第393話 またやって来た、ゴールデンウィーク 36 魔王が問う、気づく過ち
「ヴァレンティア、質問に答えてもらうぞ、まず、そのヴァンパイア族でもありえない力はどうやって手に入れた?」
レイアはヴァレンティアに問う。
「ある人物から力を与えてもらいました」
「与えてもらった?」
「はい、その力は一度受けた攻撃に対して瞬時に再生し、同じ攻撃が二度と通用しないように強化されます」
「なるほど、シエラから聞いた通りの力だな、それで、その力はどうやって手に入れた?」
「ある日、私の前にローブを羽織った二人組が来てその時に」
「ローブを羽織った二人? お前その二人から誰かを殺せと命令されたか?」
「そう言えば、誰かの娘を殺せって言われたような、そのための力を与えてやると言われて」
「リズ」
「はい」
レイアに言われてリズはスマホを渡す。
「お前が殺せと言われた娘ってこの子の事か?」
「確かにこの子だったような」
ヴァレンティアが頷くとレイアはスマホを見る。
そこに映っていたのは真理亜である。
「やはり、ローブを羽織った二人組とは真理亜の命を狙う者達か、それでこの二人について何か知っているか?」
「・・・・・・」
「ヴァレンティア?」
「どうやら、時間切れみたいだな」
「何を言ってる?」
レイアが疑問に思っているとヴァレンティアは突然血を吐き出す。
「ヴァレンティア!? どうした!?」
「あの二人の内の一人に言われたんだよ、この力を与える代わりに自分達に少しでも関する事を話す度に命が削られると」
「何だと!?」
「はは、こんな間抜けな死に方なんてしたくなかったんだけどな」
「何でそんな力を手にしたんだ?」
「さあな、何でだろうな、今となってはわからない、自分が何をしたかったのかも、ただ何となく力を手に入れたんだろうな、全てがどうでも良くなったのかもしれないな」
「どういう事だ?」
「私はさっきお前の祖父の事が良いと言っただろ? その通りだ、私は本当に強さこそが全て、強さこそが正義だと思っているんだ、それは今も同じだ」
「・・・・・・そういう事か」
ヴァレンティアの言葉でレイアは理解する。
「ヴァレンティア、お前、死にたかったんだな?」
「死にたかったか、確かにそれが一番しっくり来るな」
「レイア様、どういう事ですか?」
「こいつは、もう戦いの中でしか生きて行けなくなってしまったんだ、お前だってさっき言ってただろ、こいつは戦いの中でしか己の価値を見いだせないって」
「確かに言いましたが」
リズは確かにそう言ったがそれとヴァレンティアが死にたがっている理由が繋がらず、理解できなかった。
「祖父が魔王だった時代は魔王同士の戦いが当たり前のようになっていたと聞いた、その中でこいつはずっと寝ても覚めても相手と殺し合う日々を送っていた、それがこいつにとっての当たり前、生きていくのに必要な行動になっていたんだ、それが突然争いをやめて殺し合う事ができなくなった、こいつにとって生きる事に必要だったものがなくなりこいつの中で大きな穴が空いてしまったんだ」
「なるほど、彼女にとっての生きる目的がなくなってしまったと言う事ですね」
イゴールの言葉にレイアは頷く。
「この世界にもそういう人間はいました、仕事一筋で生きたが定年を迎えて仕事がなくなり、何もする事がなくなった途端に無気力になってしまった人を、目的がなくなった事で次は何を目的に生きて行けばいいのかわからなくなってしまうんですよ、そういう人は酷い場合生きている事自体が苦痛に感じて自ら命を絶つ事もあるそうです、そういう人を何人も見てきました」
「そうだ、こいつは戦う事が目的だったんだ、戦う事が自分が生きている証でもあったんだ、それがなくなった事でこいつは生きる意味がわからなくなってしまった、だからこいつは争いを好まない父とは反発した、勝手に敵対している者達の領地を襲ったのも、そうしなければ自分がおかしくなってしまいそうだったからだ」
「それでは、ヴァレンティアが勝手に敵対している者達の領地を襲撃していたのは、一種の生存本能による行動だと?」
「そうだ、だが父がヴァレンティアを幽閉した事により、何もできずに長い時間を過ごした事でヴァレンティアの精神が少しずつおかしくなっていった、そしてあの日謀反を犯した者達に解放されるが、その時にはもう手遅れになっていたんだ」
話し終えるとレイアは悔しさで強く歯を食いしばっていた。
「父は間違った選択をしてしまった、本当は幽閉すべきじゃなかったんだ、何でも良いからやらせるべきだったんだ、新たな目的を持たせるために、戦い以外の事を根気よく教えるべきだったんだ」
「レイアお姉ちゃん、もしかして私と闘ったのは」
「ああ、おそらくお前と戦って死にたかったんだ」
シエラの問いにレイアは静かに答えるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
ヴァレンティアの目的に気づいてしまったレイア、果たしてどうなるのでしょうか。
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