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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

気まぐれに永らえる世界

作者: 姫崎しう

(設定が)わたがしです。

「魔王よ、何故人々を苦しめる?」

「その問いに答えるのも何度目になるだろうな。

 何度も繰り返してきたが、我がそうするようにと作られたからだろう」

「世界を脅かす魔王を作り出した存在がいるだって?」

「勘違いをしてもらっては困るが、我は世界を脅かしてはおらん。

 むしろ世界を脅かしておったのは、お前ら人だろう」


 角を生やした顔のいいお兄さんと熱血そうな青年との間でこんな感じの茶番が繰り広げられている。

 わたしたちがいるのは隣の部屋。コーヒーテーブルでコーヒーメーカー的なもので入れたコーヒーを飲んでいる。

 神と呼ばれる存在になって食事が不要になっても、味覚も嗅覚も残っているので、楽しむ分には問題ない。

 むしろこういった食事を楽しみにしている神々もいるらしい。


 わたしの場合、微睡みこそを最大の楽しみとしているので、こういった神々に対しては親近感がわく。

 だけれど、そういった元人間だから得られる楽しみだけで過ごしていくには、神の存在は長く続くのだ。いや、こう説明すると語弊が生じるか。語弊が生じるかもしれないけれど、今は隣の茶番でも楽しんでおこうと思う。


「フィーニスちゃん的には今回はどうなると思う?」

「話で解決できないのはいつも通りじゃないですか? まず戦いになるでしょうね。

 全盛期ほどではないですが、この2000年ほどで人は大きく発展して来たこともありますし、ズィゴスさんも今回でお役目ごめんかもしれません」

「世界が崩壊しきるまで、あと何日だっけ?」

「細かいところまでは何とも。ですが、すでに端の方から崩壊は始まっていますね」


 いつものような崩壊とは違い、いつかのような消滅に近いからこそ、人々はまだ気が付かない。

 もうじき寿命を全うするのがこの世界で、いまさら何をしたところで未来を変えることはできないだろう。強いて言えば、今から急激に何かを引き起こせば崩壊を早めることができる。

 しかしながら、そのための方法は失伝し、再興させる前にズィゴスさんたちが潰してきた。


 続けること約2000年。わたしはその多くを寝ていたけれど、ズィゴスさんはその役目を全うし続けてきたわけだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆





