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057  作者: Nora_
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02

「や」


 一人で課題のプリントと向き合っていたら樽井くんが話しかけてきた。

 横の席に座ってこちらを見てくる、そんなに見たって見せられるのは課題のプリントだけ。

 この子は栗平さんと仲が良さそうな感じがしたけど、どういう関係なんだろうか。


「ねえ、栗平さんとどういう関係なの?」

「僕とナホ? 元カレと元カノかなあ」

「えっ」


 慌てて口を押さえて縮こまる。

 嘘でしょ? まさかそんな関係だったなんてと困惑していたら「冗談だよ」と言われて困惑。


「ただの幼馴染だよ」

「そうなんだ」

「それより聞いたよ、空島さんの家に住み始めたって」

「あ、そうなんだよね」


 普通なら大人側が止めるべきところなのにこれ。

 ただまあ、距離があるから一緒の家に住んでくれるのは助かる。

 そうすればあの子の負担を多少は軽減させることができるから。

 今朝だって起こしてくれてありがとうとお礼だって言ってもらえたしね。


「僕も空島さんの家に行ってみたいな、大きいんでしょ?」

「それなら来る?」

「うん、じゃあ今日――」

「あんたは駄目、なにハーレムみたいにしようとしてるの」

「えぇ……空島さんがいいって言ってくれてるのに」


 あ、だけどそんなにたくさん車に乗れないから結局無理か。

 場所だけで教えておいて歩いて来てもらうとか? そこまで来たいとも思わないだろうけど。


「ナホ、化粧はいらないんじゃない?」

「うるさい、そんなのあたしの自由でしょ」

「先生にも注意される時だってあるしさあ」

「いいでしょ別に、それに元カレとか嘘つくな」

「ごめんごめん」


 うーん、樽井くんはデリカシーがないのかも。

 そういう人に家を知られると後々面倒くさいことになるから栗平さんが来てくれて良かったか。


「ホトリ、ちょっと椅子下げて」

「うん――え?」


 横に自分の席があるのに座る場所をミスっちゃったのかな。

 まあいいか、課題のプリントだってもう終わったところだから気にしなくても。


「ホトリ、ナホと一緒に支えてくれるんでしょ?」

「うん、できる限り頑張るつもりだけど」


 といっても、本当に他の人の10分の1ぐらいしかできないと思う。

 自分が誰かの役に立てるなんて自惚れてはいない、それでもという考えは忘れたくはない。


「だったら一緒のベッドで寝よ」

「それはいいけ……え、なんで?」

「ホトリともっと仲良くなりたい、ナホの負担を減らせるならいいことでしょ?」


 だから昨日も私のベッドで寝ていたのかな?

