ーユージとユーコー
坂の上ホテルの最上階にあるオーシャンビューの同窓会会場は徐々に賑わってきていた。
前回の同窓会から15年ぶりということもあり、地元を離れて暮らす旧友も都合をつけて駆けつけ、出席者はかなり増えていた。
会場の入口に作られた受付で、1時間前から座っている吉沢奈々子と鮎川みどりは、久しぶりに会う懐かしい顔に、一番に挨拶できる役得に満足していた。
二人は家が近所のこともあり今でも仲が良い。奈々子は家庭を持ち子供がいて、みどりは独身でバリバリとまでいかなくてもキャリアウーマンだった。共通点を持ち合わせていないというのは上手くやっていく秘訣なのかもしれない。人は比べ始めると優劣をつけ嫉妬するようになる。そして嫉妬は、やがて破壊を生む。
「みんな変わっているけど変わってないね。45歳。顔や体型がそれぞれ生きてきた日々を物語っているけど、雰囲気というかベースは昔のまんまだよね。」
「本当。みんなタイムスリップしたようにはしゃいでる。見て見て見て!あそこ!ユージとユーコはまた恋に落ちそうな雰囲気だよ。あぶないなー」
「同窓会って不倫発生率多いのよね。しかし!ユージは今や私の旦那。恐妻の目の前でそれはないでしょう。それにあの太っ腹。ユーコが惚れるとは到底思わない。」
「フフ、愛妻の料理が美味しいんでしょう。ところで、香梨のこと聞いた?」
「日本に帰ってきてるって?でも、誰も会ってないのよね。同窓会のハガキの返事もなかったから、案外デマかもしれない。」
「そっかぁ…。それに、同窓会なんて来たくないよね、きっと。」
「うん…、あっ、駿介君が来た」
青山駿介が受付の前に立った。
「こんにちは。」
長身で無駄のない体型。聡明で端正な顔立ち。昔と変わらずどこから見てもいい男だった。御曹司で性格もよく、歩けば涼しげな風薫る、高校時代は光源氏とあだ名されていた。軽く会釈する駿介の笑顔は、目じりのしわを除けば青春時代の弾ける爽やかさそのものだったが、その魅力をより引き立てていたのは、駿介全体を羽衣のように覆う哀愁の色だった。
「駿介君、お久しぶりです。相変わらず超イケメンですね!旦那が会うの楽しみにしていました。」
駿介とユージは中学高校と同じサッカー部で毎日顔を合わせた仲だった。
「それから、さっき、若い女性が尋ねてきましたよ。」
「若い女性…?」
「青山駿介んさんみえますか?って。まだ来ていないならいいですって、名前も言わずに行ってしまって…」
奈々子とみどりは駿介の次の言葉を待ったが、駿介は首を傾げたままわからない風だった。そこへユーコと話を終えたユージがやってきて、「ヨゥ!」と肩を取り合い会場の中に入っていってしまった。
「駿介君、離婚したってうわさあったけど、これもデマだったみたいね。まぁ、よかったけど、なんかちょっと残念。」
「花の独身みどりさん!まさか後釜を狙っていたの??でも、どうしてわかったの?」
「薬指。」
みどりは右手の人差し指で自分の左手の薬指の周りをなぞった。
奈々子はそれを見て、みどりの洞察力の鋭さに軽い嫉妬を覚えた。