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十七話

 最初から背後に回ったり、横から殴ったりしないで、腹部を狙えば良かったんだ。

 まあ、そうさせないために見えない触手で「正面は危険だ」と刷り込ませたんだろうけども。


 俺は絵本を奪い【魔能力】を解除する。

 貯蓄時間は


 0:00:36


 ギリギリ間に合った。

 俺は奪った絵本えほんを掲げて笑う。


「これ、なーんだ」


「……なっ!」


「大事なモノはちゃんと抱えてないと駄目じゃないか」


 絵本えもとさんの冷静な表情が初めて崩れた。


「まさか、私の【魔能力】に気付いたのか?」


「まーね。それだけ大事に抱えてたら嫌でも分かるさ」


 俺の言葉に絵本えもとは、「ふっ」と笑った。


「なんだよ」


 まさか、まだ、奥の手があるのか?

 残された時間を見て冷汗をかく俺に、絵本えもとは両手を上げて見せた。


「降参だ」


「へ?」


「この勝負――君の勝ちだ。まさか、馬鹿だと思っていた君が私の【魔能力】に気付くとは思わなかったよ」


「……」


 降参した。

 絵本えもとは間違いなくそう言った。

 でも、なんだろう。

 勝ったはずなのに、凄い、馬鹿にされてません?

 じっと睨む俺に絵本えもとは言う。


「負けを認めはするが、君が正しいと認めたわけじゃない。ただ、君の甘さは直ぐに消えるよ。この世界じゃね」


 絵本えもとは俺に近付き手を差し伸べた。


()の名前が乙女おとめである理由を知ればね」


 そう言って自分の過去を絵本えもとさんは話始めた。





 絵本えもと 乙女おとめは、男性だった。

 彼もまたアカネと同じく、【魔能力】を持つ人間によって生まれた子供だった。父親は誰だか分からないほど、複数の人間に母親は関係を迫られた。

 人は集まれば集まるほど残虐性は増していく。

 身ごもった子が男だと知った彼らは、その子に「乙女おとめ」と名前を付けた。当然、それを拒否する権利は力を持たぬ母にはない。


「これが、私の名前の由来だよ。優しさも何もない。あるのは勝者のふざけた優越感だけさ」


 諦めたように笑う絵本えもとさん。

 俺も自分の銅次って云う、生まれながらにして全てが兄貴より劣っている名前が嫌いだったけど、まだ平和だったんだなと実感した。

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