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057  作者: Nora_
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09

「誕生日おめでとう」


 残念ながら私が熱を出してしまいみんなでワイワイとすることはできなくなったけどめでたい日だ。

 上半身を起こして差し出してきた手を握る。

 結局プレゼントは買えてないけど、元気になったら本人の欲しい物を買ってあげたいと考えていた。


「ここにいるから寝てなよ」

「リョウカは?」

「リョウカはお父さんとゲームをやってるよ」


 珍しいな、ナホを誘わないなんて。

 もしかして変な遠慮をしているのかな、もうそういうのいらないのに。

 大体ね、勝手に気遣って距離を置いたっていいことなんてなにもない。

 一昨日まではそういう風に過ごしてきたからわかるのだ。

 大事なのは話し合い、相手の意見もちゃんと聞いておかなければ一方通行で終わってしまう。


「やっほー」

「黙ってて」

「いやいや、ホトリが心配で来たんだってば。んー、でも元気そうかな?」

「うん、結構寝ていたからね」


 朝から夕方の現在までずっと寝ていた。

 実は朝は張り切っていたんだけど力が出なくて熱を測ったら~という展開になった。

 だから結構下が賑やかなことに寂しくなった、樽井先輩だって来ていたしね。


「はい、ホトリが好きだったオレンジジュース」

「え、ありがとう」

「お礼は身体で――嘘だよ、名前で呼んでよ」

「さ、佐久……くん?」

「呼び捨てでいいよ、それじゃあまた後でね」


 1パック丸ごとくれるなんてなんて大人なんだ。

 高いやつだと言っていたよね? まあ、私のためではないことはわかっているけどさ。


「なに名前で呼んでんの」

「いや、佐久くんが求め――」


 そうだった、昨日ですごい変化したんだった。

 好きとか言ってくれたし、結構それっぽい気持ちを見せてくれてくれる子。

 他の子と仲良くしていると気になってしまうという気持ちは私が散々味わわされてきたことではある。


「ねえ、なんですぐにリョウカの名前を出すわけ?」

「い、いや……ナホもリョウカも家族みたいなものだから」


 自分がされて嫌なことを相手にしたくない。

 近くにいるのに一人ぼっちってかなり寂しいから。


「へえ、じゃあ先に進めないんだ?」

「いや……」

「まだ好きって言ってくれてないもんね、ただの口先だけのだったの?」


 そんなことはない。

 だけど恥ずかしいから倒されたのをいいことに布団の中にこもった。


「しかも馬鹿じゃん、本当に風邪を移されてさ」

「一緒に寝よって言ったのナホなのに……」

 

 でもこの子が元気ならいい、急な変わりようには驚くばかりだけど。


「おいホトリ!」

「わっ!? あ、どうも」

「どうもじゃねえ、人の誕生日に風邪引いてるんじゃねえよ」

「ナホの誕生日は昨日ですから」


 ベッドの端にどかっと座ってこちらを見てくる樽井先輩。

 関わってみたらただの弟思いのいい人だったんだよなあと苦笑。

 しかも佐久くんだって話し合ってみたら普通だったし、いや、普通よりちょっと下ぐらいだったしね。


「つかお前、そのオレンジジュースなんで持ってんだ?」

「え、佐久くんがくれましたけど」

「それ私が買ってるんだぞっ」

「えぇ!? こ、この前も飲んでしまいましたけど?」

「はぁ……今度身体で払えよ? それじゃあな」


 なんだろう、佐久くんに言われるよりかはなんてことはない感じがする。

 荷物を持てとかそういうのだろう、手伝えばオレンジジュースだって貰えるはず。


「良かった、みんなと喋れて」

「こっちはなにも良くないんですが」


 当たり前のように布団に入ってくるナホ。

 でも寝汗だってかいているだろうし臭くないだろうかという不安があった。


「ね、なにか欲しい物ってある?」

「好きって言葉」

「昨日ので受け入れたって思わないの?」

「お互いに好きだと言って初めてそういう関係になれると思うんだけど?」


 彼女が言っていることはもっともだ。

 それでも風邪を引いた状態であったからいまいち信じられていないというか。


「大体さ、急に変わりすぎだよ」

「しょうがないじゃん……風邪で弱っている時に考えていたらそうなったんだから。ま、どこかの誰かさんは1番に顔を見せてくれなかったけどね」

「私のせいだったからお詫びしなきゃなって思ってたんだよ」


 少しでも満足してもらうために手を繋いで笑ってみせた。

 変な顔だと言われてしまいすぐにやめたけど。


「ホトリ、大丈夫?」

「あ、うん、大丈夫だよ」

「私も入る」


 こんなことしていたら二人に移してしまう……。

 というかこの子は強いな、まだ風邪を引いたところを見たことがない。

 よく寝ているのがいいのかもしれない、今度から少し真似してみようと決めた。


「ナホ、ホトリを独り占めはだめ」

「ホトリはあたしのだから」

「もう告白した?」

「したけど好きだと言ってくれないんだよね」

「多分、いい雰囲気じゃないからだと思う。よいしょっと、二人で頑張ってね」


 確かにそうかもしれない。

 流れで急に言われたから困惑しているのかも。


「言って」

「私はずっと二人と仲良くしたかった。きっかけをくれたのはリョウカだったからというのもあるよ。でも、なんかナホを独占しているリョウカを見たらモヤモヤして……ナホと二人きりだと嬉しくなってさ、少なくともナホにだけは嫌われたくないって思ってたんだ」


 指摘されるまではただの友達としての気持ちだと考えていた。

 仲良くしたいと言ってくれたリョウカがあんな感じだったから余計に引っかかっていた。

 仲がいいのと聞かれた時は辛かった、そもそもそれ以前の問題だったのかと感じたから。


「少なくとも多少は気にしてくれていたんでしょ?」

「うん」

「だったら」

「うん、じゃあ言うね」


 反転させたらこちらを見ている彼女と目が合った。

 なんか気恥ずかしくて彼女の両頬を掴んで好きだとぶつける。


「これで満足してくれた?」

「うん、もう寝ていいよ」

「そうだね、早く寝て治さなくちゃ。お母さんとかに移したらやばいし」


 それは父にだってリョウカにだって樽井姉弟にだってナホにだって同じことだけど。

 それに早く治さないとプレゼントを買いに行けないからね。

 好きだという言葉がそこまでのものだとは思っていないからやっぱり別途用意するのは当然だ。


「ありがと」

「うん、おやすみ」

「おやすみ、あたしは横にいるからね?」

「ありがと」


 横にいてくれるだけで治っちゃう感じがするけどちゃんとしないとね。

 起きたら抱きしめてもう1度好きだとぶつけよう、そうすれば彼女も喜んでくれるはずだから。

 いまはこの手の温もりだけを求めながら寝ようと決めたのだった。

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