 わたしがこの世界に降り立った時、この世界は何とも言えない状況にあった。

 様々な種族が支えあい、時にぶつかり合いながら発展し、ついには人々は何もせずともアンドロイドやら、AI的なものやらが仕事を行い生活ができるほどにまで到達していた。

 加えて自然とできる限り調和し、絶妙なバランスで世界は穏やかに生き続けていた。


 そのバランスが崩れたのは、世界が寿命を迎える準備を始めたころ。

 緩やかな衰退を良しとしなかった人々が、生活の維持のために世界に無理をさせ始めた。世界の寿命に影響を与え始めた。

 そんなところにわたしはルルスと文月とともに送り込まれた。


 ルルスと文月については、わたしが連れてきたともいう。


 この世界における指令(オーダー)は特にはなく、「好きにしてくれればいい」との事。

 だったら「何もせずに、このまま眠っていたい」といったのだけれど、却下されてしまったうえに、「世界の中で何かやらかす」ようにと追加で指示を受けた。

 何故そんなことをしたいのかは知らないが、たった2000年程度は神から見たら誤差だから終末神が好きにするのを見てみたいのかもしれない。


 ということで、すでに生まれていたズィゴスさんに接触して、可能な限り世界の延命に協力することにした。

 ズィゴスさんの能力が、世界中の魔力を吸収し世界の延命に使える、みたいな感じだったので、ほとんど任せてルルスと文月にサポートを頼んで寝ていただけだけれど。


 実際やったことといえば、やってきた当時に世界崩壊につながる可能性のあるものを可能な限り破壊したことくらいだ。

 そのせいで文明は消えたけれど、神罰と思ってあきらめてほしい。

 そのあとはズィゴスさんの力で世界の魔力が延命に使われ、魔力を使用していた人という種が弱体化した。


 昔はエルフとか、ドワーフとか、魔族とか居たけれど、今はいわゆる人族と獣人族くらいしか残っていない。

 ある意味新しい世界になったようなもので、魔力に頼っていた旧時代の知識の多くは無駄なものへと変わり、新たに一から発展させなくてはいけなくった。

 魔法は一部残ったけれど、大規模な魔法を使える人も激減したらしい。


 そんな人から見ればズィゴスさんは世界を崩壊へと導く魔王に見えるらしく、しばしば人々が攻めてくる。実際ズィゴスさんが倒されれば、人の使える魔力量は増えて、より便利な生活を送ることができたことだろう。

 しかしながら、弱体化した人がズィゴスさんを倒せるわけはなく、返り討ちにあうことを繰り返してきた。


 とはいえ、共通の敵がいることでまとまった人々は、少なくとも表向きには団結して目覚ましい発展を遂げてきた。

 決定的なものは妨害してきたが、それでも着々と発展するのはさすがは人間だなと感心までしたくらいだ。


 たぶんこういった発展を見るために、世界を作る神というのも一定数いるのではないかと思うほど。


 まあ、そんな感じで2000年。ズィゴスさんに守られた世界は、緩やかに消滅している。

 この時点で人々が何をしても変わることはなく、ズィゴスさんの勝利だといっていいだろう。強いて言えば、正確にはわずかに寿命を全うできたわけではないのだけれど、これ以上を一介のズィゴスに望むのは無理というものだ。


 で、さらに今の状況。衰退する世界がズィゴスのせいだと考える人々の精鋭が攻めてきたところ。

 何十年・何百年に一度、先祖がえりを起こしたかのように多くの魔力を宿し戦闘力に秀でた人が生まれるのだけれど、これが勇者としてズィゴスさんのところに送り込まれてくる。

 年々の積み重ねと個人スペックの高さで、回数を重ねるごとにズィゴスさんも押されるようになってきて、先代で勝率は50%程度だった。

 だから今代でズィゴスさんは負けるだろうなと思っている。


 それはズィゴスさんも理解しているらしく、迎え撃ちに出ていくときに別れの言葉を言っていった。

 2000年来の付き合いだと考えるとなんともあっけない言葉ではあったけれど、わたしたちの関係は一種のビジネスライクのそれなので、それくらいで良いのだと思う。

 役目を全うできたズィゴスさんはとても満足そうだったし。




「これが本来の力……これで世界は平和になるな」

「待ってください、まだ向こうに扉があります。魔王の配下が残っているかもしれません」


 ズィゴスさんが戦い始めて30分くらいだろうか、決着がついたらしく世界に魔力が戻り始めた。

 つまり勇者側が勝利し、ズィゴスさんが倒された。

 そのまま帰ってくれればいいのに、勇者とその仲間はこの部屋に通じる扉を見つけてしまったらしい。

 隠すつもりがなかったので、見つかったという表現はおかしいと思うけど。

 それにしても、わたしが暇つぶしに作った城なだけあって、勇者と魔王の戦いがあってもびくともしない。


 通山時代に魔王城で戦うRPGをいくつかやったことがあるけれど、その城はきっと神が作り上げたものに違いない。


 なんて考えながら、コーヒーブレイクを楽しんでいたら、扉が開かれた。

 その間、わたしたちはまるで行動を変えずに、テーブルを囲んでいる。

 憎き魔王を倒し、それでも緊張感を解かずに足を踏み入れた場所で、3人の女の子が歓談している時の心境はどんなものなのだろうか?

