第363話 またやって来た、ゴールデンウィーク 6 修行 3
レイアの前に現れた大きなイノシシ。
しかし普通のイノシシよりもかなり大きなイノシシだった。
「普通の大人のイノシシよりも一際大きいな」
「ブモッ」
イノシシはレイアを見据えている。
「お前」
レイアはイノシシを見て何かを感じ取る。
「そうか、お前はこの山に住む主だな? しかも相当な歳を取っている」
「ブモォ」
「良いだろう、来い」
レイアは構えを取る。
「ブモォォー!!」
イノシシは地面を蹴ってレイアに突進する。
巨大な身体が勢いをつけてレイアに直撃する。
「ブモッ!?」
「良い突進だな」
レイアはイノシシの突進を受け止めそのまま放り投げる。
「ブモォ!!」
イノシシはすぐに立ち上がり再び勢いをつけるために前足で地面を蹴る動作をする。
「まだやるか、そうだよな、お前は長い時ここの主をしていたんだからな、簡単には終われないよな」
「ブモォォ!!」
イノシシは再び突進する。
レイアは再び受け止めるがさっきよりも勢いがあるのか少し後ろに押されるが持ち上げ再び放り投げる。
「ブモォ」
「来い、最後のその時まで僕が相手になってやる」
「ブモォォ!!!」
その後もイノシシは立ち上がりレイアに突進をしていき、レイアはそれを受け止めてイノシシを放り投げるのを繰り返すのだった。
「ブモッ、ブモッ」
何度も放り投げられてイノシシは息を荒げて今にも力尽きそうだった。
「・・・・・・」
レイアはイノシシにゆっくりと近づく。
「ブモォ」
イノシシは近づいて来るレイアに突進せずにただじっと見つめている。
レイアはイノシシの前まで来て両手でイノシシの鼻に手を当てて敬うように撫でる。
「お前は、この山に住む主であり、ずっとこの山で最強の座に君臨していたんだな」
「ブモ」
「だが、お前はもう年だ寿命が来たんだろ、お前は孤高の存在、この山に住む動物達の頂点に立つ存在、誇り高き存在だからこそ、せめてその最期の時も誰にも見られずにひっそりと終えるつもりだったんだろ?」
「ブモ」
レイアの言葉が伝わったのかイノシシは首を縦に振る動作をする。
「すまない、この場所をお前の最期の時を過ごす場所に選んだのに、僕が邪魔をしてしまったようだ、すまない事をした」
「ブモ、ブモォ、ブモ」
「どうした?」
イノシシはレイアに何かを伝えようと鳴き声を出す。
「待ってろ、確か梓美の作った動物の言葉がわかる機械があったはずだ」
レイアは動物の言葉がわかる機械を取り出す。
以前動物の言葉がわかる機械の完成度を見てレイアは魔物言葉もわかるんじゃないかと思って梓美に一つもらえないかをダメもとで言ったらすんなりと新しいの作ってもらったのであった。
「これをつけてっと、さあ、喋ってみろ」
レイアはイノシシに言葉を話すよう促す。
「ブモォ」
『気にするな』
機械にイノシシの言葉が表示される。
「ブモブモ」
『お前の言う通り、俺の命はもう短い』
「やはりか」
「ブモォ、ブモブモ、ブモォ」
『俺の最期は誰にも看取られずに一匹で終わらせるつもりだった、静かな場所を求めていた』
「主であるお前は誇り高き存在なんだな」
「ブモォ、ブモォ」
『だが、お前を見た時に俺はただこのまま静かに終わらせて良いのかと思った』
「ブモブモ、ブモモォ」
『お前を見た時、俺は初めて自分より強い生物に会った』
「ブモォ、ブモォ」
『俺は主としてこの山に君臨した、だからそんな俺の最期は強い生物との戦いで満足して逝きたかった』
「ブモォ、ブモ」
『だが結局この山に俺より強い生物はいなかった、だがお前が現れた』
「ブモォ、ブモモォ、ブモォ」
『その時俺は思った、この強い生物と戦って最期を迎えたいと、お前は俺との戦いに答えてくれた』
「ああ、お前を見た時、お前の目は何か強い信念のようなものを感じた、だからお前との戦いを選んだ」
レイアはイノシシの鼻を手で撫でながら答える。
「ブモォ」
『感謝する』
「気にするな、それよりお前はこれで満足なのか?」
レイアはイノシシに問う。
「ブモォ」
『ああ、満足だ』
「そうか」
レイアは笑みを浮かべる。
「ブモォ、ブモ」
『別れの時だ』
「ああ」
「ブモブモ、ブモォ」
『最後に頼みがある』
「何だ?」
「ブモォ」
『俺を食ってくれ』
「わかった」
レイアは頷く。
「ブモォ、ブモモォ」
『感謝する、お前のような強者の血肉になれるのなら、本望だ』
「ブモォォー!!!」
イノシシは天にも届くほどの鳴き声を上げてそのまま動かなくなった。
「最期まで倒れずに君臨するか、山の主よ、どうか安らかに」
レイアはイノシシに敬意を表すのだった。
読んでいただきありがとうございます。
山の主は野生の勘でレイアの凄さに気づいてたようです。
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