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第377話 またやって来た、ゴールデンウィーク 20 勝負の終

「旨かった、ごちそうさま」


 真央がそう言うと目の前には食べ終えて皿だけが残っていた。


「・・・・・・はあ」


 郁恵はその場でイスに座り込む。


「大丈夫か?」


「ああ、勝負の最中は何ともなかったが終わって一気に気力が抜けたってところだね」


「そうか、なら良かった」


「アンタの勝ちだね、ありがとね、あたしの全力の相手をしてくれて」


「最後だと言ってたから花と持たせると言う選択もあったが、あなたはそう言うのは望まないと思ったから全力で勝ちにいかせてもらった」


「それが正解だよ、情けで勝ってもあたしは嬉しくないからね、逆に限界まで全てを出して負けて気分が良いよ、正直悔いはないよ、アンタ達はどうだい?」


 郁恵が店主達に問う。


「ああ、満足だ」


「あの時出し切れなかった分、全部出し切ったからな」


「けど、また負けちまったな」


「でも、不完全燃焼じゃないよな」


「ああ、全部出し切れた」


「限界を迎えたわね」


「ええ、負けたのに最高の気分よ」


「ったく、ジジイが柄にもねえ事したもんだ」


「でも、昔の忙し過ぎた日々に帰ったみたいだったよ」


 店主達も全員が敗北したのに満足気な顔をしていた。


「そうかい、そりゃ何よりだよ、真央」


「ん?」


「あたしの最後の客がアンタで良かったよ」


「どういたしまして」


 郁恵が手を差し出すと真央も手を出してお互いを称えるように握手をする。


「あ、終わった?」


「ん?」


 声のする方を見ると女性が郁恵に話し掛ける。


「いつの間にいたんだい?」


「お母さんが他の店主さん達と色々なお好み焼きを出してる時からよ」


「何だ見てたのかい、声を掛ければ良かったのに」


「あんなに楽しそうにお好み焼きを焼くのに集中しているお母さんに声なんて掛けられないよ」


「ん? あたしそんなに楽しそうにしてたかい?」


「してたよ、小さい頃に見た忙しいのに楽しそうにしていたあの時みたいに」


「そうかい、だとしたらこの子のおかげだね」


「その子がお母さんの言っていた子ね、本当に実在したのね」


「何だと思ったんだい」


「お母さんがとうとうボケたのかと思ってたわ」


「親に向かって何を言ってるんだい」


 不機嫌に言う郁恵を余所に女性が真央に向く。


「真央ちゃんだったっけ? ごめんねお母さんにつき合わせて」


「いえ」


「お母さんから聞いた時はとても信じられなかったけど、実際に見ても信じられないわ、本当にその小さな身体のどこにそんなに入るのって思うんだもん」


「はは」


 郁恵の娘の言葉に真央はただ渇いた笑いを上げるだけだった。


「ところで、三人は静かだなと思ってたらお好み焼き食べてたんだな」


「ええ、まあただ見てるだけだと飽きてしまって」


「君の食べている姿を見てたら僕達も食べたくなってね」


「で、ちょうど娘夫婦さん達が来たから旦那さんのお好み焼きを食べて色々感想を言ってたってわけさ」


 真央の問いに三人はお好み焼きを食べながら答える。

 お好み焼きを焼いていた旦那も真央に気づいたのか一礼すると真央も一礼を返す。


「おばあちゃん」


 保育園児くらいの女の子が郁恵に近づき郁恵も笑顔でその子を抱っこする。

 郁恵の孫である。


「おばあちゃん、すごかった」


「そうかい、おばあちゃん凄かったかい? でも負けちゃったよ」


「このおねえちゃんもたくさんたべてすごかった」


「ああ、このお姉ちゃんは凄いんだよ」


 孫の言葉に郁恵は笑顔で答える。

 そんな二人の光景を見て真央も他の店主達、しかも普段不愛想な顔をしているカツ丼屋の店主ですら自然と笑みを浮かべていた。


「さてと真央、アンタは私に勝ったんだ、この街始まって以来の特大メニューを全制覇した、アンタに渡したい物がある、アレを持って来てくれ」


「あ、やっとアレが役立つ時が来たのね」


 郁恵の娘がやれやれと言いながら奥の方へ向かい戻って来ると何かを持っていた。


「はい、これをどうぞ」


「これは?」


 真央は手渡された物を見る。

 それは大きなトロフィーだった。

 

「あたし等が飲食店で特大メニューを出した時にもし全ての飲食店の特大メニューを制覇する者が現れたらそれを渡そうと思ったんだよ」


「これを見た時はさすがにお母さんもどうかしたって思ったわよ」


「あの時は何か勢いで作っちゃったんだよ、けど無駄にならなくて結果オーライだろ?」


「まさか本当にこれを渡せる人が来るなんて思わなかったわよ、しかもその相手がこんな小さな子だなんて誰が想像できたのよ」


 郁恵の娘の言葉にその場にいた人達も確かにと言いたげに頷く。


「とにかくだ、アンタはこの街の飲食店の特大メニューを出す店を全部制覇したんだ、そのトロフィーが証だよ、貰っておくれ」


「なら遠慮なく貰うよ、こんなのを貰ったのは初めてだな、悪くないな」


「そうかい、何だったらついでに写真を撮ろうじゃないか、全員集合しな」


「じゃあ、私が撮りますよ、店主さん達も一緒にどうぞ」


 このみがカメラを持ち真央が真ん中でトロフィーを持ち郁恵や他の店主達が周りに立ち写真を撮るのだった。


「記念に店に飾るけど良いかい?」


「ああ、好きにして構わないさ」


 こうして真央の大食い勝負の物語は終わりを迎えるのだった。










~後日~


「食べた分の料金はこれで足りるか?」


「アンタお金持ちだったのかい、あとそんなにいらないから」


 勝負とは言え郁恵の店のお好み焼きを全部食べたのを申し訳なく感じた真央は後日リズを連れてトランク一杯にお金を入れて持って来たが郁恵はそんなにいらないと言い使った材料費分だけを貰い後は二人が持って帰るのだった。


 とにもかくにも真央の大食い勝負は終わったのだった。





 


 



読んでいただきありがとうございます。


これにて大食い勝負シリーズは終わりです。

それでも物語はまだまだ続きます。


面白ければブクマと評価をよろしくお願いします。

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