彼の友達100人プロジェクト序章
不定期な連載始めました。
雲英星学園。
随分と変わった名前のこの男子校には、変わった風習があった。
「きゃー生徒会の皆様よ!!」
「うっそ全員揃われてるなんて珍しい!!」
「眼福―!!!!」
中学高校という思春期の真っただ中。
全寮制という隔離された環境。
沸き起こる性への衝動。
上記の結果、なんかもう、男でもいっかな。なんて思い始める輩は少なくない。
特に生粋の学園生は、男でもいっか、となった同輩諸先輩方を見慣れているため、抵抗も少ないのだ。
そして、男だろうが女だろうが、見目麗しいものが好かれるのは自然の摂理。よって、生徒会などは事実上の人気投票で決まる。ある種の選抜総選挙である。
そのため、学園の中でアイドル的な扱いを、彼ら生徒会は受けることとなる。
アイドルというからには当然、親衛隊がつきものだ。下手に近寄ると、親衛隊たちから制裁という名の虐めを受ける。
これが、女という女から隔離された男子校、通称キラ校の変わった風習である。
虐めが発生している現状、風習という言葉で済ませてはいけないところだが、学園生はそれに慣れ切ってしまっていた。
見目が良いか否か。それによって周囲の己への扱い方が変わることにも、そして、自らの対応を変えてしまうことにも。
そんなキラ校の中で、まるっきり普通に過ごすが故に、逆に普通ではなくなっている生徒がいた。
『はーい、風紀委員ですー。食堂では騒がないようにー。』
拡声器でそう呼びかけるのは、酷くやる気にかけた男子生徒。
体格の割に低い声だな、程度の印象の、短い黒髪の前だけをつんつんと立たせた、これといった特徴のない顔立ち。
普通が服を着て歩いているようなその生徒は、煌びやかな学園にあってある意味で有名だった。
その声に、黄色い悲鳴とは別のざわめきが起こる。
「ちったあやる気出せよ卓磨―」
「騒ぎ鎮める気あるわけー?」
笑いを含んだ声が、至る所から上がり、卓磨と呼ばれたその生徒は拡声器を持ったまま顔を顰めた。
『うるせーなあ、俺の昼飯の時間短くなるからさっさと静まれー。』
その声に、先ほどまで生徒会に歓声を上げていた生徒までがくすくすと笑いだす。
『てゆーか騒ぎの元凶のみなさーん、笑ってないですみやかに専用席にどうぞー。』
生徒会のメンバーが笑っているのを目ざとく見つけた卓磨がそういうと、笑いながら彼らは専用席のある二階へと消えていった。
『なんで二階から入れるのにわざわざ一般生徒口から来るんかねえー』
「おい愚痴んなら拡声器のスイッチ切れよー」
「ダダ漏れだぞー」
卓磨の声に周囲からそんな声が上がる。が、ともすれば生徒会批判となりそうなそれを、親衛隊の面々は笑って流している。
「相変わらず馬鹿だねー関野」
「ホントホント。頭の寝癖もヒドイし」
『うおマジか!なんだよ誰か教えてくれたっていいんじゃねー?』
ひでーよみんな、と頭に手を当てるのに、更に笑いが増す。
けれどその大半は好意的で。
『みんなトモダチ甲斐ねえのー』
拡声器を当てたままぶすくれる彼、関野卓磨。
――学園の大半の人間と普通にトモダチをやっている、普通じゃない男。
続きは気長にお待ちください。