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057  作者: Nora_
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04

 午前4時ぐらいに目が覚めたのでゲームをしていた。

 確かに結構際どい判定のところがあって、父には厳しそうだなというのが正直な感想。

 自分の分身が武器を使ってモンスターを狩ったり、食べ物を食べて生活していくという内容。

 ある程度のところまで進めてしまえば後はのんびりスローライフが送れるというものだ。


「おはよ……」

「あ、おはよー」


 外はまだ真っ暗なのにもう起きてきたのか。

 ちょうどいいところだったのでセーブをしてゲームを終わらせる。

 ほら、やっているところを見せたりするとゲームしたくなっちゃうかもだし?

 これから普通に学校なのだからそれだけは不味い、まあまだ5時過ぎたところだけどね。


「ホトリはどちらかと言うとさ、あたしを避けているところがあるよね」

「え、栗平さんもそれを言うの? こうして一緒にいるのに」


 それは人によって設定している距離感が違うだけだと思うんだ。

 いきなり100パーセント気を許せるというわけではないからゆっくりと開放していくしかない。

 だからこのタイミングで判断されてしまうのは少し困るというわけ。

 でも、どちらかと言うと二人で完結してしまっているからどうしようもないというか……。


「ま……そうなんだろうね、11月まで友達が0だった人間に問題があるんだよ」


 好きな紅茶を飲んで落ち着きたいからお湯を沸かしつつ台所に居座る。

 違うんだよ、これまで他の子と上手くやれていた二人とは全く。

 そういうのもあって樽井くんの言葉にイライラして、見事に小物っぷりを披露した形になる。

 自分がいくらそのように振る舞ったって、相手から自分を避ける人間だという思われたら意味ない。

 だったらお互いが不快感を抱かなくて済むようにしていくしかないわけで。


「はい、熱いから気をつけてね」

「ありがと」


 必要最低限の会話だけで終わらせておけばいいのではないだろうか。

 今日の授業なにとか、今日も寒いねとか、今日も大変だねとか、今日も頑張ったねとか。

 そうすれば友達との対応の落差に引っかからなくて済むようになる。

 家族でもなんでもない、まだ友達になってから1ヶ月も経っていない相手。

 長く一緒にいる子との対応に違いがあって当然なのだから。


「ナホ……」

「いるよ」


 自分と向こうに距離があるのだと考えておけば問題ない。

 というか、今日は父がまだ起きてきてないけどどうしたんだろうか。

 なかなかないことなので寝室に行ったら、なんか険しい顔をして寝ているようだった。


「お父さん」

「……出ておけ」

「出る?」

「風邪……引いた」

「え、大変じゃん、飲み物持ってくるね」


 さすがに頼りすぎたか。

 リビングにいるふたりにも説明して、飲み物とかジェルシートとかを持っていく。


「大丈夫?」

「ああ……悪い、今日は送れそうにない」

「いいよそんなの、家事は私もできるし任せて」


 お弁当を作ったり朝食を作ったりしないと。

 徒歩登校になるから今日はたまたま早起きできてて良かった。

 栗平さんやリョウカちゃんも手伝ってくれたからそう大変ではなく。


「それじゃあ行ってくるね」


 返事はなかったけど必要な物は置いてあるし大丈夫だろう。

 しっかり鍵を閉めて歩いていく。

 当然のように二人が並んで歩いていくのを眺めていた。

 私がなにをしなくたってこれが普通なんだ。

 それを常々わからせてくれているのにいざって時に指摘してくるのはズルくないだろうか。

 あれか、あの家で暮らせるのは快適だからそれとなく仲良くしている風を出しておかなければならないとか考えているのだろうか? 樽井くんみたいなことをしてくれなければ仲良くなくたって別に私は大丈夫だけどね。

