第323話 魔王様一向、観光 リーザロッテ 3
「ほう、外からでもわかったが中は随分賑やかじゃな」
遊園地の中に入ったリーザロッテは大勢の客を見ながら言う。
「何から乗りたいですか?」
「ふむ、最初じゃから何か迫力のありそうなものにしたいのじゃ」
「それじゃあ、定番のアレですね」
セレナはリーザロッテを連れて行く。
並んでいる行列に並びしばらくして自分達の番が来たため二人はその乗り物に乗るのだった。
「セレナよ、これは何じゃ?」
「ジェットコースターです」
「ジェットコースターとな?」
「物凄い勢いで移動する乗り物とでも思ってください、遊園地の定番の絶叫マシンですから、しかも一番前だから相当凄いと思いますよ」
「ほう、まああまり期待せずにしておくのじゃ」
二人が会話をしているとジェットコースターが発射する。
「何じゃ、物凄いと言っている割には随分とゆっくりじゃな」
「最初はゆっくりで後から凄い事になりますから」
「だと良いがな」
そんな事を言っているとジェットコースターは上に向かって移動する。
「やけに上に向かっておるが」
「はい、ここから勢いよく下に行きます」
「まさかとは思うが今上に向かっている距離と同じくらいの距離で下に行くのか?」
「はい、その通りです」
そしてジェットコースターは頂上にまで到達する。
「ん? 何故止まったのじゃ?」
しかしそれも一瞬の事でそのまま勢いよくジェットコースターは下に向かって行く。
『きゃー!!』
『うわー!!』
スピードを上げていくジェットコースターに乗っている男性と女性が声を上げる。
「きゃー!!」
「おおー!?」
セレナも楽しそうに声を上げるがリーザロッテは驚きの声を上げる。
どうやら自分の想像以上の速さだったのだろう。
「どうでしたか?」
ジェットコースターから降りたセレナはリーザロッテに感想を聞く。
「・・・・・・」
「リーザロッテ様?」
「見事じゃ」
「え?」
「素晴らしいのじゃ!! 何と面白いものなのじゃ!!」
リーザロッテは子供のように目を輝かせている。
「何じゃこの面白い乗り物は!! 乗り物など馬車ぐらいしか乗った事がないし、しかも道が悪いと揺れたりして退屈なものじゃったが、これは想像以上じゃ!! 久しぶりに感情が高ぶっておるのじゃ」
「喜んでいただけたなら良かったです」
「他にもまだありそうじゃ、どんどん乗るのじゃ」
子供のようにはしゃぐリーザロッテは走り出す。
「あ、待ってください」
保護者のようにセレナはリーザロッテの後を追うのだった。
そしてここからは色々な乗り物に乗る。
「おお、上下に動くし周っている実に面白いのじゃ」
メリーゴーランドの上下の動きと同時に周っている事にリーザロッテはおかしくも楽しんでいる。
「グルグル回っておるのじゃ、よく見ると他の人間が乗っているのが妾達のよりも早く回っておるが?」
「ああ、それは真ん中の丸いのを回しているんですよ」
「そうか、これを回せば早く回るのか、ならもっと回すのじゃ」
リーザロッテは真ん中にある丸いのを両手で掴んで回すと思いっきり回り出す。
「はっはっは!! 早く回っておるのじゃ!! コーヒーカップと言ったかのう、実に楽しいのじゃもっと回すのじゃ!!」
「ちょ、リーザロッテ様、そんなに回さなくても、目が回りそうですー!!」
リーザロッテが楽しそうに回しているとあまりにも早いのかセレナは目を回しそうになる。
「はふう~」
コーヒーカップから降りたセレナは目を回している。
「いやー、楽しいのじゃ、次はどれにしようかのう」
「できれば大人しいものでお願いします」
「む? あれは何じゃ?」
「え? ああ、あれはお化け屋敷ですね」
「それは何じゃ?」
「中に入って進んで行くとお化けの格好をした人達がお客さんを驚かすような所ですね」
「ほう。驚かすとは面白いのじゃ妾が試してやるのじゃ」
「ここのお化け屋敷かなり怖いらしいですよ、テレビでも全国の怖いお化け屋敷で上位に入ってましたから」
「それは楽しみじゃ」
二人はお化け屋敷の列へと並ぶのだった。
「出て来る人間達は震えている者も多くいるのじゃ」
「それほど怖いって事ですね」
「お化けと言っても所詮人間が作った物、そんなに大した事はないじゃろ」
そんな事を言いながら自分の番が来た二人はお化け屋敷に入って行くのだった。
それから時間が経ち二人はお化け屋敷から出て来る。
「いやー、中々怖かったですね」
「セレナよ、妾は正直人間界の人間達をまだ舐めていた事を身を持って知ったのじゃ」
