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ー青山駿介 期待ー

 適当に理由を作って二次会を早々に引き上げたが、仕事があるわけでも今夜行く当てがあるわけでもなかった。ただ、一人になりたかった。

 やはり香梨は来なかった。わかっていたが、会えなかった落胆を隠すことはできなかった。心にできた隙間に生温い風が通り過ぎてゆく。

 僕は今日何を期待していたのだろうか…


 店を出る時ユージも一緒だった。用事があるとかで同じく二次会の途中で切り上げた。

久しぶりに会うかつての仲間たちは、童心とまではいかなくても、若いあの頃の気持ちに戻されて、思い出話に笑い声が絶えなかった。皆、現実の苦悩からはしばし離れて。


 僕は、一分一秒経過と共に、一分一秒過去へと引き戻されていく感覚に陥り、戸惑った。

 過去に戻り、もう一度君に手を伸ばし、しあわせな時間のその後で、「絶対にこの手を離さない。たとえ君以外のすべてを失くしても」と、今度は言えるだろうか…

 眠れぬ夜が永遠に続くような日々を過ごし、もう二度とこんな思いはしたくないと思いながらも、もう一度チャンスがあったら、同じことは繰り返さないと絶対に言えるだろうか…

 自分がどこまでもずるい人間に思えた。


 今日の午後の出来事が、すでに遠い過去のように感じる。

君に会えるかもしれないというわずかな期待を胸に、桜の舞う坂道を上っていた。その道の先に、きっと君がたたずんでいるかもしれない、なんて淡い夢見ながら。


 そうだ、その時。

 前からやってきた女性がぶつかってきて、いきなり現実に戻されたのだ。うつむいていたからよくわからないが、若い女性だった。ぶつかった拍子に名刺のようなものを落としたから声を掛けたのだが足早に行ってしまった。捨てるわけにもいかず、フロントに届けようと胸ポケットに入れ、そのままになっていた。取り出して見てみると、『CROSS ROAD』と印刷されていた。ライブハウスらしい。


 あの時、ほのかに香梨の匂いがした。そんな気がした…


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