生姜焼きはすべてに勝る
突然のモテない期(違う)
※今更ですが、サブタイトルはとてもテキトーです
「…俺、女子にはモテないのかな…」
昼休み。
どうせだからと、卓磨たち5人で昼食をとるべく食堂に向かった。
ものすごい勢いで卓磨の友人(女子)たちの心を掻っ攫ってみせた徳永と対照的に、あまり話題に上らなかった筑井は凹んでいた。
この学校では親衛隊ができるほどちやほやされているイケメンのはずなのに、卓磨の女子の友人たちはほとんど徳永についてしか言及していない。
「いやー悪いね筑井くん。」
嬉しそうな徳永。親衛隊所属ではあるが、恋愛対象は異性であるため女子人気があるのは喜ばしいのである。
「いや、気にするだけ無駄じゃね?俺と咲田なんて一ミリほども言及されてねーし。」
悟りを開いている中村。そのうち俺の良さを分かってくれる家庭的な子が現れるはず、と既に未来の自分に運命を託している。
「美醜に対する反応って男女でそんな差はないと思ってたけど、やっぱり結構違うもんだねえ」
面白そうに咲田。実は幼馴染の彼女がいるため、モテようがモテなかろうが困らないのである。
「んー、俺の周りの女子って華奢な男が好きっぽいから、その辺の好みの差じゃねえかな?」
美醜の分からない卓磨だけは、とりあえず体格から女子の好みを判別している。
「それに俺の先輩は「筋肉サイコー!」って言ってたよ?」
「…その先輩が男か女かによる。」
「女だよ」
「まじか!」
「全国1位になったこともある、柔道の猛者。」
「…」
「…その人の筋肉サイコーは、別の意味がありそうだね。」
二の句の告げない筑井の代わりに、咲田が苦笑した。
食堂に到着後、席を確保し各々がランチの注文を済ませたあと、筑井がいう。
「俺さあ、今までずっとイケメンてちやほやされててさあ」
「イケメン滅びろ。」
中村がすかさず呪いの言葉を吐く。ありがたいことに、筑井の親衛隊は穏やかと評判なだけあり、「ようやく筑井様にもご友人が…!!」と感謝され、多少の暴言も友人同士の戯れの一種と理解されている。
これが他の親衛隊なら、呼び出しを食らった挙句に、投げつけた暴言以上の罵詈雑言を浴びせかけられるところである。
そういう意味でも筑井の親衛隊は特殊であり、だからこそこうやって友人関係を築くことができたのではあるが。
自慢じゃなくて、と少し困ったように筑井は続ける。
「いやね、女子がいても、この男だらけの中でも、割とちやほやされてきた方だったから、だから関野って、その友人たちも含めて結構衝撃。」
「ああ、それ分かる。」
「だろ?」
「俺もずっとこの学園だから、なんかいつの間にか学園の常識に染まってたことに気づいたっていうか」
徳永も同意を示す。卓磨を除いた全員が、中等部からこの学園に通っているため、今年で4年目になる。そりゃ染まるよなあと中村。
「俺らさ、中村とも咲田とも、名前は知ってるけどお互い関わらなかったじゃん」
「親衛隊持ちも親衛隊も、リスキーだもんねえ」
納得、と咲田。
卓磨だけが意味が分からず首をかしげていたが、ちょうど届いた定食の匂いに意識を持っていかれる。
豚の生姜焼き定食は間違いないはず。
それぞれに定食が行き渡ったので、手を合わせる。
「「「「「いただきます。」」」」」
先輩(女):超絶ストイックな柔道女子。筋肉はすべてに勝る。
生姜焼き定食:うまい。