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057  作者: Nora_
3/9

03

 彼女たちが来てから2回目の土曜日。

 リビングには私と、なぜだかデリカシーないくんもとい、樽井くんがいた。


「残念ながら栗平さんとリョウカちゃんはいないよ」


 商業施設へ出かけているらしい。

 なんでも新しい気になるゲームソフトが出たんだと。

 3人にとって共通の趣味であるゲーム、とことん相性がいいんだろうな。

 そのせいでこちらが母に文句を言われるんだけど、全くわかってくれないね、残念。


「それはちょっと残念だな、リョウカちゃんのお世話をするようになってから付き合いが悪くなっちゃったからね、ナホは」

「それはあなたがデリカシーないくんだからだと思います」

「いらない化粧をして無駄にしているのを指摘したら駄目なのかな?」

「だめだよ、思ってても言わないのが常識でしょ」


 それがどういう理由でされているものかはわからないんだから。


「それにさ、変に誤魔化そうとするのって嫌いなんだよね」

「別に樽井くんに気に入られるためにお化粧をしているわけじゃないでしょ」

「個人の感想だよ。その点、リョウカちゃんはいいね、変に飾らなくて」


 この人は嫌いだ、1度家に連れてきてもこうやって来るし。

 それに謙虚さが足りない、少しでも私に気に入られようとはしないのだろうか。

 そうでもしなければこの家自体に来られなくなるというのにね。


「しかもナホと違って静かだからさ」

「ふざけないで! それ以上言ったら追い出すからねっ?」

「落ち着きなよ」


 誰のせいだと思っているんだ。

 もう絶対に家に入れない、比べて悪く言うような人とか有りえないから。


「あらら、嫌われちゃったかな?」

「比べる人を気に入れるわけないじゃん」

「誰かと比べてどっちがいいか、そんなこと誰だって考えていると思うけどね。それこそ君と一緒に暮らしているナホはリョウカちゃんの方がいいと思っているんじゃない?」

「そんなの当たり前でしょ、ずっと一緒にいるんだから」


 寧ろずっと一緒にいる人より受け入れられていたら怖い。

 いまはまだこの距離感が妥当だ、焦る必要はないのだと片付けた。


「でも、君は気になっているんでしょ? そうじゃなければ一緒にいる時に複雑そうな顔なんかしないよね?」

「帰って!」

「はいはい、それじゃあそうするよ。ま、仲良くできるならすればいいよ、また一人ぼっちに戻らないようにね」


 むかつくっ、なんだあいつはっ。

 一人でイライラして、ドカドカやっていたら3人が帰ってきた。

 その瞬間にすっと落ち着かせて、ゲームをやる時に飲むだろうからと飲み物の準備。


「さっきまで佐久がいたでしょ?」

「うん」

「なにか言われた? すごい顔をしているけど」

「なんでもないよ、飲み物準備したから飲んでね」


 部屋に戻ったらドタバタと暴れてイライラを消す。

 それでも落ち着かなくて頭をガシガシと掻いていたらリョウカちゃんがやって来た。

 なんでもインストールに時間がかかるから来たんだと。


「暴れてた?」

「たまにあるんだよ、こういう時が」


 どうしようもないイライラは美味しいものを食べたりして基本は吹き飛ばすけど。

 だけどいまどか食いしていたら父になにかあったとばれてしまう、そのためできなかった。

 ああ、確かにリョウカちゃんは自然で綺麗だ。

 化粧なんか必要ない、それどころか化粧をしたら肌が悪くなって良くないぐらい。

 栗平さんに化粧が必要ないというのは同意見だけど、だからって比べることが許せない。

 なんでもかんでも伝えればいいわけじゃないのだ、ましてやそういうことに関しては同性同士だって言いづらいというのに……。

 意味もないのに、なにもできないのに、涙が出るぐらい悔しくてベッドにうつ伏せで転ぶ。


「リョウカ、インストール終わったよ」

「あ、なら行く」


 でも結局は偽善だよなあ、と。

 自分だって同じことを思ってるのに、と。

 彼女と一緒に戻ることなく残った栗平さんに顔を見られたくないな、と。


「佐久となにかあったの?」

「なんにもないよ」


 もう顔も見たくないぐらいだけど。

 あと、どうしたって気になるから私も二人から距離を置きたいぐらい。

 リョウカちゃんと同じように扱ってと言っても困らせるだけ。

 それならせめて部屋に急に来るようなことはやめてほしいと言うべきだろうか?

