十八話
「おや? まさか、僕の群衆で仲間と共に行動するよう人間が現れるようになったとは!! 前々からそうなって欲しいと願ってるんだよね」
崩れかけのジェンガのような建築物。前来た時よりも、地面に着いている箇所が少なくなっている気がする。
まさか、本当にジェンガでもやってるのではないだろうか?
そんな入るのが躊躇われる建物の最上階。広い部屋にポツンと置かれた玉座にイムさんは座っていた。
座っていても手足が長く細いのが分かる。
銀の群衆を管理するだけあり、針金のような男だった。目元を隠すために付けている仮面が意味ないほど大きな笑顔を浮かべる。
イムさん。
本当の名は七五三 一さんだったけ? それもとても偽名臭がするんだけども。
「いや、仲間意識を高めたいなら、仲間同士で戦わせるような条件を出さないで下さいよ」
俺は隣に立つ絵本さんを横目で見る。
イムさんに出された条件。
それは、
『赤の群衆の一員である生里と戦いたければ、絵本 乙女を倒せ』
という内容だった。
簡単に言えば仲間で力を試せということである。そんなことをされれば、当然、仲間内でギスギスするに決まっている。
絵本さんも俺の隣で同意した。
「本当ですよ、イムさん。いきなり戦わせるだなんて人が悪い。私だって力を手に入れたばかりなのだから」
「だからだよ!」
ビシっと指差して笑みを大きくする。
その笑みは楽しいよりも意地悪さが目立つ笑顔だった。
「君は力を手に入れたばかりなのに、自分を誇張するようにビルを立てたでしょ?」
「それは――」
絵本さんが言葉に詰まる。
確かに絵本さんが住んでいるのは、ファンタジー世界で異質な存在感を放つビルだった。しかも堂々と絵本と自らの名を掲げている。
「――。【魔能力】という力を手に入れたんだから、私も搾取する側の人間になろうと思っただけですよ」
名も知らぬ男たちに名を付けられたように、自分の好きなように生きることを決意したのだと絵本さんは言う。
その結果が、大きな看板だった。
「……」
絵本さんって、見た目はそんなこと絶対しないキャラなんだけど、その過去からか、所々顔と似合わぬ行動するときがあった。
「まあ、だから君も力を磨いた方が良いと思って銅次くんと戦わせたんだけどね。結果は僕の予想通り銅次くんの価値だったわけだ」
イムさんは「はっはっは」とお腹に手を当てて笑う。
うん?
最初から僕が勝つと思っていたのか?
「そりゃ、そうだよ。初対面でいきなり【時間貯蓄】の力を使いこなして、この僕の顔を殴ったんだから。銅次くんは銀の群衆の期待の新人だよ」
「期待の新人だなんて、そんな……」
今まで、何をしても兄貴に劣ってると言われてきたから、褒められると素直に嬉しかった。綻ぶ顔を隠すように口を動かす。
「それより、条件は満たしたんですから、生里に挑んでもいいですよね!?」
生里 継之丞。
それが俺が倒したい男の名前だった。
50年前の中学校で俺を追放という名の虐めをした男。
いや、それは別に構わない。俺が許せないのはこの時代、未来で取った行動だった。
兄貴の恋人、吹楚先輩を【魔能力】を持つ【貴族】の権力を使って奪い――子を孕ませた。好きな相手の子だったらまだ良かったが――何十人もいる遊び相手の一人として。そこに恋愛感情はなかった。
そして生まれた我が子を捨てた。
その結果、吹楚先輩は戦いを選んで死んだんだ……。
考えただけでも苛立ってくる。
そんな人間がいるだなんて考えたくもない。
怒りで満ちた俺にイムさんは笑う。
「う~ん。そうだな~。次は中堅所の『彼女』と戦って貰おうかな~」
「ちょっと、話が違うじゃないですか! また、条件を出すつもりなんですか?」
イムさんの言葉に俺は意を唱える。
最初は絵本さんを倒せば、生里と戦ってもいいと言っていたではないか。俺の言葉にイムさんは、
「そうだったけかな~」
と、とぼけた後に右手を前に出した。そして、何かを掴むように右手をゆっくりと握りつぶしていく。
潰すのは――俺の心臓だ。
苦しみが迫ると身構えるが、それよりも早く最上階の扉が開かれた。
そこから現れたのはアカネ。
肩で息をしながら、俺に視線を向けて叫ぶ。
「父が――生里 継之丞が、銀の管轄内に現れたわ!!」




