第394話 またやって来た、ゴールデンウィーク 37 最後の悪あがき
「私と闘って死にたかった? それは戦う事が生きる目的だった彼女が望んだ死に様だからですか?」
シエラの問いにレイアは頷く。
「ああ、戦う事が生きる目的だったヴァレンティアにとっては、戦いの中で死ぬのが理想なんだ」
「それはわかりますが、何故私なのですか? 純粋なヴァンパイア族の多くはハーフである私を嫌っているはずなのに、いくら戦いの中で死にたいと言っても嫌いな相手は選ばないはずでは?」
シエラは思った疑問をレイアに言う。
「お前の言う理想の戦いの死に様は、自分が認めた相手と全力で戦って死ぬ事じゃないのか?」
「ええ、それが理想的な戦いの死に様だと思うのですが、まさか彼女の理想の死に様は違うと?」
「ああ、こいつの場合は自分が最も嫌っている相手との全力の戦いでの死だったんだ」
レイアの言葉にシエラとリズは目を見開いて驚く。
「戦争じゃ相手は殺す気で来る、そうでなければこっちがやられるからだ、こいつの中では戦いは殺意、敵意などと言ったものが定着している、好敵手とか敵を称賛したりとかこいつの中ではそういうイメージがないんだ」
「この世界でハーフの私を見つけた、だから私に殺気を向けたのですか、ちょっと待ってください、全力の戦いで死にたがっていたと言う事は、私の実力に気づいていたのですか?」
「おそらくな、戦う事が日常だったこいつにとってシエラの実力がわからないわけがない」
「まさかとは思いますが、私に全力を出させるために執拗に混ざり物の出来損ないと言い続けていたのですか? 自分が望む全力の戦いで死ぬために」
「はっ、半分はそうだが、もう半分は本当にお前の事が嫌いで認める気がないから混ざり物の出来損ないって言い続けたんだよ、まさか覚醒まで使えるとは思わなかったけどな」
「何だか、腹が立ちますね」
ヴァレンティアの思惑通りに乗せられた気がしてシエラはムスッとする。
「まんまと乗せられたよ、ヴァレンティア、僕の力にも気づいていたんだろ?」
「当然だ、こんだけ近くにいて気づかない方がおかしいだろ? こいつほどの実力者がお前に対する強い忠誠心、どれほどなのか実際に見て感じたかった、だからお前を煽ったのさ」
「父も母も姉貴も甘いと思ったのは本当なんだろ? 好き勝手言ってくれたな、僕を怒らせるには十分だ」
「おかげでお前の強さを直に感じられた、あそこまでとは思わなかったよ、出来損ないが恐ろしいバケモノになりやがって、元とは言えお前の父の配下だったんだぞ? 容赦なしかよ、おまけに恐怖で柄にもなく敬語なんて使っちまったよ」
「僕は裏切者に容赦しない、現に僕は一人、ハイトを殺したからな」
「ハイト? ああ、あいつか、確か魔道具を作る才能があったな、だがあいつが作ったのは戦場で多くの命を奪う魔道具ばかりだったな、お前の祖父だったら評価したが、お前の父親は命を奪うのを良しとしなかったから、あいつの作った物は全部評価されなかったのを覚えているよ、そのせいであいつも歪んだのかもな」
「ハイトですか、懐かしい名前ですね」
「何だ? 知り合いか?」
「昔、行く当てがなかったところをお父様に拾われたのに裏切った男ですよ、そのせいで私達家族は大変な目に会いましたが、レイアお姉ちゃんによって救われました」
ヴァレンティアの問いにそっぽを向いてシエラは答える。
「あいつもまた、お前と同じように戦いの中でしか自分の存在価値を証明できないと思い込んでしまった、ある意味被害者なのかもな」
「はっ、どのみち裏切りに変わりはないだろ、逆に安心したかもな、さてと、私も最後の悪あがきでもするか、良いかよく聞け、私に依頼した奴はな、がはっ!!」
言った瞬間ヴァレンティアは血を吐く。
「ヴァレンティア!!」
「はっ!! 自分でもわかってるさ、これ以上言うと命を落とす事くらいな、だがあいつらの良いように利用されるのが気に入らない、私のプライドが許さない、だから言うのさ、レイア、お前はレイラの娘を守ると言ったな? その娘の命を狙う者が、例え神であったとしても、お前は守るのか?」
「神だと?」
「ああそうだ、ローブを羽織っていた二人組、ぐふっ!! はあ、はあ、その内の一人は神だ」
「それは本当か?」
「ああ、間違いないさ、お前の祖父がまだ生きていた時にな、一度だけ神族と名乗る者と出会ってるんだよ、私もその時一緒にいた」
「祖父は神族と会っていたのか?」
姉のレイラを殺したのは神か女神という可能性があり、二人組の一人が神というのは予想していたからヴァレンティアの口から出ても大して驚かなかったが、レイアの祖父が神と会っていたのは知らなかったので、ヴァレンティアの口から話された事にレイアは驚く。
「そうさ、神族、女神族は滅多な事では姿を現さない、だがお前の祖父は手当たり次第に平穏に暮らしている魔族達の住処を蹂躙していったからな、魔族のバランスが崩れる可能性があると判断した神族の一人が警告をしに来たんだよ、その時にその神族から感じた魔力と同じようなものをローブを羽織った一人から感じた、がはっ!!」
「ヴァレンティア、もういい、これ以上喋ると本当に命を落とすぞ!!」
「はあ、はあ、自分の理想の死に様ができなかったんだ、だったらせめて自分が認めた相手に全てを話して死んでやる、良いか、一人はおそらく神族だ、がふっ!! そしてもう一人は、リズ、お前の知り合いかもな、がはっ!!」
「私の知り合いですって?」
「そうだ、そいつはお前と似た魔力を持っていた、似た魔力を持っているのは家族ぐらいだ、もう一人は、お前の家族じゃないのか? がはっ!!」
「私と似た魔力で家族・・・・・・まさか」
ヴァレンティアの言葉でリズは二人組のうちの一人が誰なのかに気づき始める。
「はあ、はあ、私が知っているのはこれで全部だ、精々役に立てるように頑張るんだな」
「ヴァレンティア」
「そんな顔してんじゃねえよ、お前は魔王だろ? 元配下の事なんか切り捨てろよ」
「ああ、そうだな」
「はは、良い顔じゃねえか、あーあ、お前がこんなバケモノになるってわかってたら配下のままでいたかもな」
「そうか」
「おい、お前」
ヴァレンティアはシエラに向かって言う。
「混ざり物の出来損ないだけど、お前は認めてやるよ、魔王の右腕シエラ」
その言葉を言い終えた瞬間首が下を向きヴァレンティアは動かなくなった。
すぐにイゴールが向かいヴァレンティアを確認する。
「・・・・・・亡くなられてますね」
「そうか」
イゴールの言葉にレイアはただそう返すのだった。
読んでいただきありがとうございます。
レイア達は敵の正体について貴重な情報を手にしたかもしれません。
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