 ……また一人ぼっちになるのは嫌だから適度な距離感を保ちたい、矛盾してるけれども。


「ゲーム、やってきなよ」

「残念だけどあれ一人用のゲームなんだよね、まずはホトリのお父さんがプレイしてからだよ」

「そうなんだ」


 なんともそれはタイミングが悪いような。

 それを見るのではなく、彼女がここに残ってしまったことが1番気になること。

 ここにいたってメリットもないのだから下に行けばいいのに。


「ねえ、こんなこと言われても困るだろうけどさ」

「うん、どうしたの?」

「……樽井くんと一緒にいない方がいいよ」

「……なんで?」

「いや……ごめん、私が嫌いってだけだよね、忘れて」


 シーツが十分に水滴を吸ってくれたから身体を起こす。


「さてと、私も見に行こうかな」

「嘘つかないでよ」

「あはは……ごめんね」


 ああ、吐けたことで勝手に落ち着けたからありがたかった。

 先に廊下に出て階段を下りていく。

 確かに樽井くんが言っていたことはなにも間違っていない。

 無意識に誰かと誰かを比べることなんて誰でもする。

 私だって○○さんより△△さんの方がいいとかって考えたこともあるし。

 全てお前が言うなってブーメランとして刺さってしまっているわけだ。

 でも、身近に存在する子を比べるだけならともかくとして、それを口にしてしまったらだめだ。

 って、これもまたブーメランなんだけど。

 1階に行ったらプレイしていたのはリョウカちゃんだった。

 反射神経が衰えているから絶対に無理なポイントがあったらしい、若いってやっぱりすごい。


「ありがとね、心配してくれて」

「いや……」


 実際にこういうことを言われても流して生きてきた彼女にはいらない言葉だ。

 どうせ関わるのをやめるなんて言わないのだから留めておけばよかった。


「あいつはいつもそんな感じだからね」


 ほらね、強いのに勝手に怒って馬鹿みたい。

 逆に向こうが言うだろう、空島といない方がいいって。

 お客さんに対して変な正義感を振りかざして、負けて泣いて。

 ……ここから消えたい――から、外に出て物理的に頭を冷やすことにした。


「うぉ……今日は一段と寒いなぁ」


 暖かい格好をしているつもりでも突き刺してくるぐらい。

 だけど一人でいられるのは本当にありがたい、いまは少なくともあの二人といたくない。

 適当に歩いていたら公園を見つけたからブランコに座る。

 こんな季節に遊んでいるような子はいないから静かで良かった。


「おい」

「はい……?」

「休日なのにそんな辛気臭い顔をするなよ」

「す、すみません」


 え、女の子だよね? 腰ぐらいまで髪を伸ばしてあるし。

 実際にこういう喋り方をする人もいるんだというのが正直な感想だった。


「お前、毎日迎えに来てもらっているやつだろ?」

「はい」

「甘えてんな、親もそれに応えてくれているのにどうしてそんな顔してんだ?」


 接点がないだろうから説明したら笑われてしまい……。


「それは恥ずかしいな」

「はい……」

「自分が気に入らないから一緒にいない方がいい、なんて言う人間が実際にいたのか」


 メチャクチャ痛いことをしたからこうして出てきたんだ。

 それぐらいは終わってからだけどわかった、これ以上の指摘は別にいらない。


「ま、そいつが流してくれることを願うんだな」

「……ですね」

「そいつのことを相当気に入っているようなら悪手だったけどな」

「……ですね」


 いつだって悪い選択肢しか選んでないよ。

 いちいち引っかかって部屋にこもったり、一人がいいのにリョウカちゃんの要求を呑んだり。

 自分が1番自分のことをわかっているのだ、まあこれに関しては吐いて楽になろうとした自分が悪いとしか言えないんだけど。


「それよりお前、1年だろ? 生意気だな」


 えぇ……敬語使っていたのにこれって。

 もう嫌な気分になるから謝って帰ることにしたよ。

 外にいても心がただ冷たくなっていくだけだ、求めているのとは全然違う。

 それで帰ったら今度は栗平さんがプレイをしていた。

 父はお昼ご飯作りに励んでいるようなので手伝うことにする。

 が、ゆっくりしていろと言われて台所を追い出されてしまったのだった。




「ごめん」


 月曜日。

 出された課題をやっていたらいきなり謝られた。

 謝って済むなら警察はいらないんだよということで無視。

 興味を失くされるのが1番、こちらが謝ったりなんかしたら舐められる。


「ナホー、空島さんが許してくれないんだけどー」

