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第7話 『接触』

 さーて、興味はまったく無いけれど、ここで事件の核心に触れてみようと思う。ただしたとえ俺が犯人の確たる証拠を見つけたとしても、探偵役は御免こうむりたい。延々と証拠だのアリバイだのを述べるのは、面倒なことこの上ないからね。


 だから俺がやることは、事件の中心人物の人柄を的確に把握することだけだ。


 何故そんな糞面倒なことを、やる気もないのに実行しようと思ったかって?

 だってつまらないだろ? 登場人物像も知らないで、周りが勝手に話を展開させていくのはさ。


 もちろん、これが俺とはまったくの無関係な事件だったのなら、「へー、学校で殺人事件が起きたのか。ふーん」で終わりだけど、今回のは特別。被害者はなんと、俺の好きな奴の幼馴染! そして俺の好きな奴は、もう一人の幼馴染を犯人として疑っている! これはもう首を突っ込まざる得ないでしょ、面倒臭いけど。


 え? 結局、俺との関係性は非常に薄いんじゃないかって? 何言ってんだ、だから楽しめるんじゃねーか。他人事だからさ。はっはっは。




 時刻は夜の八時を回っているが、時間帯とは無関係に会場は明るかった。当然ながら明度がってことね。場の雰囲気は俺の将来くらいに真っ暗だけど。


 整然と並べられた椅子にぼんやりと座る者、会場の隅で談話している者、焼香を合わせている者、人の動きはさまざまであるが、皆一様に黒を基調とした喪服で身を固めていた。ただし『子供』という鎖からまだ完全に解放されていない高校生である俺たちは、学生服で統一だった。衣替えしてから一ヶ月以上は経過してる真夏に、まさか冬服を着るとは思わなかったよ。


 いわゆる通夜である。もちろん殺人事件の被害者である金本の。同クラスの奴らは強制参加らしいが、隣のクラスの生徒という異端な俺は、生前金本と親しくしていた仲って名目で勝手に参加しているのだ。もちろん嘘だけどね。


 葬式のある明日は平日なので学生たちは参加することができず、こうして通夜だけでも強制的に参加するように教師から言われたらしい。


 参加したからにはそれなりの儀式を強要されるわけであり、俺も列に加わって焼香の手を合わせた。棺に収まった金本の顔も見てみたが、蝋人形のように粗がなく綺麗だった。情報では頭の中身が半分以上外へ散布したと土屋から聞いていた。ここで遺体をうつ伏せにさせたら、いったいどうなっているのでしょうねぇ。


「さて……」


 わざわざ通夜の会場まで足を運んだ目的を、すっかり忘れていた。


 さあ、あいつ……日村秋月はどんな顔をしているだろう。悲しんでいるか? 泣いているか? 落ち込んでいるか? それとも……笑っているか?


 会場の人口の半分を占めていた学生がほとんど帰ったため、日村を見つけるのは容易だった。あの身長にあの顔の器量。嫌でも目立つ。つーか、まだ帰ってなくて本当によかったよ。


「こんばんわ。日村君」


 日村は壁際で、写真の中に閉じ込められている金本をじっと見つめていた。その顔はいたって無表情。親友の死を悼んでいるのか、内心では細く微笑んでいるのか、どうも判別がつかない。もし前者だったら、俺なんかが話しかけてごめーんね。