 ただただ目を丸くしている勇者一行からは細かい心境を読み取れない。


 ズィゴスさんと戦っていたのは勇者一人だけのようだったけれど、ここに入ってきたのは5人。

 扉を開けた斥候っぽいのと、杖を持った聖女っぽいの、三角帽の魔法使いっぽいの、大きな盾を持った無口そうなおじさん。

 部屋に入るなり、盾使いが真っ先に前に出て盾を構えたあたり、連携がしっかりとれているパーティだと思う。


 驚いていた一行の中で、いち早く気を取り直した聖女っぽいのがこちらにもはっきり聞こえるような声で話しかけてくる。


「あなたたちは誰なのですか? なぜこのような場所に?」

「わたし? わたしはデアコンティラルフィーニス。年齢はいまいち覚えてないかな。多分億は存在しているんじゃないかなぁ。

 気まぐれにこの世界でぐーたら過ごすことに決めた、君たちから見ると一般高次存在に当たるよ。簡単に言い換えれば、神みたいなものだね。次があるかはわからないけど、よろしくね!」

「神といいました?」


 神を自称したことで癇に障ったのか、聖女が語気を強めて問い返してくる。

 口調に対してはスルーらしい。


「神みたいなものです。まあ、神と言い切っても良いですが、そのあたりあまり重要ではないので。大事なのは、デアコンティラルフィーニスという名前の方です。

 呼びにくければ、フィーニスで構いませんが」

「あなたは神をなんだと……」

「ルリシア、ここは抑えて」


 やはりわたしの態度が気に入らないらしい聖女が声を荒げるのを、勇者が止める。

 聖女は深呼吸をして冷静さを取り戻したのか、一歩下がって「任せます」と勇者に後を託した。

 頷いた勇者はまっすぐにこちらを見る。


「それで君たちはどうしてここにいるんだい?」

「ここがわたしの家ですからね。ズィゴスさんとは協力体制だったので、貸してあげていただけです」

「……つまり、君たちは俺たちの敵というわけだ」


 勇者が手に持った剣をこちらに向けてくる。この世界の技術を存分に使ったそれは、他の世界で言えばドラゴンをも切り裂ける業物。使い手次第では、オリハルコンゴーレムとかも倒せることだろう。


「どうでしょう? 敵対したいなら止めはしませんが、わたしたち的には今更戦うつもりはないですよ。もうズィゴスさん含め、わたしたちの目的は達しましたし」

「目的を達した……? 魔王は倒され、世界は正しい姿を取り戻したはずだ」

「んー……あー……。なんかもう面倒なので、ルルスが説明してくれませんか?」


 うん、会話に疲れた。勇者と話を続けても面白い話は聞けそうにないし、それだったらズィゴスさんと話していた方がまだ楽しい。

 ルルスに丸投げして、腕を枕にコーヒーテーブルに伏せる。


「フィーニス様は相変わらずですね。私も説明するのは面倒なのですが、仕方ありません。

 簡潔に話します。この世界は正しい姿になりました。ですので、正しく消滅していきます」

「どうして世界が消滅するなんて……」

「寿命です。人がおおよそ一定の年齢で死んでしまうように、世界にも寿命が存在します。

 それが近々訪れる。それだけの話です」

「じゃあ、魔王はいったい何だったんだ!? 2000年前に魔王が世界を崩壊させるために文明を破壊し尽くしたんじゃないのか!?」

「ズィゴスは2000年前、世界の寿命を縮めんとしていた人に対抗するために、世界が作り出した存在です。そのズィゴスにフィーニス様が力を貸し、この世界は今の今まで耐え抜くことができました。

