お茶会は優雅に壊れる
筑井くんは、中等部3年かけてようやく親衛隊と仲良くできるようになりました。
(卓磨が筑井親衛隊と仲良くなるのに必要だった期間:3日)
一応”オリトメサマ親衛隊”に忠告を受けたため、その後はオリトメサマが貸し出し当番として図書室にいる日を避けることにした卓磨。
オリトメサマが当番ではない日を見計らって本を返しに図書室を訪れたのだが、そこで予想外の事態に見舞われた。
「…あ、あの、君…外部生、だよね…?」
返却手続きをし、また新しい本を探しているときに話しかけてきたのは、親衛隊から接触について注意を受けた、件のオリトメサマであった。
背は卓磨とあまり変わらないが線が細く、気も弱そうなメガネ男子である。顔は緊張なのか、やや強張っている。
学年は一つ上の2年生で、生徒会で書記もやっている。とても美しい字を書き、書道で賞もよく取っているらしい。
先日出会った親衛隊の先輩たちの薫陶を受けた結果、本人と会話したこともないのに本人について詳しくなっていた卓磨である。
「…そうですけど、何か…?」
親衛隊付きの人には話しかけるな、とは中村を始めとしたクラスメイト達に口を酸っぱく言い含められているが、親衛隊付きの人の方から話しかけられた場合の対処方法は聞いていない。
親衛隊の先輩方からは「折戸女様の読書の邪魔をしてはいけない」と言われたが、現在オリトメサマは新たな本を物色していた卓磨に話しかけているので読書はしていない。
これはセーフ?と思いながら返事を返すと、オリトメサマはどこかほっとした様子で更に話しかけてくる。
「そ、そっか…そうじゃないかと、は思った、んだ…。…あの、あの、ね…」
そして、再び何か緊張したような面持ちで告げられた言葉に、卓磨は思わず唖然とした。
***
「…っつ、筑井ぃぃ……!!!!」
「おー、関野どうしたの?」
学内のカフェテラスで、いつものように親衛隊と放課後のお茶会をしていた筑井は、すごい剣幕で駆けてきた卓磨を驚きながらも迎え入れる。
まだ出会ってからひと月ほどではあるが、大体いつものんびりしている卓磨のこんなにも慌てた様子は、とても珍しい。
「関野君。学内、特にカフェテラスでは走ってはいけませんよ。」
危ないですからね、と諭すように話すのは、筑井の親衛隊の隊長、尾垣星波。とても上品で、穏やかな気性である。
卓磨が興味本位で筑井と親衛隊のお茶会に参加してから、すっかり仲良くなっていた。
親衛隊とすら打ち解けるのに時間がかかった筑井からしたら、思わず嫉妬してしまうくらいには。
「あ、よかった尾垣先輩いたっ!!」
そして、目的の人物も自分ではなく尾垣というあたり、二人を出会わせたのは己であるが、複雑な気分になる。どちらに対しても、友人を取られたような、何とも言えない心地である。
「ねえ先輩、オリトメサマ親衛隊の隊長さんと仲いいんだよね?!」
「…ああ、水橋のことですか?ええ、長年同クラスですし親交は深い方かと。彼が何か?」
「ちょっと呼んで!!呼び出してください可及的速やかにっ!!」
ぼんやりした顔に似合わない鬼気迫る表情に圧され、折戸女の親衛隊長を呼び出した尾垣であるが。
「尾垣、急ぎの用とはなんだ?君は筑井君とお茶会だったのでは…?」
呼び出されてきたものの、水橋興一は首を捻った。
向かったカフェテラスでは尾垣を筆頭に筑井親衛隊の面々がおり、筑井本人もいる。
どうみても、筑井親衛隊によるお茶会の最中である。
「いや、僕は君に用があるので呼び出してほしいと頼まれてね。」
そういって困ったように尾垣が視線を向けた先。
そこには、先日水橋が注意喚起を行った外部生がいた。
「…君は、確か…」
「先日お話させてもらった1年の関野っす。ちょっと一緒に来てもらっていいすか?」
平均的な身長に、太っているでもなく、痩せているでもなく。ぼんやりとした顔つきはしているが、それ以上の特徴は何も窺えない。
所謂平凡な外見をしているその生徒は、先日図書館の利用について注意喚起を行った生徒であった。
今日はなんだか目が座っていてこわい。
尾垣に視線を戻すと、苦笑。