「こんばんわ。えーっと……」


 中指で俺の顔を指し、そのまま自分の額を突いた。


「ごめん。顔は何回か見たことあったけど、名前は知らないや。確か隣のクラスだったよね?」


 ま、その程度の認識だろう。むしろ隣のクラスなのを知っていただけでも奇跡だ。


「俺の名前は木原純也だよ。よろしく」

「木原君ね。よろしく」


 と、紳士的に握手を交わす。

 しまった! 話しかけたのはいいけど、何を話せばいいのかまったく考えてなかった! さすがはノープランで生きてきた男、俺。


「えっと、隣のクラスなのに来てくれたってことは、木原君は金本と仲良かった人?」

「いや、実は一度も話したことがなかったりする。ただ日村君と金本君の幼馴染の、土屋さんと親しくさせてもらっている関係なんだ」

「あぁ、そういう繋がりか」


 納得したかのような呟き。……まさか今の言い方で、俺と土屋が付き合ってると勘違いされたか? まあいいや。近い将来、本当にそうなる予定だし。


「それで、僕に何の用かな?」


 それにしてもこいつ、やけに人当たりの良い笑顔を振り撒くな。これじゃあ女子からの圧倒な人気を得るのも頷ける。


 てな感想を述べている場合ではない。接触を試みたまではいいけれど、どんな会話で日村の人柄を知ろうかとか、実はまったくもって考えていなかったりする。


 ま、なんだっていいか。会話さえできりゃ。

 したがって思考停止。


「土屋さんがとても落ち込んでたからさ。同じ幼馴染の日村君はどう思ってるのかなって」


 なんだその理由は。これじゃ他人の不幸をおかずにして、うまい飯を食ってるただの嫌な奴じゃないか。


「どう思ってると訊かれてもね……。純粋に悲しいよ。今も金本と一緒にいた頃を、昔から順に思い返していたところだ」

「そこで俺が話しかけたわけか。邪魔して悪かったね」

「別に構わないさ。一人で考え込んでいたって、悲しみが増すだけだ」


 軽く違和感。会話内容は明日になれば忘れてしまうほど空疎なものだけど、日村の声音が今まで誰からも聞いたことのないような感情が混じっている。いや、何か大切な物が欠けている?


「金本君は殺されたって話だけど、犯人はどんな奴なんだろうね?」

「さあねぇ」


 やはり淡白な答えが返ってきた。俺の白々しい喋り方は意図的ではあるけれど、日村も同じようなものなのか? しかし親友が殺されて、こうも平然としてられるのはどんな理由からか。もしくは日村と金本は、最初から親しくなんかなかった?


「……ふふ。その顔は、親友が殺されたのに僕があまりにも動揺してないのを訝しんでる表情だね」


 図星。今の俺、そんなにわかりやすい顔してたのか?


「僕にはね、怒りという感情がないんだ」

「怒りが……ない?」

「そう。幼い頃の環境が、僕から怒りを欠落させた。どんな環境だったのかは、あまり他人に話せることじゃないんだけど……。とにかく、誰に対しても怒ることもできず、他人の仕草に不快感を持つこともない。だから金本を殺した犯人に対しても、憎さはあれどそれを糧として僕は怒ることができないんだ」


 ふーん、道理でね。さっき俺が感じた日村の感情の欠落。あれは怒りだったわけか。普通の人なら少しは頭にくる言葉も、軽々と受け流せたわけだ。つーか、初対面の相手に頭にくる言葉を投げる俺も俺だよな。


「犯人、早く捕まるといいね。金本君の未練を晴らすためにも」

「そうだね」


 やはり淡白だな。早く話を切り上げたそうに……もしかして俺、嫌われてる?


「自分から犯人を突き止めようとは思わない?」

「思わないね。それは警察の仕事。警察に任せておけば、犯人はすぐにでも捕まるさ。僕はただ、犯人を金本と同じ目に遭わせてやりたい。罪もない金本を殺したように、金属バットで何度も何度も殴りつけてやりたいよ。犯人への復讐が、金本の無念を晴らすかどうかはわからないけどね」


 言い終えてからすぐに、日村は自虐的に、口元を歪めて皮肉めいた笑みを漏らした。


「だからといって、僕を猟奇的な人間だと思わないでくれよ」

「思わないさ。親友が殺されたら、誰だってそう思うって」


 そこで日村が腕時計を確認した。腕でなくとも壁に大きな時計が掛っているので確認すると、すでに八時半を回っていた。寝るにはまだずっと早い時間帯ではあるが、今から帰らなければ明日の予習をしている間に、睡眠時間を七時間も確保できなくなるだろう。もちろん俺はやらないけどね!


「ごめん、そろそろ帰るとするよ」

「あぁ、そうだね。あまり帰るの遅くなると、明日の授業に障る」

「いや、明日は学校には行かない。僕は葬式にも参加するよ」


 それもそうか。ってことは、土屋も参加するのかな?