「それはあんたが悪い、見ていなくてもあんたが悪い」

「酷いなあ」

「ホトリは泣いていたんだよ? 樽井くん謝って」

「僕の方が冷たい対応をされて泣きたいぐらいだけどねー」


 ああいう対応になるのも当然だろう。

 うるさいから空き教室の机を借りてやることにした。


「なんであんなやつが栗平さんの幼馴染なんだよ……」


 ヘラヘラ笑って軽薄そうだし、なんだかなあ……近くにいるだけでゾワゾワする。

 生理的に受け付けないってこういう時に使うべき言葉かも。


「なんだ、お前またひとりぼっちに戻ったのか?」

「はい? ひとりじゃないんですけど」


 この人も嫌いだ、生意気って言うなら話しかけてこなければいいのにさ。


「というか、まるで知っているような口ぶりですね」

「そうでもなければ親が毎日決まった時間に迎えに来て帰るなど不可能だろ」

「ま、当たっていますけどね、いまは違いますが」

「教室から逃げるようなやつが言うと説得力がないな」


 嫌な人……逃げてきたのは事実だから図星とも言えるのが嫌なところ。

 チクチクではなく遠慮なくグサグサ刺してくるところが気に入らない。


「ちなみに、私が樽井佐久の姉だが?」


 また面倒くさい人に目をつけられたものだ。

 馬鹿だな、そんな人に弟のことを言っちゃうなんてさ。

 こういう点ではまず間違いなく一人ぼっちだった方が楽だったな。


「それで弟さんの悪口を言った人間に付きまとうってことですか?」

「お前はあいつのことをなんにもわかっていない」

「でしょうね」

「大体、どうしてそれを栗平に押し付けようとするんだ? 本人が言ったのか?」

「……だから謝りましたよ、恥ずかしいことを言ったから外にだって出ました。そうしたらあなたが話しかけてきて馬鹿みたいに答えたんじゃないですか」


 どうすれば樽井姉弟と関わらないで済むかな。

 教室から出なければ少なくとも姉の方とは会わずに済むけど、問題はくんの方だ。

 依然として栗平さんやリョウカちゃんに絡むから近い場所であの笑い顔を見ることになる。

 ゾワゾワして落ち着かない時間を過ごせと? 最悪だなそれは。


「別に付きまとうことなんてしないさ」

「ならどうして私の目の前の席に座っているんです?」

「誤解しないでやってほしい」

「それなら大丈夫ですよ、彼には二人がいますからね」


 私は無理だけど、最低でも栗平さんがずっと味方でいてくれることだろう。

 私も幼馴染だったら少なくとも嫉妬みたいな醜い感情と闘わなくて済んだんだけど。


「ま、あんまり嫌わないでやってくれ」

「ごめんなさい」

「少なくともそれを出さないでやってくれ、それじゃあな」


 ふむ、弟思いのいいお姉ちゃんではあるんだけどなあ。

 もう私の中で多少イメージが変わることはあっても、気に入ることはないと思う。

 ナチュラルに栗平さんを馬鹿にしているようなところとか? 無理、絶対に。


「終わった」


 教室に戻ったらリョウカちゃんが私の席に座って寝ていた。

 なんだろうと栗平さんに聞いてみても答えてもらえず。

 これはある意味終わりだなと内でドヤ顔していたら珍しく彼女が顔を上げる。

 毎回授業が始まるまで寝るタイプだからこれには驚いた、一応気にはなっていたとか?


「……ホトリは私のこと嫌い?」

「えっ、なんで?」

「なんか避けてる感じがするから」


 違うよ、仲良くするとか言っておきながら栗平さんとばかりいたのが彼女だ。

 私はいつだって側にいた、ゲームだって一緒にやって楽しんだぐらいだし。

 謝る……のは違うよね? 申し訳ないと思っていないんだから失礼。

 だけどここでそれはこっちのセリフだよなんて言ったらまた痛い女に逆戻り、と。


「ナホだけが良かったの?」

「そんなことないよ、二人が一緒にいないと調子が狂うし」


 なんらかの理由で消えて一緒にいられるようになっても嬉しくない。

 私は3人で仲のいいグループみたいに盛り上がりたいだけなんだ。

 買い食いをしたり、休日に遊びに行ったり、寝泊まりをしたり、なんかいい雰囲気になったり。

 そういう普通を理想としている、だから他の子よりは叶えやすいことだと考えている。


「樽井くんのこと嫌い?」


 嫌いと言いかけてやめた。

 どちらでもないと答えて、こちらは席を譲ってもらう。

 大人しくどいてくれたため助かった、なんで座っていたのかは結局わからないままだったけどね。

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