第229話 運動会 14 騎馬戦 5
茜の作戦により逃げ場を失い囲まれてしまう状況になってしまった。
しかし、真央達は、なおも移動し続け、やがてその動きを止め振り向く。
見ると多くの白組の騎馬達がいた。
「茜様、敵は、動きを止めました」
「あら、どうやら追い詰めたようですわね」
「しかも、自ら隅の方に移動したみたいですよ」
「隅の方に行くなんて勝負を諦めたんでしょうね」
「茜様、このまま全軍を突撃させましょう」
「ええ、そうですわね、わざわざ隅の方に移動するなんて」
そこまで言って茜は、違和感を感じた。
(おかしいですわ、どうしてわざわざ隅の方に移動したのかしら、そのまま真っ直ぐ行って逃げていたのにどうして急に方向を変えて隅の方に?)
茜は、考えを巡らせる。
確かに追われていたならそのまま真っ直ぐ逃げるのに何故か急に方向を変えてそして自ら逃げ場がない隅の方に移動したそれがただの諦めだとは、茜には、どうしてもしっくり来ていなかった。
(もしも、隅の方に行くのが彼女達の作戦だとしたら)
「これだけの人数ならいくら宇界さんでも無理ね」
「皆で一斉に行くよ」
「突撃ー!!」
「皆さん、お待ちなさい!!」
茜が止めるが一足遅かった。
騎馬達が一斉に真央に向かって行く。
「え?」
ところが一瞬にして前の方にいた騎馬達の騎手の鉢巻が奪われた。
「このまま、進め」
「「「了解」」」
真央達は、前に進み次々と目の前にいる敵の鉢巻を奪う。
やがて敵の数が減っていき敵の陣形が崩された。
「まんまとやられましたわ」
「茜様これは、一体?」
「彼女達は、わざと隅の方に移動したのですわ」
「わざと?」
「どうしてそんな事を?」
「普通にあのまま行けば、前方だけでなく横から追い詰められる状況になりますが、隅の方に行けば横側は、線から出てしまうのでそちら側からは、行けず必然的に前方からの方向しか攻められなくなりますわ、しかもそのせいで一気に攻められる人数が限られてしまいますわ」
茜は、そう説明する。
真央達は、普通にそのまま真っ直ぐ行けば、エリアの線を背にして背後から迫られる事は、ないが前方と両側の三方向から責められてしまう。
そうなればいくら真央が強くても三方向から一斉に大人数で攻められれば、必ずどれかの騎馬によって鉢巻を奪われてしまうだろう。
しかし、隅の方に行けば線を背にして後方から狙われるのを防ぐだけでなく、横側も線に近い位置のため相手は、攻める事ができず、前方の一方向からしか攻められない状況になる。
そして目の前の敵だけに集中するなら真央は、確実に敵を倒す事ができる。
一対一なら確実に勝てる者が大人数を相手にした時どうやって戦えば良いか。
その答えは、単純に一対一の状況に持ち込ませれば良いだけの事。
真央達は、そう言う状況を作る事に成功したのだ。
「司令塔は、おそらく彼女だ、このまま敵を殲滅させて一気に倒す」
「殲滅って、これ運動会の競技だよな?」
「真央姉さんに続けえー!!」
「もう誰も私達を止められないよぉ!!」
「って、二人もなんか流れに乗ってないか!?」
真央達は、そのまま目の前に行く白組の鉢巻を次々と奪っていき、茜に迫っていく。
「な、いつの間にここまで!?」
「茜様をお守りしなければ!!」
「私達の命に代えても!!」
「お待ちなさい、あなた達!!」
逃げようとする茜の騎馬をしている子達を茜は、止める。
「このまま逃げても、彼女に目をつけられたならどこまでも追いかけて来ますわ」
「しかし、茜様」
「それに、皆わたくしの指示に従って動いてくれたのですよ、なのに危険になったらわたくし一人だけ逃げるなんてできるわけないですわ」
「そんな、何をおっしゃるのですか!?」
「茜様さえ生きていれば、必ず再び逆転できます!!」
「あなた達の気持ちは、嬉しいですわ、でも、もう遅いですわ」
「「「え?」」」
見ると茜の前には、真央がいた。
「どのみちもう逃げ場などありませんわ、こうなれば覚悟を決めますわ、ましてや、わたくしの指示に従って動いてくれた方達がやられて自分だけ逃げるなどできませんわ、あなた達覚悟を決めなさい!!」
「承知しました、茜様」
「私達も覚悟を決めます」
「生きる時も死ぬ時も茜様と共に」
「感謝しますわ」
茜は、覚悟を決めた顔で真央を見る。
「さあ、来なさい!! 相手になりますわ!!」
「なら、行くぞ」
茜の覚悟を感じた真央は、真っ向から向かって行く。
全神経を研ぎ澄ませ茜は、真央の動きに集中する。
(普通に戦って勝てる相手では、ありませんわ、全神経を集中しなさい、一瞬の瞬きもダメ)
真央の手が茜に向かっていく。
茜は、それを受け止めもう片方の手で真央の鉢巻を取ろうとする。
しかし、真央は、難なく払い茜の鉢巻を奪う。
(速い!!)
茜は、その速さに反応できず鉢巻を奪われてしまった。
「お見事ですわ、宇界さん」
茜は、真央の事を素直に称賛する。
「いや、お前の作戦は、悪くなかった、見事だと言うほどにな」
「え?」
「さらに、自分に従ってくれた者達が倒されても自分一人だけ逃げずに最後まで戦おうとした、お前は、人の上に立ち率いていく素質があると思う、お前は、良いものを持っている大事にして間違えずに育てよ」
真央は、そう言って去っていく。
「全く、あの方は、一体何者なのかしら、とても同い年には、思えませんわ」
「茜様」
「今回は、素直に負けを認めますわ、この敗北がわたくしをさらに成長させてくれますもの、ですがまだ負けたわけでは、ありませんわ、白組には、まだ彼女がいますもの」
茜は、真央を見ながら言うのだった。
「さて、そろそろ最後の戦いだな」
真央は、そう言って目の前を見る。
そこには、一組の騎馬がいた。
「・・・・・・」
その騎馬に乗っていたのは、真央が最も警戒していた田村ミーシャだった。
いよいよ騎馬戦も最終局面に入るのだった。
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同時に投稿している作品「Sランク冒険者の彼女が高ランクの魔物の討伐依頼を受ける理由」もよろしくお願いします。