 日村は一度金本の写真を眺めた後、俺に軽く手を上げてロビーへと向かった。

 さて、最初の接触の割にはうまくいったのかな? どうにも嫌われた感が拭えないが、日村の人物像は大体把握できたので最低目的は達成された。


 去り行く日村の高い背中を見送る。足取りは機敏に、金本に対して名残惜しむ様子もなく、一直線に通夜会場のホールへと向かって行った。彼が犯人なのか、もしくは親友を殺されたただの被害者なのか。


 ……うっわー、マジでどうでもよくなってきちゃった。


「さ、俺も帰ろーっと」


 面倒臭いもんね。ぶっちゃけ眠たくなってきたよ。


***


 何なんだあいつは。何が目的で僕に接触を謀ったのだ?


 ……そうだな、大体予想はできる。あの男は土屋と親しい仲だと言っていた。そしてたぶん、土屋は金本を殺した犯人が僕ではないかと疑っているのだろう。金本が死んでからまだ一度も顔を合わせていないが、あの女なら間違いなくその結論へと至る。僕と金本の仲を一番良く知っている土屋だからこそ。


 それであの男……木原純也だとか言ったか? を遣いに出して、僕がボロを出さないかどうかを見極めさせに来たわけだ。ったく、自分から動くことをしないのは狡猾というか傲慢というか。


『ひひはは。疑ってくる奴は全部殺しゃあいいんだよ』


 黙れ殺人狂。お前に言葉を吐く許可を与えた覚えはない。


『おやおや、手厳しいねぇ。俺はお前さんの唯一の逃げ道なんだぜ? 逃げ道に対して黙ってろっつーことは、扉のない地下牢に閉じ込められてんのと同じことだ。ぎゃはは、暗え、暗え。お先真っ暗だなあ、おい』


 僕にはその覚悟がある。たとえ進む道が闇に満ちていたとしても、逃げも隠れもしない。現実を突きつけられたら、ちゃんと受け入れるさ。


『はーはーはー、嘘つけ』


 …………。


『お前は未だ俺に頼っているはずだ。自我を崩壊させないために、事あるごとに俺の中に逃げ込んでくるくせに。同じ意識を共有している者同士だ。嘘が通じると思うなよ?』


 わかったよ。だけど僕の意識の邪魔をするな。お前は一生奥で眠っていろ。二度と外へ出てくるな。


『くはは。本当に手厳しい奴だ。それは自分の身体は自分だけのものって強欲かい? せっかく今も俺が逃げ道を提示してやったというのに。礼は言われても邪険に扱われる覚えはねえぜ』


 僕がいつ逃げたというんだ?


『自覚がないのが一番怖いんだぜ。お前、木原純也って奴に、ものすごい頭に来てたんじゃないのか? 真っ向から不躾な質問されてよう』


 そんなことはない。確かにあの男は、初対面の僕に対して無粋なことばかり訊いていたけど、それらはすべて無視に近いかたちで受け流していたはずだ。怒りを失った僕にとっては、小柳の戯言でしかないよ。


『だからそれが自覚してねーっつーんだよ。お前、怒りを感じないって宣言してたがよ、本当にそんなことがあると思うか? 自分の気に入らないことを一身に受けて、少しでもストレスを感じない人間がいるとでもいうのか? いいや、いないね。そんな人間は存在しない! 神や仏だって、人間の愚痴や願いをさんざん聴かされて、心底うんざりしてるに違いねぇ! 聖母マリアもお釈迦さまも、全人類の願いを聴き入れる度量はねぇよ! 人間は不平等だ! 神に愛されれば天の幸を歩み、嫌われれば地の不幸を這う! そういうもんだろう? 神だって自分の好みで人を選別し、道を示すんだ。ただの餓鬼がすべての人間を平等に扱うなんてことができると思うなよ』