 とにかく、父が風邪を引いてしまったこと以外は一切問題がないように思えたのに。


「え……」


 問題は昼休み、弁当箱を開いた時に起こった。

 そこには私の大の苦手な食べ物であるこんにゃくがあったのだ。

 私の嫌いな物を把握してくれている父が作ってくれたものではなく栗平さんが作ってくれたもの。

 いやこれ本当に食べたら吐き出してしまうぐらいの物で、だけど残すこともできないと。


「ホトリ?」

「あ、私のお弁当作ってくれてありがとね、どれも美味しそうでどれから食べていいか迷ってたの」

「寧ろそれはこっちのセリフだけどね、お父さんと同じぐらい家事できるんだ?」

「うん……まあ、頼りっぱなしはあれだからね」


 いかな専業主夫と言っても楽をしたい時だってあるだろうと考えて手伝っていた。

 私のこれなんてなんてことはない、父の10分の1にも満たない技術。

 ……とりあえず嫌いな物は最後に食べるとして、美味しそうなおかずから食べることに。

 ああ、父ほどではないけど味付けがちょうど良くて美味しい。

 わざわざ意図的に言うのではなく自然と美味しいという言葉が漏れる感じか。

 そして最後のこれ、ええい! と口に放り込んだら一気に襲いかかってくる気持ち悪さ。

 トイレへとダッシュで移動しながら思ったね、最初に食べて吐き出せば良かったって。

 そうすれば残りを美味しく食べられたのに、馬鹿だね、本当に私ってやつは。

 しかも自分の階のトイレは利用している人がたくさんいて無理だった。

 口を押さえながら、吐き気を抑えながら全力ダッシュって超絶きつい。

 申し訳ないけど校舎裏で吐かせてもらうことにした、そこまで耐えられた自分を褒めたい。


「おぇ……」


 ……父の異常に気づけなかったどころからここでも無能を晒すなんて。

 嫌になるね、全く悪いところが見つからないあの二人を見ているとなおさらそう思う。


「大丈夫か?」

「はい」


 先程から付いてきているのはわかっていた。

 渡してきたハンカチは受け取れなかったけど、近くの水道で口をゆすいで自分のハンカチで拭く。


「ふぅ……」

「どうしたんだ?」

「ああ、嫌いな食べ物を無理して食べた結果です」


 人が作ってくれたのだから残すことなどできない。

 あれ? でも吐き出していたらだめか! しまった、これなら食べてもらっておけば良かったか。


「お前――」

「どうせ馬鹿なのはわかっていますよ」

「もしかして作ってもらったからか?」

「そうですね、結局吐き出していたら食べ物を粗末にしたのと一緒ですがね。心配してくれてありがとうございました、そろそろ戻ります」


 寒いけど口内を直すためにコーヒー牛乳を買ってちゅうちゅう吸いながら戻ることにした。

 幸い、ゴミ箱は教室前とかに設置してあるから問題ない、なかなか便利で本当にいい。


「あ、やっと戻ってきた」

「うん、トイレが開いてなくてね」


 どうやらまたリョウカちゃんは私の席で寝ているらしい。

 なにに惹かれているんだろうか? 座っていても普通の席にしか感じないけど。


「リョウカちゃんは私の席が気に入っているのかな?」

「寂しいんだって、ホトリがいないと」


 その割には私単体の時は近づいて来たりしないような?

 わからないな、ここまで眠たいのも全然わからない。

 だって22時には寝て朝のギリギリまで寝ているような子だよ?