「君に用があると言ってきかないんだ。心配なら僕も同伴するから、お願いできないだろうか?」
「…君がそういうなら、構わないが…」
尾垣を信用して同伴を断り、そうして連れていかれた先は、カフェにある個室。
筑井隊はあまり使用したことがないが、親衛隊のお茶会にもよく使われるスペースである。
そこには先客がいた。
「連れてきましたよ折戸女先輩!!」
そこにいた人物に、水橋は思わず外部生を睨みつける。
「…貴様、先日の忠告をもう忘れたのか…!」
折戸女は、特待生として入学した一般家庭の生徒である。
授業料等々免除される代わりに、一定以上の成績や実績が求められている。
だから水橋は、誰も折戸女の邪魔をしないように、勉学に集中できるように。そう思って環境を整えてきたのだ。
その辺も先日説明したはずなのに、この外部生は…!と頭に血が上るが、そこで室内にもう一人いることに気付いた。
風紀の有名人、持田健斗。
そういえば先日、外部生と知らずに忠告をしていた際に止めにやってきたのも持田だったな、と水橋は思い出す。
超美形の兄を持つが故に、いらない苦労をしているのは内心不憫には思っている。
美形と、それに関わる者たちにとってこの学園は息苦しい。
だからこそ水橋は、敬愛する折戸女にはそんな窮屈さを味わってほしくない。
ずっとそう思ってきたから、自分たちもできる限り折戸女と接触しないように、煩わせることのないように気を付けてきた。
逆に折戸女の障りになりそうな者がいれば忠告して回り、その辺りが風紀に警戒される理由でもあったが。
折戸女のことを煩わせたくないと思っている水橋ではあるが、風紀委員がいるとなると話は変わる。
水橋を始めとする親衛隊に対して、折戸女が何か思うところがあるということだ。
決して彼の障りになるようなことはしないと誓っているが、それを守れなかったということに、忸怩たる思いはある。しかし、水橋にとんと心当たりはなく…。
「まあ、とりあえず水橋先輩は何頼みます?」
「は?」
何故か場を仕切っているのは折戸女でも持田でもなく、外部生。
先ほどかなりの剣幕で己をここに連れてきた割に、暢気な発言。水橋は呆気に取られた。
「…ええと、関野、だったな」
「ういっす。水橋先輩はコーヒー派ですか、紅茶派ですか?」
「…どちらかというと、紅茶だが、」
「やった、仲間いた!先輩も本日のオススメ茶葉でいっすか?」
ダージリンのファーストフラッシュですって、ニコニコと言われてそれを思わず注文する水橋。
「なんか他の2人揃ってコーヒー派でめっちゃ疎外感だったんすよー」
制裁をしかけたときもそうだったが、水橋はかなり攻撃的な態度を取った自覚がある。
にも関わらず、この呑気な反応に毒気を抜かれる。
これで勝つる…!なんてとぼけた発言に、いやイーブンになっただけだろと持田に突っ込まれている。
超美形の兄がいる所為で己に近づく全ての人間を警戒していた持田だが、関野とは随分気安いようだった。
「…も、持田くんは、せ、関野くんと、あの、随分、仲が良いんだね…」
折戸女が、手元のコーヒーカップをいじりながらぽつりと呟く。表情はやや、強ばって見えた。
「ああ、こいつとは同室なんすよ」
持田の表情には呆れが多量に含まれている。
「外部生ってだけならまだしも、こんな感じですっとぼけてるんで、お目付け役も兼ねてます。」
「え、持田お目付け役だったの?」
吃驚したように持田を見やる関野。持田は深いため息をつくと、関野の頬をおもむろに引っ張った。
「ひゃんひぇー?」
「なんでー、じゃねえよ自覚しろよトラブルメーカー」
片頬をみょんみょん引っ張られる関野は、しかし不思議そうなまま。
「関係が微妙な親衛隊持ちとその親衛隊長と一緒にお茶をする状況を生み出しておいて、なんで無自覚なんだよお前」
その言葉は、関野以外のメンバーの心情をとてもよく代弁していた。
折戸女薫:細身のメガネ男子。とてもきれいな顔をしている。中等部から丸4年、学園生とまともに会話していないため会話が下手糞。
水橋:言動・行動全てが生真面目で融通が利かない武士系男子。成長期がくるまでは紅顔の美少年だった。




