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第304話 新たに生まれる命 後編

「彩音、雪音!! 大変だ!!」


 朝になり沙月が大声で叫ぶ。


「どうしたの、さっちゃん?」


「さっき、電話があって産まれそうだって!!」


「え!?」


 沙月の言葉に彩音は驚く。


「え、う、産まれる!? 産まれるの!?」


「ああ、陣痛が起きて、今先生達に運ばれて産んでいる最中だ!!」


「ど、どどどど、どうしようさっちゃん!! 私どうしたらー!!」


「落ち着け!! お前が産むわけじゃないんだから!!」


 彩音を落ち着かせようとするが沙月も動揺している。


「と、取りあえず、お湯を用意して出産用の本を持って」


「さっちゃんも落ち着いて!!」


「そ、そうだ、私がやるわけじゃないんだった、落ち着いて深呼吸して、ひっひっふー、ひっひっふー」


「それ妊婦の呼吸だよ!!」


「あや姉、さつ姉」


 落ち着かない彩音と沙月と違い雪音は、冷静に二人を呼ぶ。


「二人共落ち着くんだ、今私達が騒いでも何も状況は、変わらないぞ」


「あ、うん」


「そ、そうだな」


 雪音のあまりにも冷静な対応に彩音と沙月も冷静になる。


「今日は、休みだからとにかく病院に行くか」


「そうだね、病院に行ってお父さんと会おう」


「そうと決まったら、早速行動だ」


「じゃあ、まずは、朝食を食べるぞ」


 彩音達は、朝食を食べ病院に行く準備をするのだった。


「よし、準備できたか?」


「オッケーだよ」


「私も行けるぞ」


「と言うわけで姉ちゃん彩音と雪音と一緒に病院行ってくるよ」


「病院に行くの? じゃあもう少し待ってて、そろそろ来るから?」


「え?」


 卯月の言葉に沙月が疑問に思っていると、インターホンが鳴る。

 確認すると卯月の担当編集の伊藤真澄であった。


「先生、原稿を取りに来ました」


「真澄さん、原稿はできてるから頼みを聞いてくれない」


「何ですか?」


 卯月は、真澄に沙月達を車で病院に送ってほしいと頼み現在沙月達は、真澄の車で病院に向かっている。


「うちの姉がすいません」


「真澄さん、ありがとうございます」


「ありがとう、お姉さん」


「いえ、あなた達には、先生の作品に貢献させてもらってますしこれくらいお安い御用ですよ、この先の病院で良いんですね?」


「あ、はい、確かにあの病院です」


 彩音に言われ真澄は、病院に入り駐車場に車を止める。


「私は、ここで待ってますね」


「ありがとうございます、じゃあ行くぞ」


「うん」


「おう」


 沙月達は、車を降りて病院に入り受付に彩音と雪音の母親の家族だと伝え看護師さんに案内してもらうとそこには、彩音と雪音の父親が立って待っていた。


「お父さん」


「彩音、雪音、それに沙月ちゃん」


 彩音の父は、彩音達に気づき傍に寄る。


「お母さんは?」


「まだ、出産している途中だよ」


「じゃあ、私達もここで待ってるよ」


「そうか、わかった」


 彩音達は、彩音の父と一緒に待っている。


「沙月ちゃん、彩音と雪音の面倒を見てくれてありがとうね」


「いえ、大丈夫ですよ、それよりおばさんは大丈夫なんですか?」


「どうだろうね、彩名は、大丈夫だと言ってたけど、こう言う時父親の僕は、ただ祈って待つ事しかできないから情けない話だよ」


「おじさんがいてくれているってわかるだけでもおばさんは、安心して赤ちゃんを産む事に専念できてると思いますよ」


「そうだと僕も嬉しいよ」


「ねえ、お父さん」


「何だい、雪音?」

 

 彩音と雪音の父直行は、雪音の言葉に耳を傾ける。


「私、赤ちゃんが生まれたら赤ちゃんと仲良くなれるか不安だったんだ」


「え?」


「昨日あや姉と話したの、赤ちゃんが生まれたらお父さんもお母さんも弱い赤ちゃんを気遣って私の相手をする事があまりできなくなっちゃうって、だから私お父さんとお母さんを取っちゃう赤ちゃんと仲良くなれるのかわからないんだ、でもあや姉は、私があや姉からお父さんとお母さんを取られても私のお姉ちゃんだって事は、変わらないって言ってくれた、だから私も赤ちゃんのお姉ちゃんだって事を忘れなければ、私もお姉ちゃんとして大丈夫かな?」