お化け屋敷から出て来たセレナとリーザロッテはどこか気分の悪い顔をしていた。
「まさか、この妾が人間達に驚く日が来るとは思いもしなかったのじゃ、何度もこの建物を怖そうになってしまったのじゃ、踏み止まった妾を褒めてやりたいのじゃ」
「そうですね、それはとても素晴らしいと思います」
「人間達が怖がる理由がわかったのじゃ」
「さすがテレビでも紹介されるだけありますね」
「どこかで休みたいのじゃ」
「では、ちょうどお腹も空いたのであそこの飲食店で休みましょう」
リーザロッテは椅子にで座っているとセレナは色々飲食を買って来て机の上に乗せる。
「取りあえず、色々買って来たのでどうぞ」
「ふむ、中々美味しそうな匂いなのじゃ」
リーザロッテは手始めに目の前にあったホットドッグを手に取り一口食べる。
「ん、これは中々美味なのじゃ、しかもこの赤い血のような真っ赤なものが酸味があるがクセになりそうじゃ」
「ケチャップと言うトマトを使って作られた調味料ですね」
「ケチャップ、面白い名前じゃな、それにこのパンも柔らかくて良いしこれはソーセージじゃな、まさかパンに挟んで食うとは考えた事もなかったのじゃ」
「私も最初に見た時は衝撃を受けましたね、他のもどうぞ」
「遠慮なくいただくのじゃ」
リーザロッテは目の前の飲食を食べていく。
「これは、肉か?」
「フライドチキンですね、肉を衣で包んで油で揚げたものですね」
「衣? 肉を包んでいるこれの事か、こんなの妾達の世界にあるか?」
「私は見た事ありませんけど、探せばどこかにあるかもしれませんね」
「そうか、ん、このたくさんの棒みたいな物は何じゃ? サクサクして美味なのじゃ」
「フライドポテトですね、ジャガイモから作られたそうですよ」
「ジャガイモかアレがまさかこんな美味なものになるとは」
「飲み物もどうぞ、ストローその穴の開いている棒を加えて軽く吸うだけで飲めますよ」
「この棒はそう言う役割があったのか、ほう、酸味と甘味がちょうど良い感じに混ざり合っていて美味なのじゃ、このお菓子も美味なのじゃ」
「チュリトスですね、プレーンとチョコの二つがありますよ」
「はあー、中々良い食事じゃった」
「喜んでもらえて良かったです」
「さてと、次は何に乗ろうかのう、まだまだ乗り足りないのじゃ」
「まだまだ時間はありますから、お付き合いしますよ」
「ぜひ頼むのじゃ」
その後も二人は色々な乗り物を楽しみ、最後に観覧車に乗る事になった。
「ほう、これは良いのじゃ、街があんなに小さく見えるのじゃ」
「ここからの眺めは良いですね」
窓の景色を見ながら観覧車を楽しむ二人。
「セレナ」
「はい」
「今日は楽しかった礼を言う」
「いえ、そんな」
「妾が元とは言え人間と一緒にいてこんなに楽しいと思えたのは初めてじゃ、下等生物だと思っていた人間とじゃ、不思議な事もあるものじゃ」
「リーザロッテ様」
「ここは平和な世界じゃな、争いなどない」
「そうでもありませんよ、少なからず戦争をしている国もありますし、この国だって犯罪で命を落とす事件も多くあります」
「それでも、妾達の世界と比べると少ない方じゃろ?」
「それは、そうですが」
「妾達の世界は今も魔族と人間が戦争を行っておるのじゃ、どちらも退かずにな」
そう言い虚しさを感じさせる顔をしながらセレナは窓の景色を見る。
「レイアは自分の領地に攻めて来た人間達を殺さずに追い返す程度で終えている、姉のレイラが人間とも友好関係を持った方が良いと言う考えを持っていたからレイアもレイラほどじゃないが人間をできるだけ殺さないように配下に命じていたそうじゃ」
「私も実際に会うまでは魔王は人間を蹂躙し支配する存在だと思ってました」
「そうか」
そこで話が途切れ二人の間に沈黙が流れる。
「セレナよ」
「はい」
「妾達魔族と人間は、わかり合えると思うか?」
「それは」
セレナはリーザロッテの問いに言葉を詰まらせる。
元の世界では今も魔族と人間の戦いは続いているからこそリーザロッテの問いに簡単に答える事ができないのだった。
「すまぬな、ただの戯言だと思ってくれ、そろそろつくのじゃ」
「はい」
観覧車が一周しセレナとリーザロッテは降りるのだった。
「もう、日が暮れそうじゃな、シエラが待っているから帰るとするか」
「そうですね」
二人はそのまま遊園地を出て帰るのだった。
少し元の世界についての不満もあるがそれでも今日と言う日は楽しい思い出だったのは間違いないのであった。
読んでいただきありがとうございます。
同時に投稿している作品「スキルホルダーの少女達」もよろしくお願いします。