 そうすれば起こしやすいし栗平さんの負担が減るからと。

 それだったら可愛気がある、大切な人に迷惑をかけたくないということが伝わってくる。


「いいよ、栗平さんがいいならだけど」

「ホトリがいいなら助かるよ、この子と寝ると大変だからねー」

「ならそういうことで」


 自然と樽井くんはのけものになった。

 大体、ほぼ初対面で嘘をついたらだめだと思う。

 印象というのはなかなか変わらないものだからだ。

 なによりいまは私だけの家ではないのだから二人が許可をしなければ無理というわけ。


「ナホはコーラ味が好きだっけ?」

「うん」

「じゃあこれあげる」

「ありがと――うん、美味しい」


 座ったまま話されるのはあれだけど暖かくていいな。

 いちいちひざ掛けとかを持ってくるのは面倒くさいから冷えた時は頼むことにする。

 それにしても不思議だ、あのリョウカちゃんや栗平さんと話しているなんて。

 同級生で同じクラス、なのに距離を感じていたぐらいだからなおさらそう思う。


「ホトリにはこれ、ハッカ味」

「あ、ありがとう」


 こりゃ嫌われているでのは? 偉そうに言いやがってぇって怒っているのかも。

 食べられるから別にいいんだけどね、いま食べることはできないけど。

 先生が入ってきたことによって彼女は下りて自分の席に座る。

 二人が暮らし始めたこと以外はなんてことのない1日だった。




 1週間が経過した。

 わかったことはあの二人は相手を大切にしているということ。

 私の存在が必要ないぐらい十分なこと、私の両親と仲良くできているということ。

 だからただぼけーっとしているだけなこと、あんまりこの前までと変わらないこと。

 仲良くしたいとはなんだったのか、リョウカちゃんは栗平さんとしかいない。


「やあ」

「あ、デリカシーない樽井くん」

「いやでもさ、化粧いらないと思わない?」

「……思う」

「でしょ? あんなことしなくたって可愛いのにね」


 一緒に暮らしてみてわかったことがある。

 それはあれだけ綺麗なリョウカちゃんがノーメイクだということだ。

 おかしい、差がありすぎる、なにこの不公平感って最近の悩みになっている。

 だだそれよりももっと気になることは、私よりも父の方が二人と仲がいいということ。

 なにそれ、実は父目当てでしたと言われても納得できるよこれ。

 しかもそれで母から絡まれてるんだよ、グルだったの? って。

 そんなわけないじゃん、せっかく友達ができたなら普通に仲良くしたいよ。


「あ、またホトリに余計なこと言おうとしてるんでしょ」

「違うよ、今度一緒に遊ぼうねって誘ってたんだ」

「それでホトリは?」

「いいよって言ってくれたよ」


 なに勝手に言ってくれてんだ、こちとら色々悩んでいることがあるのに。

 デリカシーないくんはだめだな、栗平さんの言う通りだよ本当にもう。


「ちなみにどこで遊ぶつもり?」

「えっとね、空島家でかな」

「どれだけ興味があんの……」

「それにナホやリョウカちゃんとも会えるしね、一石三鳥だよ」


 特に弊害はないから家に連れて行くことにする。

 1度連れて行ってあげれば彼だって納得してくれるだろうと判断したのだ。

 少しでも調子に乗らせないように助手席に乗らせた、それでも全く余裕そうでムカついた。

 家に着いてからもそうだ、あの二人及び父と楽しそうに過ごしていて複雑な気持ちに。


「あれ、どこに行くの?」

「ちょっと部屋にね、課題があるから」


 寧ろ一緒にいようとするといちいち引っかかるから一人の時間がほしい。

 なによりいい対応ができる父がいればみんな満足するだろう、勉強が優先だ。

 たとえ同級生と一緒に暮らしてようが優先順位が変わるわけではないのだから。


「ふぅ……」


 持ってきていたジュースを飲んで天井を見上げて。

 暖房をつけているというわけではないから冷え冷えとした空気が私を襲う。

 二人が仲良ければいいとか考えていた私はどこへ行ってしまったのか。


「ホトリ」

「わっ、ノックくらいしてほしいんだけど……」


 家ではすぐに化粧を落としてくれるから純粋に可愛い顔の栗平さん。

 彼女はこちらに謝罪をしてから目の前までやって来た。

 決してリョウカちゃんがいればいいというわけではないらしい。


「ごめん、リョウカばかり優先して」

「え? なにそれ、別に謝罪なんていいよ」


 今度は真面目に課題に取り組もうとして――栗平さんのせいでできず。


「あの?」

「本当はモヤモヤしてたんでしょ」


 違うんだよな、二人が元々仲良かったことを考慮せず思考しているのが悪いのだ。

 友達になればリョウカちゃんに向けるぐらいの感じをこちらにもくれるものだと勘違いした。

 だからこれはメチャクチャ恥ずかしいことなんだ、だから本当のことなんて言ってあげない。


「違うよ」

「そっか、なら戻るね」

「うん」


 この生活方式のいい点は部屋に入ってしまえば関係ないことだ。

 父と十分仲良くできていることから、わざわざ一緒にいなくても十分になっている。

 自分の家のどこで過ごそうといちいち指摘されないし、気にする必要もない。

 協力することは結局のところできていないけど、喧嘩したわけではないのだからいいだろう。