 …………。


『そしてお前は、木原純也に対して莫大なストレスを生産していたはずだ。日村秋月に愛されなかった人間ってことでな! なのにお前は腹も立てずに飄々としていられる。ストレスなど微塵にも感じてはいない。そんなことはあり得ないはずなのにな! それはなんでだと思う?』


 …………。


『俺がいるからだろ! 俺がお前のストレスをすべて引き受けてやってるからさ! いいや、お前の心理と別離した俺こそが、お前のストレスそのものなんだよ! もう理解してんだろ? 頭の良いお前ならよ! 俺がいたからこそ、俺が誕生したからこそ、幼少期のお前は壊れずに済んだってな!』


 僕がもう一人の人格の存在に気づいたのは、二・三年前のこと。そう、心の中に不明な空白を認知し、ありとあらゆる物を手に入れたくなった時期と重なる。


 最初のあいつはまるで赤ん坊のようで、まったく話すこともせず、僕の心とは別のところでただ存在しているだけだった。しかし時が経つにつれて、奴は急激に成長していった。いつの間にか会話できるようになっていると思ったら、人格まで交替できるようになっていた始末だ。


 そして金本の事件に至ってしまう。


 過去に何度か入れ替わったことはあった。もちろん殺人はあれが初めて。奴が表に出てきた時には、主に誰もいないところで暴力を振るうなど、力の限り暴れまわっていたものだ。


 中学生の時、深夜に他校のガラスを割って歩いたこともあった。ただ人格が入れ替わっている時は僕の意識も薄らと残っているため、犯人が自分だと特定できない配慮をしていたことは幸運ではあるが。


 しかし奴は何故か僕の身体を乗っ取ろうとはしない。出たい時に出て、事が済めばすぐに引っ込む。その気になれば四六時中僕を心の隅に追いやることもできるはずなのに。そこは切り離された心だからか、僕にも奴の行動理念は理解できない。


『ま、お前が俺に頼るのと同様、俺だってお前に頼られなきゃ生きていけない存在だ。金本を殺してストレスを発散させきった今は、素直に寝といてやるよ。だけどこれだけは忘れるなよ。お前が外部からの要因でストレスを生産するたびに、俺の存在は成長するってことをな。俺はいくらでも受け入れるぞ。お前のストレスを、お前の怒りを。ふふふ……』


 言いたいことだけ言って、奴は意識の海へと沈んでいった。嗚呼、奴が奥へ引っ込んだため自覚できるようになった、ちょっぴり開いた心の空白が歯痒くて気持ち悪いなぁ。


「……あ、日村君」


 不意に自分の名前を呼ばれた。見上げていた夜空から視線を落とし、通夜会場のホールから小走りで出てくる女の子を捉える。


 見慣れた制服姿ではあるが、葬儀会場という非日常な背景が妙にマッチし、彼女を幻想的に魅せる。制服にしみ込んだ微かなお香の匂いが、妙に艶めかしかった。


「水野さん……」


 一応、僕の現彼女である。見た目は限界突破。しかし中身が化け猫かと錯覚させるほどの猫被り。きっとその脳内では、どうすれば自分がより一層可愛く見えるか、スパコン並みの速度で計算していることだろう。


 とりあえず、大衆の羨望に優越感を得られる方面でいえば、強欲なる僕を心の底から満足させてくれる女であることは間違いない。


 ただし今は光の当たり具合のせいか、気分が優れなさそうな青ざめた表情。


「どうしたの? 具合悪そうな顔してるけど」


 ま、同級生が殺されれば、女の子だったらこれくらいの反応はするわな。

 しかし水野さんはウェーブのかかった髪を優雅に揺らし、ふりふりと首を横に振る。


「その……、金本君が死んだのって、私のせいじゃないかなと思って……」


 何を言い出すんだこの女は。……あ、そうか。金本は殺された数日前に水野さんに告ってたんだよな。っていうか今回のはそれが発端だったか。微妙に忘れてた。


「金本は殺されたんだよ。そんなわけないじゃないか」


 自殺だったらわからないけどね、とはさすがに言えない。


 ともあれ、どうにも僕はこの女を好きになることができない。理由は明白で、端的に言ってしまえば彼女の中身の問題だ。外見は申し分ないが、僕は極端な面食いではないので、人を好きになるためには両方重視したいんだよ。水野の場合、内と外を足して二で割れば、平均よりも少し上くらいの位置になっちゃうからね。


 ま、いいや。率直に言えば、お前は僕の好みのタイプじゃないから、好きじゃないんだよ。相手から歩み寄ってきたから受け入れただけであって、それがなければほぼ赤の他人で終わっていた関係だろうね。


 水野の告白を受け入れた理由はもちろん、彼女の外見が良かったから。


 ……。……?