 そうでなければ、1900年ほど前にこの世界は崩壊していたでしょう

 世界の側から見れば、正義と呼べるのはズィゴス側であり、人がやってきたことは無意味だったということですね」

「そんなことあるわけがない! 俺たちの、人々の努力が無駄だったなんてそんなことがあるわけがない。お前たちは……」

「そちらがどのように考えようと勝手ですが、こちらにばかり気を取られていると足元をすくわれますよ?」

「なにを言って……ぇ……」


 勇者が言葉の途中で意識を失う。

 ちらりと顔を上げると、いい仕事をしたといわんばかりの文月が勇者の後ろで立っていた。

 この世界の勇者も、本気で隠密行動をとる神の使い(文月)には気が付かないらしい。

 なんて便利な能力だろうか。


「ルルスちゃん、お疲れ様。あたしはこれを捨ててくるね」

「はい。必要ないと思いますが、お気をつけて」


 まるでごみ袋でも持つように、五人の人を持った文月がそのままごみ捨てに向かう。

 それを見送ったルルスが「どうなさいますか?」と尋ねてきた。


「話せる時間はどれくらいでしょうかね?」

「せいぜいちょっとした会話程度かと。本来の私の能力ではありませんので」

「それは仕方がないですね。せっかくですし、話しておきましょうか。本人がどんな顔するかはわかりませんが」


 ということで、隣の部屋に移動する。

 そこには体を袈裟に切られ、呼吸もしていないズィゴスが満足そうに寝転がっている。

 パッと見、死体だけれど、今はぎりぎりルルスの能力で死んでいない状況。

 ルルスが力を解くとズィゴスは盛大に咳をする。その時に出た血の量を見ても、そう長くないのは想像に難くない。


「ズィゴスさん、どんな気分ですか?」

「複雑……だな……。気恥ずかしくもあるが、満足感もある。確認だが世界はどうなる?」

「緩やかに消えていくことでしょう。完全とは言えませんが、十分に役目を果たせたといっていいでしょう。お疲れ様でした」

「そうか。そう……か。長かったな」


 ズィゴスさんが噛みしめるように言うのを黙って聞いておく。

 ここで逝っておけばいいのに、ズィゴスさんはそのまま力尽きずにわたしに問いかける。


「して、フィーニス神よ、貴殿はいかがか?」

「なんというか、思ったよりも味気ないですね」

「それは残念だ」

「いえ、それだけがわかっただけでも、十分な収穫でしたよ」


 わたしの言葉への返答はなく、残念だといったわりには満足そうな顔でズィゴスは動かなくなった。

 その姿に懐かしさと、羨望を抱きながらもうひと眠りすることにした。





「そういえば、どうしてフィーニスちゃんはズィゴスに手を貸したの?」


 消えゆく世界を眺めながら文月が尋ねてくる。

 眺めるといっても大したものはなく、魔王を倒しても世界の衰退が止まらず、世界が消えていくことを知った勇者たちの絶望した表情なんかが印象的ではあった。

 それからなぜズィゴスさんに手を貸したのか。睡眠のために世界崩壊を早めたがるわたしの普段の言動からすれば、確かに今回の行動は不思議に感じるだろう。

 でも、わたし的にはそんなに大きな理由もないので、期待した目をされても困る。


「わたしたちは神と呼ばれ、自称もしていますが、その実万能の存在ではありません」

「フィーニスちゃんはよく、終末神は不便だって言っているね」

「世界を作る機構と称するのが近い気がしますが、機械というほどに何も感じないわけではありません。ですが、基本的にその名に関することをせずにはいられない存在です。それで満足できる存在です」


 ゆえに神は自分の名のふさわしい世界を作る。

 世界を作ることで満足する神もいれば、その世界で魔法・魔術が反映していくのを目的とする神もいる。自分の領分ではない事象を世界に入れ込みたいときには、ほかの神の力も借りるし、初めから複数の神で世界を作ることもある。


「ではわたしは何なのか、とふと思いまして」

「終末神で、契約神だよね?」

「契約神は置いておきましょう。わたしが問題としているのは終末神の方です。

 わたしの論が正しければ、わたしは終末を愛し満足する存在であるはずですが、無数の世界の終末を見てきてもどうもしっくりきません。ですが一度もしっくりこなかったわけでもないのです」

「世界が寿命で消えること、かな?」

「そうですね。そこまではわかっていたので、自ら手を貸してみてどうなるのかと試してみたわけです。結果は芳しくありませんでしたが」


 だからといって、それほど残念というわけでもない。この辺、神だからこその感覚なんだと思う。

 というか、終末神がその程度でどうにかなるなら、とっくの昔にどうにかなっている。


「フィーニス様、終わりましたよ」

「そうですか。じゃあ、帰って寝ます」


 結論、基本微睡みながら、当たりの世界に行けることを祈るのが終末神というやつなのだ。

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