第8話 『聴取』
ようやく警察が僕の所を訪ねてきた。ただし土屋の親父さんではなく、見知らぬ私服警官が二人、学校からの帰宅時に僕を捕まえた。
しかし逮捕状を持参していなかったので、何らかの証拠を発見して僕を犯人だと突き止めたわけではないらしい。やはり現実じゃあ、ホームズやポアロのような頭脳を持った人間はそうそういるわけないのか。僕が知識を最も欲した時期に、推理小説を読みすぎたせいで、少しばかり夢見がちな性格になってしまったのかもしれない。
任意同行を求められ、僕にしては珍しく緊張しながら同意し、連れられた先はどこでもありそうな乗用車だった。警察署の取り調べ室まで連行され、自白を迫られるのかと思いきやどうやら違うらしい。なーんだ、本当に僕を容疑者としての眼中にも入れていないのかよ。
車の中での取り調べはいたってシンプルだった。
まずは金本はどのような少年だったのか。交友関係は。深夜徘徊癖は。誰かに恨まれるような性格だったか、または恨まれるようなことをしたことがあるか。などといった、親友の僕だからこそ、金本の親とはまったく違う視点から金本自身の性格に歩み寄るための聞き込みだった。
ただし途中から、さりげなく僕のことへと移行してくる。
金本とはどういう関係だったのか。事件当日、怪しげな物音を聞かなかったか。事件後、学校で怪しい人物を見かけなかったか。
あらかた質問を終わらせてから、刑事たちは納得いったのかそうでないのか、判断のつきにくい表情を浮かべて僕を解放してくれた。時間を取らせた駄賃としてタクシーと化した覆面パトカーは、一寸のずれもなく僕の家の前で止まった。
車から降り、閑静な住宅地を法定速度で走り去る乗用車を見送る。
何らかの決定的証拠を発見するか、初めから僕に狙いを定めて捜査を進めなければ、金本を殺した犯人は間違いなく捕まることはないだろう。ほとんど通り魔と同じだからね。
また刑事たちが、事件の当日、誰かが僕を見たという目撃証言を述べなかったってことは、それらもまったく無かったのかもしれない。本当に、僕は無駄なところで運が良い。
ただ僕を容疑者の一人として視野に入れるのは、捜査上無理のあることなのではないだろうか。この事件の責任者は土屋の父親だと、本人から聞いている。その時も「絶対に犯人を捕まえてみせるよ」と宣言し、僕のことを疑うどころか信頼しているかのような瞳だった。
正義感の強い彼なら、娘の幼馴染である僕が『まさか』と疑うことを罪と考えるだろうし、僕の本性を知って毛嫌いしている土屋とは違って、僕は昔から大人たちに対して『素直で良い子』を振舞っていたからね。
それに僕の家庭の事件が起こってからは、土屋の親父さんには本当に良くしてもらったものだ。感謝の極みに値するよ。
……ふふ、そうなると数多の中から容疑者を絞らないといけない警察では、僕を捕まえることは難しいかな。それよりも、今は僕に狙いを定めている土屋の方が、圧倒的に天敵かもしれない。
敵? 何を言っているのだ。
じゃあ味方? それはもっと有り得ない。
さぁ、早く僕の所へおいで。早く僕を捕まえてごらん。
これは勝負なんだよ、土屋。僕と君との真剣勝負。
証拠を見つけ、僕が犯人だと納得できる推理を立てれば君の勝ち。
警察が先に僕を捕まえるか、君が尻尾を巻いて逃げるようであれば僕の勝ち。
昔好きだった金本を殺されて、君も相当気が立っているだろう。
だけどね、僕も昔、金本のことが好きだったんだよ。親友としてね。
僕が金本を好きだった理由は土屋、君が彼を好きだったからだ。それにね、昔は金本も君のことが好きだったのを、僕はうすうすと気づいていた。だからね……。
奪ってやりたかったんだよ! 君ばかり見ていた金本を、僕の方へと振り向かせてやりたかった!
そして結果的に僕と金本は親友関係を維持したまま高校に入学し、君と金本は昔の関係も忘れてしまうくらいに疎遠になってしまった。
僕が勝った。僕が金本を勝ち取った! そして金本を不本意ながらも殺害してしまった今、彼の魂さえも僕が所持しているんだ!
だから勝負なんだよ。この魂を君が奪い返せるか、それとも僕がこのまま監獄まで持って行ってしまうのか。戦利品は金本の魂。僕と君の、昔からの確執に終止符を打つ時さ!
さあ、来いよ。僕を追い詰めに来い、土屋!
君がどのような発見をし、理論を並べ、推理を披露したところで、僕は逃げも隠れもしない。正面から現実のすべてを受け入れよう。僕の強欲さで、ありとあらゆる真実を享受しようじゃないか!
君は僕に立ち向かうのも良し。それも現実。
君は僕から逃げ出すのも良し。それも真実。
犯人はここにいる。殺人犯はこの僕、日村秋月だ!