 あぁ、そうか。今気がついた。金本のせいだ。金本が水野に告白した直後だったからこそ、僕は彼女からのアプローチを受け入れてしまったんだろうな。


 金本が好きになった女が、どんな奴なのか興味があって。

 金本の好きな奴を奪い取って、優越感に浸るために。

 金本との勝負のつもりで、僕は勝利を捥ぎ取りにいったんだろう。


 あは、ははは。ホントにもう、どうしようもなく荒んでいるなぁ、僕の心。


「でも私、怖いわ。金本君を殺した犯人って、まだ捕まってないんでしょ? 殺人鬼が未だに徘徊してるのを想像すると、夜も眠れないわ」


 そう言って水野が微かに震えだしたので、僕は自嘲を中断した。


 あー、もう鬱陶しいな。こいつ猫被りすぎ。一体何枚の猫を重ね着してるんだよ。暑くないのか、この時期に。泣き真似まですることはないけれど、それに近い形で両手で目元を覆う。なんで女ってのは、こう自分をか弱く見せたがるんだかね。


「こんばんわ。久しぶりね、日村」


 か弱くない女登場。ほぼ強制的に通夜に出席しろと言われたのは僕たちのクラスだけであって、隣のクラスである彼女にその義務はないのだけれど、絶対に来ていると思ったよ。むしろ今まで姿を見かけなかったことが意外だったんだ。


 土屋明美が踵を鳴らして僕たちの元へ寄ってきた。その姿は学生服ではなく、完璧な喪服だった。


「あら、明美。……そんなに気合い入れないでも、学生服でよかったんじゃない?」

「こういうものは形から入らないと、亡くなった人に申し訳ないでしょ」


 ん? 僕の知らないところで会話が進んでるな。


「あれ、二人って知り合いだったっけ?」

「同じ部活……手芸部よ。何回かあなたの前で並んで立ったこともあったような気がするけど」


 そうだっけ? いつだったかな?


「私、明日は学校休んで金本の葬式に出るから」

「……僕もだよ」


 鼻の頭に皺が寄るほど僕を睨む土屋。そうか、まだ僕のことを嫌っていたか。


「ねえ、日村。金本を殺したのって誰なんでしょうね?」


 おっと、こいつもか。いや……しかし土屋が直々に僕に訊ねてくるってことは、木原は土屋の遣いで僕と接触したわけじゃなかったのか? 土屋と仲が良いというのは、口からでまかせ? ……まあいい。土屋が僕を疑っているのは予想通りのこと。そう動揺することもない。


「さあねえ」


 だから惚けておいた。ここで犯人についての言及をするってことは、もう疑ってる段階を通り過ぎてるのだろうか。にしては鎌かけにも値しない直球勝負の質問だったけど。もしくは僕の反応を観察しているのか……。


 とりあえず、土屋の矢を射るような視線が怖いので、今は逃げるが勝ちだ。


「今日はもう遅いし、帰ろう。水野さん、送ってこうか?」

「あ……えっと、ごめんなさい。お母さんが迎えに来ているの」


 それもそうか。殺人鬼が徘徊しているかもしれない町に、子供を夜中出歩かせるような親はいないだろう。歩いてきたのは僕くらいかもしれない。……ふふ、本当に徘徊しているじゃないか。


「それじゃあ、土屋はまた明日。水野さんはまた今度学校に行った時ね」


 手を振り、逃げるようにして通夜会場を後にする。土屋の疑わしげな視線が背中に突き刺さってることは、痛々しいほどにわかった。

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