第280話 クリスマスの夜
「おお、空を飛んでる」
「ふぉっふぉっふぉ、落ちないように気をつけるんだよ」
トナカイに引っ張られながらソリの上から下を覗き込んでいる真央。
その景色に真央は、内心興奮していた。
「ん? サンタ達がそれぞれに散っていくな」
「ああ、彼等は、それぞれの国に向かったのさ」
「こんなくらい夜なのにわかるのか?」
「心配ないさ、ほれ一番前のトナカイを見てごらん」
サンタに言われ真央は、一番前のトナカイを見る。
見ると一番前のトナカイだけ鼻が赤く光っていて夜道を照らしている。
「真っ赤な鼻に生まれたトナカイは、一番前に立って他のトナカイ達を先導する役目があるのさ、あのトナカイのおかげでワシ等は、迷わずに行けるのさ」
「なるほど、そう言えばトナカイの歌でそんなのがあったな」
「さあ、これからワシ等も日本各地を回るぞ」
「それは、そうと気になったんだが、後ろにいるあのサンタは、何なんだ?」
真央は、後ろのサンタを指差す。
そのサンタは、普通のサンタと違い黒い服を着ていた。
「ああ、ブラックサンタだな」
「ブラックサンタ?」
「ワシ等サンタは、良い子にプレゼントを配ると言われているだろ?」
「うん」
「しかし、中には、イジワルやイタズラなどをする悪い子達もいるのさ、残念な事にそう言った悪い子達には、ブラックサンタが行くのさ」
「悪い子用のサンタか、まるで世紀末に出て来そうな顔つきだな、トナカイも鋭い目つきをしてるな、まるで歴戦の猛者みたいだな」
真央の言う通りブラックサンタもそのトナカイも鋭い目つきをしていてさらに顔に傷跡もある。
間違いなく良い子が見たら泣き出すだろう。
「ブラックサンタって悪い子達にどんな事をするんだ?」
「そうだな、まず寝ている悪い子を叩き起こす」
「え?」
「その後、その悪い子を一時間ぐらい説教する、しかも相手がちゃんと聞いていない時は、ゲンコツして頭を叩いてさらに説教する」
「おおう」
「そしてその後その悪い子が持っていたおもちゃを全て袋に詰めて持って帰る」
「まさかのプレゼントを持ち去る」
「これにより悪い子は、二度と悪い事をしないように心を入れ替えて良い子になる事が多いんだ」
「結構効果的なんだな、まあ今まで貰ったおもちゃが全部持ち去られたら嫌でもそうなるか」
「そうなんだよ、でも悲しい事に毎年そう言う悪い子がいるから、ブラックサンタも毎回おもちゃを取り上げて、そのおもちゃをどうしたら良いか困っているって言ってたよ」
「なるほど、取ったまでは、良いがその後の処分に困るのか」
「まあ、心を入れ替えて良い子になってくれたらその年のクリスマスに全部返しに行くって事に決めたんだけどね」
「良いと思うな」
「さて、そろそろ日本に着くぞ」
サンタと話している間に日本支部のサンタ達は、日本に到着する。
するとサンタ達は、さらにそれぞれの担当の場所へと散っていく。
当然ブラックサンタも悪い子達の家に向かう。
「さて、ワシの担当は、この辺だな、さあ仕事をしようか」
サンタは、担当場所の各家に向かう。
「そう言えば、サンタの仕事って何をするんだ?」
「おお、そう言えば言ってなかったな、まあ実際見た方が早い」
サンタは、最初の家に到着する。
家の二階の部屋の窓にソリを近づけると、窓の中には、寝ている子供がいる。
「さてとプレゼントは、うむもう置かれているな、さて」
サンタは、プレゼントに向けて手をかざす。
するとサンタの手が光る。
「それは、魔法か?」
「まあ、そんなものだ、これは、私が見たいものに手をかざすとその中にあるものが見えるようになるんだこれによりプレゼントが何なのかを見るんだ、しかも物だけでは、なく人間にかざせば記憶を見る事もできるぞ」
「ほう、それで?」
「そして、次にあの子の記憶を見て今年のクリスマスプレゼントが合っているかを確認するんだ」
