コミュニケーション(物理)
ときがたつのははやすぎますね。びっくり。(ごめんなさい)
この学園はイイとこのお坊ちゃん(世間知らず)が多いため、物理的なコミュニケーションはちょっとしたカルチャーショック。
「――――そもそも、なんでこの面子を呼び出したのか説明をしろ説明を。」
卓磨の頬をびよびよ伸ばしながら、持田。あにふんのー、と言いながらも特に抵抗しない卓磨。
頬が柔らかいためか特に痛くもないためなのだが、水橋がその光景をやや眉を顰めて見つめる。
暴力?いやでも関野が嫌がっているようには見えない…などと気が逸れていたら、幽けき声が耳朶を打った。
「あ、あの、あの…」
視線を、折戸女の負担にならないようこっそりと向ける。
視線の先では、折戸女がコーヒーの入ったカップを所在投げに抱えている。
視線はあちらこちらをさ迷い、落ち着きがない。
大丈夫だ。
そう、声を掛けられる関係なら良かったのに。
水橋は、そんな折戸女をただおろおろと見つめるだけで。
この歪な関係性が、折戸女親衛隊の全てといってよかった。
頬を伸ばすのをやめないまま、持田は胡乱な視線を折戸女に投げる。
「なんすか」
「っぼ僕がっ…、」
頬を伸ばされている関野を心配したのか、視線が持田の指先に向かい、そして持田の不愛想な表情に下がってゆく。
それでもなんとか、折戸女は言葉を放つ。
「それ、は、っぼく、が先輩たちと、は話がしたいって、頼んだん、だ…」
しかし思い切って話し始めた言葉も、所々つっかえつっかえ、終わりに向けて窄んでいく。
それが、今の折戸女の精一杯であることは察せられたが、持田の疑問は解消されていない。
「なんでコイツに頼んだんすか?」
「…あの、あの、ぼく、その」
何かを言おうと努力しているらしい折戸女を無感動に見つめていると、頬を引っ張っていた手をぺしぺしと頬の持ち主に叩かれたので、持田は手を離す。
頬を引っ張り引っ張られというコミュニケーションを繰り返すうちに生まれた、暗黙の了解である。
そしてひっかかり、つっかえ、どもる折戸女の代わりに、卓磨がぺろっと事情を詳らかにした。
「先輩ねえ、この学園に入ってから今まで、殆ど誰とも会話したことなくて、誰に頼めばいいかわからなかったんだって」
「…は?」
「生徒会の人とは事務的な会話くらいしかしたことないし、親衛隊の人たちは折戸女先輩に迷惑かけないように、ってそもそも視界にすら入ってこないから、会話のしようがなかったんだって。」
かといって、他の生徒に話しかけるとその生徒が折戸女親衛隊に警告を受ける。結果、どうしようもないまま今に至ったらしい。
「…あのっ、そもそも、僕、誰が親衛隊なのかも全然、わ、わからなくて…」
「……」
持田は、とても嫌な予感がした。
何かが、盛大にこじれているような、そんな予感である。
思わず、隣にいるものを見る。
「持田どったのすっごいかお、…ひゃんひぇー??」
とんでもない事態の発覚に気付いた様子もない卓磨の頬を引っ張ってしまったのは、無理からぬことであった。
紅茶:忘れられた飲み物その1。軽率に高校生に出されているがお高い。
珈琲:忘れられた飲み物その2。年にひとり、コピルアクを飲ませろとのたまう奴がいる。




