ーキリンシスターズー
今日は「聖マザー教会児童養護施設」の年一回の発表会だ。発表会と言っても、劇をやって、みんなで歌を歌って、いつもより豪華なお昼ご飯を食べるといった簡単なものだったが、単調な毎日から少し“ハメ”を外せて、皆それなりに楽しみにしていた。
ところが、メインの劇の主役の二人が風邪で熱を出し、そろってダウンしてしまった。早朝からシスターたちが慌てふためいていた。
「どうしましょう。代役できる人誰かいるかしら。」
「拓ちゃんと鉄っちゃんはどうかしら。練習ずっと見ているし。」
「それじゃあ照明係がいなくなっちゃうわ。」
「真理ちゃんも無理だし…。マザーは自分たちでどうにかしなさいって言うけど、どうにもならないわよねぇ。」
「どうしましょう…」
「どうしましょう…」
そんなこと知らず、時間になり、年長である拓朗と鉄二は照明係の位置についた。音楽センスのある拓朗は音響係も兼ねていた。音響係と言ってもプレイヤーにCDを入れるだけだ。
部屋の照明を落とし、みんなでワイワイ言いながら作ったジャングルのセットの一角にスポットライトを当てた。そこに年中のかわいい主役二人が出てくるはずだった。ところが出てこない。野性の自然っぽい快活なメロディだけが流れ続けている。どうしたんだろう…?拓朗と鉄二は首を傾げて顔を見合わせた。
そこへ着ぐるみを着た二人が現れて演技を始めた。ホッとしたと同時に「エッ?」と思った。
「いいなぁ…きみは首が長くて。ぼくはそんな高い所のものを取って食べれないよ。」
「わたしはあなたみたいに、足元のものを拾えないわ。」
「じゃあ、きみが今落とした木の実、ぼくが拾ってあげるよ。どうぞ。」
「ありがとう。助かるわ。お礼にこの美味しそうな実をあなたに取るわ。どうぞ。」
「ありがとう。ぼくは首が短くてよかったよ。もううらやましいなんて思わないよ。」
「助け合うって楽しいわね。」
「うん!」
エッ?
小さなキリンが大きなキリンに変わっている。丈が余りダボダボだった着ぐるみがパツパツの着ぐるみに変わっている
拓朗は鉄二を見た。同時に鉄二も拓朗を見た。二人は笑いを堪えるのに必死だった。
その日から、両シスターは「キリンシスターズ」と呼ばれるようになった。
その夜。
「今日の演技、すっごくよかったですよー!」
拓朗は“樹木希林”シスターに言った。
「そぉ?私は首の長い方をしたかったんだけどね…」