サンタは、今度は、子供の方に手をかざす。
「ふむ、ちゃんと合っているな、ここは、大丈夫だ、さあ次へ行こうか」
「もう良いのか?」
「ああ、ワシ等サンタの仕事は、ちゃんと子供のプレゼントが合っているか、を確認するのが仕事だからな、そのプレゼントがなんで置かれているかは、まあ君ならもうわかっているだろ?」
「そうだな、これ以上は、口に出さない方が良いな、色々と」
「そう、世の中知らない方が幸せな事もあるのさ、さあ次に行こう」
こうしてサンタは、次の子供の家に向かう。
「おや、この子のプレゼント少し欠けているぞ」
「朝起きて開けたら新品のはずが僅かに欠けている、嫌な気分になるな」
「その通り、だからこうしてほいっと」
サンタが手をかざすと今度は、置かれているプレゼントが光り出す。
「今度は、何をしたんだ?」
「あのプレゼントを新品の状態にしたのさ、これで朝プレゼントを開けても新品の綺麗な状態を見る事ができて幸せだ」
「あの子も喜ぶな」
「うむ、それでは、どんどん行こうか」
サンタは、次の子供の家に向かう。
「ん? ここの子供のプレゼント間違っておるぞ」
「そうなのか?」
「この子は、新しく発売したゲームソフトが欲しかったのにそのソフトが全く違うソフトだぞ」
「それは、マズいな」
「ん? 記憶を見ると親がちゃんと確認してないな、全く毎年こうやって確認を怠る親もおるからな、それが原因でクリスマスに大喧嘩した親子も見て来たわい」
「おめでたい日に親子喧嘩は、避けたいな」
「その通り、だからこうするのさ」
サンタは、プレゼントに手をかざすとサンタの手元にプレゼントが出て来た。
「今度は、何だ?」
「あそこにあったプレゼントとあの子が本当に欲しかったプレゼントを交換したのさ今ワシの手元にあるのがさっきあそこにあった間違ったプレゼントだ」
「これで親子喧嘩は、避けられるな、次に行くのか?」
「いや、この子の親の元に行こう」
「え?」
サンタは、今度は、その子の親の元に行く。
「ふむ、寝ているな」
「何をするんだ?」
「あの親に今日の夢は、嫌な夢にする」
「どんな夢だ?」
「間違ったプレゼントを与えて朝から大喧嘩して嫌な気分になる夢さ妙にリアリティーのある夢だからちょっとした悪夢さ」
「サンタがする事なのか?」
「こうする事で来年は、ちゃんと欲しいものを確認して間違えないようにするようになったんだ、サンタは、幸せだけでなく時には、心を鬼にする事もするのさ」
「サンタも大変なんだな」
「そう言う事だ、さあ、まだまだ確認しなきゃいけない家は、たくさんあるぞ」
その後も真央は、サンタと一緒に子供達の家を見て回る。
プレゼントが合っているか、プレゼントが壊れていないか、プレゼントが間違っていないかその確認をしていく。
すると次の家では、子供がまだ起きていた。
「まだ寝ないでいるな」
「どうやらサンタが来るまで起きているみたいだ、そう言う子も毎年いるからね、でもサンタは、人間の子供に見られては、ダメなんだ」
「サンタと行動している子供達は、良いのか?」
「あの子達にとっては、夢だからセーフだよ、それに君は、特別だろ?」
「まあ、そうなるな」
「まあワシは、特にこの世界に迷惑を掛けないなら気にしないさ」
「そうか」
「さて、次に行きたい所だがどうやら彼がいる所に来てしまったようだ」
「彼って、あ、ブラックサンタ」
次の子供の家に向かおうとしたらその隣の家には、ブラックサンタがいた。
「ちょっと聞いたけど具体的にどんな感じにやってるんだ」
「うーむ、子供には、あまり見せたくない光景だがまあ君なら良いだろう、ちょっと覗いて見るか」
真央とサンタは、ブラックサンタのソリの隣に止めて中を見る。
すると中では、子供にゲンコツをしてさらに子供を正座させてガミガミと叱っているブラックサンタがいた。
「凄いな、子供が正座しながらわんわん泣いてるぞ、あ、泣いてる子供を黙らせるためにさらにゲンコツをした」