「ま、求めてくれるのは嬉しいけどね」


 彼女の席は窓横だから座って外を見つめる。

 冬のなんとも言えない綺麗な空が好きだ。

 教室からだと少しだけ暖かく感じるのもいい、眠たくなる気持ちもわかる気がした。


「ホトリ」

「うん?」


 こちらの両肩に手を置いてくる栗平さんが気になって見ようとしても角度的にできず。


「寂しい?」

「……まあね、やっぱり栗平さんとリョウカちゃん見ていると結構気になるかな」

「どうすれば寂しくなくなる?」

「そうだね……いや、二人が仲良くしているところを見ると気になるから……難しいかな」


 それにいまはそれよりも父の風邪の件だ。

 送り迎えが負担になっているのなら控えなければならない。

 女子高生二人が住み始めたのも大きいんだろうな。

 なかなかどうしたってお風呂の順番とか気を使うってのがあると思う。


「栗平さん、送り迎えをしてもらうのはやめようか」

「うん、元々おかしいしね、ただ20分ぐらい歩けば着くんだからさ」

「そうそう、あんまり負担かけたくないからね」


 車のシートを気に入っているからリョウカちゃんがなにを言うのかはわからないけれど。


「ね、なんで私だけ名字呼びなの?」

「え、名前で呼んでいいって許可されてないからだけど」

「へえ、リョウカは許可したんだ?」

「うん、初日にね」


 そうじゃなければ勘違い女として片付けられてしまう。

 中学生時代だって友達のことを最後まで名字で呼んでいた。

 それも求められなかったからだ、ということは友達じゃなかったってこと? それなら悲しい。


「私も名前で呼んでよ」

「ナホちゃんって?」

「呼び捨てでいい」

「それならナホって呼ぶけど」


 彼女の腕を優しく掴んで言う。


「……リョウカちゃんより距離があるのは普通だけどさ、私も忘れないでほしいかな」

「忘れてないよ、毎回話しかけてるのに部屋に逃げ込むのがホトリでしょ」


 だって見たくないんだもん……自己評価がそんなに高くないから差に傷つくし。


「こんにゃくだって残せばいいのに食べて吐くし」

「うぇ、ま、まさか……」

「うん、聞いた」


 そりゃそうだ、樽井くんのお姉さんなんだからこことも繋がっている。

 私が考えている以上に私以外との繋がりが……考えるだけで嫌になってくるな。


「そういうの言ってよ、決して意地悪するために入れたわけじゃないんだからさ」

「そ、それより私のどうだった? お父さんと比べたらあれだろうけど」

「美味しかったよ、寧ろあたしはホトリに作ってほしいかな」

「お父さんの負担軽減のために作るつもりだったから別にいいよ、ナホが満足できるなら」


 問題なのは頑固な父が納得するかどうかだ。

 リョウカちゃんと一緒に目をうるうるさせておけばうっとなって押せるかな?

 それかナホと真面目に説得するのもいいかもしれない、泣き脅し作戦より後のことを考えたらいいか。

 でも、私たちは舐めていたようだ。


「な、なに迎えに来てるの!」

「これが俺の役目だからな」


 ジェルシート張ったままでは無理しているのが丸わかりだ。

 それでもごねると悪化させるだけだからと大人しく乗り込む。

 リョウカちゃんは父のことも気に入っているので助手席を選んでいた。


「お父さん、これからお弁当ぐらいは私たち――」

「余計な遠慮はしなくていい、大体そういう仕事をしなくなったら存在価値が失くなる」


 うーん、頑固! 存在価値なんて私と母が求めているからでいいじゃないか。


「ナホのお弁当は私が作るからね」

「それをナホちゃんが望むのならしょうがないな」

「あと、送り迎え――」

「楽でいいだろ、いちいち気にするな」


 ああ……あなたが大変なのに、子どもだからって舐められているのかな。

 私たちだって父が少しでも楽になれるようにって動こうとしているのだ。

 なのに頑固さを披露されても困る、こういうところは母によく似ているからお似合いの二人だけど。

 その後も説得を試みたが全て断られてしまった。


「ほら、寝ないと」

「もう治った、そうでもなければ運転なんてできないだろ」

「だめだって、治りかけが1番脆いんだから」

「はぁ……今日はなんか母親みたいだな」

「それはあなたが面倒くさいからです、いいから寝なさい」


 家事なんか絶対にやらせない。

 専業主夫と言ったって常に頑張っているのだから休んだっていい。

 休めと言われて素直に休めない人はだめだ、だから他者との繋がりが必要で。


「私がここでずっと見ているから」

「はいはい……寝ますよ」


 もちろん父が寝たら家事の手伝いをするつもりでいる。

 ナホにばかり任せておけないしリョウカちゃんの相手もしないと寂しがるし。

 それもまた家事の一環だ、父もそれでよくゲームに付き合っていた。


「ホトリ、嫌いな食べ物ぐらい二人に言っておけよ」

「いいから寝なさい」

「寝れねえよ、さっきまで寝てたんだから」

「なのに無理して迎えに来たの? だめだよ」

「……自分の娘や預かっている娘さんたちになにかがあったら困るだろうが」


 確かになにかがあったら困るのは事実。

 だからって風邪の時に無理して迎えに来てってのは危ない。

 いつだってなんらかのリスクがつきまとっている、考えすぎても疲れてしまうだけだ。


「無理して風邪を引いている方が困るよ、自分たちのせいで風邪を引かれるとか嫌だし……」

「そんな顔をするな」

「それに最近はナホやリョウカちゃんとばかり仲良くしていたからさ、なんかちょっとモヤモヤしてね」

「お前がすぐに部屋に戻るからだろ、変なこと気にするな」


 あ、こっちが癒やされてどうする……。

 絶対に無理してやらせないと決めたのだった。

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