてきたのだ。


「父さんは二週間出張って言ってたから、帰ってこないし、俺もその時は用事があるから――チャンスだぜ?」


「なに言ってんだ、お前は!」


「もう。優秀な兄貴なら分かるだろ? 俺達、健全な中学生だぜ? ほら、だから早く迎えに行きなよ」


「お前なぁ……」


 そう言いながらも兄は去っていった。


「にしても、兄貴は羨ましいよな~。あんな美人と付き合えるなんて。顔は似てるはずなんだけど」


 写真で見たら分からないくらいには。そう言えば、兄貴の彼女は面白い見分け方してたな。「目が死んでる方が銅次で、輝いてる方が銀壱」だって言ってたっけ。

 ……冷静になって考えると、俺めっちゃディスられてるじゃん。


吹楚すいそ ひびき先輩……」


 俺は兄貴の彼女の名を呟いた。

 ハーフらしく髪や肌の色素が薄いからか、儚げな印象を抱く。しかし、それでありながらも瞳には力が籠っており、生徒のためにと身を粉にして働く。その姿はまるで聖女だと言う者も少なくない。


 一人になった俺は顔を布団から顔を出す。これから兄貴が家に彼女を連れてくるから、俺はいない方がいい。


「今日は久しぶりに外に出るか……」

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