「雪音」


 雪音の言葉に彩音は、どう声を掛けて良いかわからなかったが雪音の思いは、確かに伝わっていた。

 雪音の言葉を聞いた直行は、雪音の頭を優しく撫でた。


「お姉ちゃんになる意思ができている、それがお姉ちゃんになるために最初に必要な事だよ」


「最初に?」


「ああ、どんなに幼い子供でも家族に赤ちゃんが生まれたらお兄ちゃん、お姉ちゃんになってしまうんだ、これは、誰にも否定できない事実だからね」


「うん」


「でも雪音だってまだ子供だ、お姉ちゃんになってもまだ子供なんだ、だから赤ちゃんと仲良くできるかわからない、喧嘩もしてしまうかもしれないそんなの当たり前の事だでもそう言うのを通して仲良くなっていくんだ、だから雪音も喧嘩してもその後赤ちゃんともっと仲良くなっていけば良い、焦らなくて良いんだ」


「うん」


 雪音と直行が話していると赤ちゃんの泣き声が聞こえて来た。


「あ、赤ちゃんの泣き声」


「生まれたんだな」


 扉が開き中から看護師さんが出て来る。


「おめでとうございます、元気な女の子ですよ、母子ともに容態も問題ありません」


「あ、ありがとうございます」


 直行が看護師に頭を下げて礼を言う。


「おお、女の子、妹か、私の妹か」


「そうだよ雪音、妹だよ」


「これで、雪音もお姉ちゃんだな」


 彩音達は、赤ちゃんが無事に生まれた事に安堵するのだった。

 それから数日して彩音の母親彩名がいる病室に彩音達家族が来ていた。


「おお、赤ちゃんだ、あや姉凄くかわいいぞ」


「うん、そうだね」


「身体は、大丈夫かい?」


「ええ、大丈夫よ、私もこの子も健康だってさ」


 そう言って彩名は、赤ちゃんを抱いている。

 母親に抱かれている赤ちゃんは、ぐっすりと眠っている。


「お母さん、名前は決めたの?」


「ええ、風音(かざね)よ」


 彩音の問いに彩名は、答える。


「風音、良い名前だね」


「本当は、あの子につけたかった名前なの」


「そうか、あの子の名前をこの子につけたんだね」


「ええ」


「あの子って私のお姉ちゃんかお兄ちゃん?」


「そうよ、彩音のお姉ちゃんかお兄ちゃんになる子だった子に考えていた名前よ」


 彩名が言うあの子とは、彩音が生まれる前に身籠った子で流産してしまった子の事である。


「・・・・・・」


 雪音は、風音を見て手を伸ばそうとしたり引っ込めたりを繰り返している。


「雪音、触ってみる?」


「え?」


「赤ちゃんに触れたそうな顔をしてたわよ」


「う、うん」


 雪音は、恐る恐る風音の頬に触れる。


「おお、凄く柔らかいぞ」


「そうね、赤ちゃんの肌は、とても柔らかいのよ」


 雪音が風音の頬に触れてると風音の手が雪音の指を掴む。


「雪音の事、お姉ちゃんだと思ってるわね」


「お母さん」


「ん?」


「私まだ子供だから風音と仲良くなれるかもわからないし、風音と喧嘩したり風音に怒ったりしたり風音を泣かせたりするかもしれない、それでも私風音のお姉ちゃんになれるかな? こんなお姉ちゃんでも風音のお姉ちゃんになって大丈夫かな?」


「ええ、大丈夫よ」


 彩名は、雪音の頭を撫でて言う。


「それで良いのよ、雪音は子供で風音は赤ちゃんなんだから、喧嘩したり泣かせてしまうのも当然よ、でもねそうやって兄弟姉妹って仲良くなっていくんだとお母さんは思うわ、だから雪音もそうやって風音を守れるお姉ちゃんになってね」


「うん、私風音を守れる強いお姉ちゃんになる」


 加藤家に新たな家族、加藤風音(かとうかざね)が産まれた。

 彩音達が風音をかわいがっていると窓の外から風が吹いて桜の花が風音の手に乗った。

 その風は、まるで風音の誕生を祝福するかのような心地良い風の音だった。



 


 

読んでいただきありがとうございます

同時に投稿している作品「スキルホルダーの少女達」もよろしくお願いします。

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