 18時頃に母が帰ってきたことにより、下がより賑やかになった。

 こちらは課題を既に終わらせていてベッドに寝転がっている状況。


「そりゃそうか」


 11月までずっと一人で過ごしてきた人間だ。

 それなのにいきなりこのような環境に変化してすぐに順応などできるはずなく。

 それでも時間が経過すれば恐らく引っかからなくて済むようになっていくと思うから、特に悲観する必要はない。


「ホトリちゃん、ご飯できたよ?」

「あ、うん、いま行くよ」


 二人と食べるなんていまに始まったことじゃないのだ。

 父が作ってくれたご飯を黙々と食べて、終わったらお風呂に入って。

 そこまで済ますことでやっと100パーセント落ち着く時間がやってくる。

 こう考えよう、逆にこの家は二人のものだったと。

 その両親とも結構仲良くやれているのだと。


「ホトリ、前みたいにマッサージして」

「いいよ、じゃあ転んで?」


 背中を優しく押していく。

 栗平さんにばかり構っていても共に寝ることだけは継続されている。

 これまでを考えればそれだけで十分じゃないか。


「ん……やっぱりホトリがしてくれるの気持ちがいい」

「お母さん相手によくやっていたからね」


 肩を揉んだりツボを押したり、その度に艶めかしい声を出すのだけが気になるところか。


「ふぅ、ありがとう」

「どういたしまして」


 椅子に座り直して、なんとなく視界に入った本を手に取る。

 パラパラと捲って見てみてもあまり新鮮さがないから棚に戻した。


「リョウカ、下でゲームやろうよ」

「わかった、ホトリも行こ?」

「うん、行こっか」


 実は父がゲーム好きで最新ハードも揃っている。

 甘々な父が興味を抱いたリョウカちゃんにやらせて、栗平さんを誘った結果がいまのこれだ。

 みんなで盛り上がれるような作品がたくさんあるからゲームってすごい。

 だけど私は観客でいることに専念したけれども。


「そこはバックスピンじゃなくてトップスピンの方がいいよ」

「いやいや、いつだってバックスピン1択でしょうよ」

「柔軟に対応しなければスコアは伸ばせないよ」


 普段寝てばかりのリョウカちゃんがよく喋る。

 それに栗平さんが楽しそうに接して、本当にいい光景だ。

 化粧とかいらないのになー、化粧してないと童顔で可愛いのに。


「はい、また私の勝ち」

「くっそぉ……ホトリ、リョウカを負かして!」

「勝てないよ私じゃ……まあ、やるけどさ」


 ちなみに父は寂しそうに椅子に座ってこちらを眺めていた。

 ゲーム機がほとんど独占されてしまっているので、最近は大体こんな感じだ。

 リョウカちゃんが誘った際とかに凄く嬉しそうな顔をする、まるで子どもみたいに。


「え……ホトリ上手だね」

「やったことないわけじゃないからね」


 父に付き合わされたりしていたから慣れている。

 たとえ相手が上手いリョウカちゃんであったとしても、なにもせず負けるようなことはできない。

 プライドだけは高いんだ、それがこういうところにも表れているんだろうね。


「嘘……」


 私は彼女を負かして寂しそうに見ていた父にコントローラーを渡した。

 明日は休みだけど夜ふかししてもあれだからと挨拶をして部屋に戻ることに。

 父はゲームが好きだけど上手いわけではないので、ボコボコにすれば気も落ち着くと思う。


「ホトリ」

「あれ、栗平さんももう寝るの?」

「うん、そんなところ」


 部屋の扉を開けておやすみと挨拶をしたものの、


「まだ用があるから」

「そっか」


 私の部屋に入ってきたので素直に許可する。

 大好きなベッドに寝転んで息をひとつ吐く。

 リョウカが寝るようになってから寝返りとかも気を使ってあまりできていない。

 だからいまの内に味わっておくのだ、この自由さを、大きさを。


「リョウカに言おうか? 自分の部屋で寝なよって」

「それより栗平さんと一緒の方が落ち着くんじゃないかな」

「あー……まあ、関係も長いからね」

「うん」


 手を枕にして寝転んでいたらまだ立っている彼女が見えて座りなよと言う。

 長居するつもりはなかったのか立っているだけでいいと口にする彼女に内でため息をつく。

 だったらなんで私の部屋になんか来たんだろうという疑問、モヤモヤ、複雑さ。


「とにかくさ、お父さんやお母さんと仲良くやれているみたいで良かったよ」

「そこはね、二人が私たちにも優しいから……ただ、甘え過ぎちゃってるのは気になるけど」

「いいんだよ、変な遠慮なんかしなくてもさ」


 お前が言うなって話だ。

 考え方を少し変えただけで気持ちがメチャクチャ良くなるわけじゃない。

 当たり前のことなのに二人の距離感と自分のそれを見比べて気になってしまうんだ。

 そんな自分が心底嫌だと思う、そんなものを追い求めたところでなにも変わらないのに。

 友達になってからたった1週間だぞ、そりゃお世話してた、されてた子たちと同じわけがない。


「なんかこの流れで言うのはなんだけどさ、ここに来られて良かったと思ってるよ」

「良かったね」


 こっちは想像以上に大変な気持ちと闘う羽目になったけれど。

 でも二人には関係ないんだからこの気持ちを出すつもりはなかった。

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