「泣き止まないとゲンコツをやめないぞって感じだな、今時の悪い子には、アレくらいやらないとダメだと言う事だな、子供に暴力を振るうのは、今の世の中では、良くないそうだけど相手がいるかいないかわからないサンタならそんなの関係ないからな」
「子供が泣き止んでさらに説教が始まったな、どれくらいやる気なんだ?」
「ブラックサンタ次第だろうな、さてとワシ等は、こっちの良い子の家を見に行こう」
「そうだな」
真央とサンタは、隣の家に戻り子供のプレゼントを確認し、行こうとするとちょうどブラックサンタが出て来た。
ブラックサンタの方には、大きな袋があった。
ブラックサンタが去った後、気になって中を見ると、ブラックサンタにゲンコツされ説教されていた子供がわんわん泣いていた。
さらによく見ると、本棚にあった漫画やおもちゃにゲーム類などがすっからかんになって何もかもなくなっていた。
おそらくブラックサンタが持っていたあの袋の中に。
「あの子にとっては、最悪のクリスマスだな」
「かわいそうだが、子供でも悪い子には、罰が下ると言う事だろう」
「・・・・・・次に行こうか」
「そうだな、ワシ等には、まだ行かなければならない所が残ってるからな」
かわいそうに思いながらも真央とサンタは、その場を後にするのだった。
そして全ての家の子供達のプレゼントを確認し終えた真央とサンタは、サンタ達が集まっている場所に集合する。
「さて、今年の仕事も無事に終わったな」
「サンタの仕事ってこう言う感じなんだな、そしてブラックサンタ達は、凄いな」
真央は、ブラックサンタ達を見る。
すると一人一人がかなり大きな袋を持っている。
つまりそれだけ今年は、いたと言う事だろう。
「さて、君ももうすぐ目が覚める時間だが君は、プレゼントを何も頼んでいないよね」
「ああ、特に欲しいものがなかったからな」
「どうだい、何か頼んでみたら」
「うーん」
真央は、しばらく考える。
「じゃあ、何か一人でも皆でも楽しめるものを頼むよ」
「一人でも皆でも楽しめるものか、じゃあアレが良いだろう、目が覚めたら近くに置いてあるから気に入ってくれると良いけど、まあ楽しみにしておいてくれ」
「そうか、ありがとう」
「じゃあ、そろそろお別れの時間だね、それじゃあね」
「ああ、さようなら」
真央がお別れの挨拶を言うと辺りが光に包まれる。
「ん」
目を開けるとそこは、レイアの住んでるマンションの天井が見える。
「アレは、夢だったのかそれとも現実だったのか、不思議な事もあるものだ」
レイアは、感慨深そうに思う。
と思っていると隣にプレゼントの箱が置いてある。
「サンタの言っていたプレゼントは、コレの事か」
レイアは、プレゼントを手に持つ。
「おはようございます、レイア様」
「ああ、おはようリズ」
「ああ、私からのプレゼントに気づきましたね」
「ん? お前が用意したのか?」
「はい、今日は、クリスマスと言うのでサンタクロースと言う人物からプレゼントを貰うと言われていたので私もレイア様にプレゼントを置かせてもらいました、気に入っていただけると良いのですが」
レイアは、プレゼントを開ける。
「これは、ゲーム機とゲームソフトか」
「はい、最新のゲーム機とソフトは、真理亜様達が皆持っていると聞いたものをいくつか用意しました」
「そうか」
サンタと一緒に行動したのは、本当に夢だったのかそれとも現実だったのか、その答えは、考えてもわからない。
この世には、常識で説明がつかない事が多くある。
レイアが体験した事ももしかしたら常識で説明できないだけで現実だったのかもしれない。
そんな不思議な体験をしたクリスマスであった。
読んでいただきありがとうございます。
同時に投稿している作品「Sランク冒険者の彼女が高ランクの魔物の討伐依頼を受ける理由」もよろしくお願いします。