第222話 運動会 7 借り物競争
『続きまして全学年による借り物競争です』
白組が大きくリードした状態で次の競技借り物競争が始まる。
『各学年の出場選手は、準備をしてください』
「私の出番だな」
梓美が立ち上がる。
「梓美さん、頑張ってください」
「眼鏡だったら私の所に来な、貸してやるから」
「そうさせてもらうよ」
「猫だったら私の所に来てねぇ、ぽん丸がいるから」
「にゃあー」
亜子は、ぽん丸を抱き上げて言う。
「そうさせてもら・・・ってぽん丸を連れて来たのかよ」
「あずみ~ん、私の嫁~」
「誰が嫁だ」
梓美は、スタート地点に向かうのだった。
スタート地点に着き梓美は、準備をする。
「位置について、よーい」
パンッ。
一斉にスタートする。
梓美は、運動は、平均なため良くも悪くも平均の位置をキープしている。
(運動があまり得意でない私は、普通のリレーなら負けていた、だがこれは、借り物競争、借り物の紙を取りいかにそれを早く手に入れる、私が勝つには、それしかない)
梓美は、借り物が書かれている紙を拾う。
(あらかじめ、周りを見てどこに何があるかは、大体把握した、なんでも来るが良い)
梓美は、折りたたまれた紙を開く。
「こ、これは」
梓美は、紙に書かれた内容を見て一瞬止まるがすぐに行動に移り、亜子達のいる場所に行く。
「亜子」
「んー? どしたのあずみん?」
「私と一緒に来い」
「え? もしかしてあずみん、愛の逃避行? ならどこまでもついて行くよぉ」
「いいから、早く来い」
梓美は、亜子の手を強引に引っ張り連れて行く。
他の子達は、まだ借り物に苦戦しているため、そのまま梓美は、亜子を連れてゴールする。
『さあ、ここでゴールです』
『一位でゴールしても借り物がお題と合っていなければ、意味がないけど、どうなるか』
『さて、お題とは、何なのでしょうか?』
「じゃあ、お題を教えて」
山岡先生が梓美に問う。
「わかりました、亜子」
「なーにー?」
梓美は、亜子に向く。
「良いか、一度しか言わないから、その耳を澄ませてよおく聞け」
「んー?」
「亜子、好きだ」
「ッ!!」
梓美の告白に亜子は、乙女のような顔をして驚く。
『・・・・・・』
そしてその光景は、大スクリーンに映っていたのでその場の時間が止まったかのような感覚を受けた。
『え、どういう事ですか?』
実況をしている一条先生がその沈黙を破るように口を開く。
「違うんです、一条先生先生!! だって紙に書いてあったから」
一条先生の言葉に梓美は、必死に否定するように言う。
『山岡先生、なんて書いてあったのですか?』
山岡先生は、紙を大スクリーンに映るように見せる。
禁断の愛。
紙には、そう書かれていた。
『いや、なんですかこれ!?』
『あ、それ私が書いたのだ』
柳瀬先生が大スクリーンに映ったのを見て言う。
『何を書いてるんですか!?』
『いや、だって普通の借り物だけだと面白くないかと思って』
『だからってなんで禁断の愛なんですか!?』
『こう言う予想外な事が起きた時に即座に対応できるかどうかをするため、大人になったらこう言う予想外な事態は、当たり前のように起きるからね』
『いや、早くないですか!? まだ子供ですよ!!』
『子供、子供と我々大人が思っているよりも早く成長しているものだよ』
『だからって、いきなり禁断の愛ですか!!』
『いやー、見事なものでしたね、あの子、一条先生の生徒でしょ? ちゃんとそのお題にある物を持って来たのですから、一条先生の教育の賜物ですね』
『いや、そう言う大人の教育は、まだしてませんよ!! と言うかそのお題のせいで南条さん凄く困ってるんですからね!!』
見ると梓美は、とても困っていた。
何故なら亜子が告白された事により、顔を赤らめ乙女のような顔になっているからだ。
「亜子違うからな、これは、お題に書いてあっただけで」
「そ、そんな、あずみんにいきなりそんなこと言われても、困るよ」
「おい、なに最近の作品とかによくある、ヒロイン達が主人公の優しさに惹かれるような、ちょろい反応をする奴みたいになってるんだ」
「私も、あずみんの事嫁だとか言ってたけど、まさかあずみんもそうだったなんて思わなくて」
「だから違うって言ってるだろ!! お前ちょろインってポジションじゃないだろ!! いつものあのふざけた感じは、どこ行った?」
「でも、あずみんがその気なら、私本当にそっちに目覚めても良いよ?」
「いやなに顔を赤くしてるんだよ!! 目を細めるなよ!! うるっとした上目使いをするなよ!! いつもの調子に戻れよ!!」
「ねえ、あずみん」
亜子は、梓美に近づき自分の両手を梓美の両手に絡ませるように繋ぐ。
「亜子」
亜子と梓美の顔は、近づいていく。
「えーい!!」
梓美は、咄嗟に手を解き両手で亜子の顔を掴む。
「戻ってこんかーい!!!」
思いっきり亜子のおでこに頭突きをする。
「いったーい!! てあれ、あずみん?」
亜子は、額を両手で押さえて梓美を見る。
「戻ったか」
梓美も同じく両手で額を押さえている。
「あれ、あずみんどうしたの? そう言えば、私何か凄く嬉しい事があった気がするけど、うーんここ数分の記憶が思い出せないねぇ、あずみん何か知ってる?」
「いや、何も知らないぞ、忘れてるなら大した事じゃないだろ、ほら私が一位になったから戻るぞ」
「おお、やったね、あずみん、さすが私の嫁」
「誰が嫁だ」
亜子と梓美は、真央達のいる場所に戻って行く。
「なあ皆、今見た事は、忘れような、あの二人のためにも」
沙月の言葉に全員が暗黙の了解で頷くのだった。
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同時に投稿している作品「Sランク冒険者の彼女が高ランクの魔物の討伐依頼を受ける理由」もよろしくお願いします。




