第362話 またやって来た、ゴールデンウィーク 5 修行 2
「さてと」
レイアは背負って来たリュックの中に入れてきた道着を取り出して着替える。
「リズが修行の時は大抵これを着て修行をすると言っていたが、確かに気合が入りそうだな」
道着に着替え終えたレイアは靴を脱ぎ裸足になって水に足を入れる。
「おお、ひんやりしているな」
滝の近くだからかとても冷たいがレイアはそのまま滝に向かって行く。
近づく度に滝の音が激しくなってくる。
「近くで見ると凄いな」
レイアは滝の中に入りそのまま目を閉じて滝に打たれて精神統一をする。
(漫画とかで修行と言ったら滝に打たれるのが多いが、なるほど、冷たい水で全身を冷やす事で冷静になれるし、色々と考える事ができるな)
全身に水の冷たさが休む間もなく駆け巡るので常に自分を冷静にしてくれる。
(それにしてもかなり冷たいな、夏場でも冷たいと思うし、冬場にこれをする人達ってどんな気持ちでやってるのだろうか、今でも冷たいと感じるんだから、冬なんて相当寒いぞ、物凄く寒い思いをしてまでやる意味があるのだろうか?)
全身が冷たくなるので何故冬場でもやる人がいるのか、レイアはどうでもいいような疑問が出て来る。
(って、雑念でやってたら意味ないじゃないか、余計な事を考えずにただ集中しなければ)
雑念を考えていては精神統一の意味がないと気づいたレイアは再度精神を集中して滝に打たれるのだった。
(しかし、修行なんていつぶりだろうか、僕が変わるきっかけにもなったあの時以来か)
レイアは昔を思い出していた。
(僕が家出してしまった日、あの日から全てが変わったな、僕は強くなりたいと修行をしていたな、そう、修行、を?)
ここでふとレイアは疑問に思う。
(修行・・・・・・だったのか? アレを修行と呼べたのか? むしろ地獄じゃないのか? 正直今思い返して見ると、何度も死ぬかと思った事があったぞ)
レイアはあの時の修行の日々を思い出して何とも言えなくなるのだった。
(あいつら面白がって色々な修行をつけさせていたな、まあそのおかげで今の僕ができたが、本当に何度死んだと思った事か)
思い返して見てもかつての受けた修行をレイアは修行と言えるかわからなかった。
(そう言えば、あいつら今何してるんだろうか? 修行を終えてから会う事もなくなったが)
修行の事を思い返していると修行をしてくれたレイアの師匠と言える者達の事もレイアは気になるのだった。
(まあ、あいつらがあの場所に複数人でいる事自体マズいんだから、今頃自分達のいる場所で隠居でもしてるんだろうな、あいつら代替わりして暇だったって言ってたし、ってまた雑念だらけでやってたな)
雑念だらけでまた滝に打たれた事に気づいたレイアは今度こそ集中するのだった。
「・・・・・・」
集中した事で滝の音が聞こえなくなり他の音がよく聞こえるようになった。
風で木々が揺れる音、水の流れる音、水の中で泳ぐ魚の音、草むらを移動する野生動物の音。
様々な音が聞こえるようになった。
(色々な音が聞こえる、今空を鳥が飛んでいるな)
レイアの思った通りに空を鳥が数羽飛んでいる。
(もうすぐ魚が跳ねるな、狙うなら今か)
レイアがそう思ったと同時に魚が跳ね、そこを逃さずに鳥がくわえて去って行く。
(良い感じに集中できているな、そして、何か来る)
レイアが目を開けると草むらが大きく揺れる。
「出迎えるか」
滝行を一旦やめ、レイアは大きく揺れている草むらの前に立つ。
「出て来たらどうだ? 相手になってやるぞ」
レイアの問いに答えるように草むらから何かが出て来る。
「ブモォ」
出て来たのは、巨大なイノシシだった。
読んでいただきありがとうございます。
修行と言ったら、という奴です。
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