誕生
とあるお屋敷にて1人の子供が生まれようとしていた。
そして部屋の中を行ったり来たりせわしなく歩くこの屋敷の主人、ウィーンは妻の初めての出産に落ち着きをなくしていた。
落ち着いてさえいれば、身長は高いとは言えないが、引き締まった身体、焦げ茶色のハッキリした瞳にスッとした鼻、美青年と言った言葉がお似合いだろう。
落ち着きがない今はただの落ち着きのない残念イケメンなのだが。
妻のことになるとこの男は余裕が無くなってしまうらしい。
「うー、ロゼット!!子はまだかー!?アンは無事か?お産とはこんなに時間がかかるものなのか?!もうかれこれ10時間はたっているぞ!?」
居ても立っても居れず、執事であるロゼットに声をかける。
「旦那様。その質問はもう何度目ですか。いい加減落ち着いて下さい。人によって違いますがお産とはそういうものなのです。医師がついていますから安心して下さい。何かあればあちらからすぐ連絡がきます。そう落ち着き無くてはアン様が落ち着いてお子様を産めぬではございませんか。」
ウィーンに声をかけられたこの男は、この屋敷唯一の執事、名はロゼットである。
スラッとした手足に燕尾服がよく似合う。
灰色の髪、ほっそりした目元には眼鏡をかけている。
年は主人より20上だが全く見えない。
イケオジというやつである。
「そうは言ってもロゼット!俺たちの初めての子供だ!心配せずにいられん!」
「まぁまぁ、産まれればルシーがここに知らせに来ますよ。」
「それはそうだが…。」
ドタドタドタドタ!!
「だんなさまぁーーー!」
ドタドタドタドタドテッ!!
バターん!!
「いてて…旦那さまー!!」
「こらルシー!!なんだその様は!!」
現在ロゼットに叱責されているこの女、名前はルシー。
ロゼット同様この家唯一の侍女である。
少し小柄な体型だが、男性にはこれくらいの身長の方が好きな人は多いだろう。
メイド服を身にまとい、黒い髪をお団子にまとめて、白いリボンで留めている。
若い女の子がメイド服でお世話をしてくれる。これだけで高ポイントな気がするのは何故だろう。
ただし彼女の目元は分厚い前髪に隠れており、彼女の顔を拝めるものはそうそうおらず浮いた話は聞いたことがない。
仕事は真面目に取り組んでいるが、先程転んだところから想像できる通り、失敗が多いところがたまにキズである。
「うぅ…申し訳ございません。」
「よいよい!!そんなことより!!う、産まれたか?!」
「はい!旦那様!元気な女の子ですよ!!」
「うう…!よかった!よかったなぁ!」
感激のあまり涙を流すウィーン。
「おめでとうございます。旦那様。」
そんな主をみて微笑むロゼットとルシー。
「ああ、ロゼット。ありがとう。」
落ち着きを取り戻し、たった今父親になった男の笑顔は大変目麗しい。
「ところで旦那様。アン様も、お疲れではありますが早く旦那様にお子様を一緒に見ていただきたいとの事でしたのでお部屋まで来て頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろん。すぐいく。」
ウィーンは即答し、足早に3人はアンと子供のいるへ部屋へと向かった。